表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赫刃  作者: あああ
PR
34/177

【第2章 第12話:記録者、“S”の影】

澪=クローデルのもとに届いた、宛名なき手紙。

そこに記されたたった一文――


「貴女の名を、私だけが“正しく記録したい”」

――S


その文字には、澪ですら無意識に目を細める“気配”があった。


それは、誰よりも冷たく、誰よりも狂っていた。


「誰かが……わたしを、記録しようとしてる」


それだけは、赫刃が教えてくれた。


鞘の中で震えた刃は、澪に“違和”と“拒絶”を伝えてくる。


「でも、“記録”って、どうやって……?」


翌日。


澪が教室に入ると、ひとつの異変が起きていた。


彼女の机の上に、魔導紙が置かれていたのだ。


誰も見ていない。

誰も置いた記憶がない。

だが、それは確かに“存在していた”。


そして、その紙に――こう記されていた。


澪=クローデル嬢

所属:黒澄公爵家末娘

所在:特待区画A-01

所持物:赫刃・無明(封印状態)

特徴:無感情、美貌、記録不能属性


まるで、“公式記録”のような構成だった。


「……これは……」


澪が指先で触れた瞬間、紙は燃えなかった。

文字も消えなかった。


それは、赫刃が“反応しなかった”ことを意味していた。


「この文字……赫刃が、拒んでない?」


その時、澪の背後から声がした。


「ようこそ、“記録の檻”へ」


振り返ると、そこに立っていたのは――

記録学上級課程、筆頭次席生。


セリアス=シュレッド。


王都出身の天才記録士であり、貴族社会の情報掌握を一手に担う家系の継承者。

彼こそが、“S”の名を持つ者だった。


「君のことを、ずっと見ていた。

 記録されないのに、存在し続ける君を。

 それは、記録術に携わる者として……最高の誘惑だった」


セリアスは狂気をまとった瞳で、澪を見た。


「私は、君を“完全に記録する”。

 それが、“この時代最大の記録者”としての使命だと思っている」


「……勝手にすれば」


「だが、君は拒絶できない。

 私の“記録”は、記されることなく君の記憶に侵入するからだ」


その言葉通り、澪の視界が――歪んだ。


瞬間、記憶にない光景が脳内を駆け巡る。


かつて戦場で斬り伏せた鬼たち。

名もなき村で燃えた家々。

赫刃に刻まれた“酒呑童子”の記憶の断片――


それらが、記録という形で澪の脳に逆流してきた。


「……やめて」


澪が低く呟いた。


「それは、わたしが見た記憶じゃない。

 わたしの中にあるけど――“わたしのものじゃない”」


「それでも、記す。君が拒むほどに――記録者としての価値が高まる」


セリアスは、狂気的な熱に浮かされながら、言った。


「君のすべてを、“記録”という名で捕まえてみせる」


その瞬間。


澪の中で、赫刃が――応えた。


抜刀ではない。

ただ、存在の奥底から響くような、警告の脈動。


セリアスの記録魔術が、燃えた。


空間が焦げ、魔導文字が散り、彼の手から魔導筆が砕け落ちる。


「……私を“捕まえる”なんて、

 一番くだらない定義だと思うよ」


澪の瞳が、わずかに紅く光った。


「私は、“記される側”じゃない。

 記録されそうになったら――“その記録ごと、消す”だけ」


赫刃は、何もせずに、セリアスの全てを拒絶していた。


記録を、記憶を、観測すらも。


セリアスは立ち尽くしたまま、口元を歪めて笑った。


「やはり、君は“最高の存在”だ。

 記録されることを拒むことで、永遠に記録される……」


その狂気は、もはや信仰にも近かった。


澪はその姿を一瞥し、背を向けた。


彼女の記録は残らなかった。

だが、セリアスの記録も――すべて“赫刃に焼かれた”。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ