【第2章 第12話:記録者、“S”の影】
澪=クローデルのもとに届いた、宛名なき手紙。
そこに記されたたった一文――
「貴女の名を、私だけが“正しく記録したい”」
――S
その文字には、澪ですら無意識に目を細める“気配”があった。
それは、誰よりも冷たく、誰よりも狂っていた。
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「誰かが……わたしを、記録しようとしてる」
それだけは、赫刃が教えてくれた。
鞘の中で震えた刃は、澪に“違和”と“拒絶”を伝えてくる。
「でも、“記録”って、どうやって……?」
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翌日。
澪が教室に入ると、ひとつの異変が起きていた。
彼女の机の上に、魔導紙が置かれていたのだ。
誰も見ていない。
誰も置いた記憶がない。
だが、それは確かに“存在していた”。
そして、その紙に――こう記されていた。
澪=クローデル嬢
所属:黒澄公爵家末娘
所在:特待区画A-01
所持物:赫刃・無明(封印状態)
特徴:無感情、美貌、記録不能属性
まるで、“公式記録”のような構成だった。
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「……これは……」
澪が指先で触れた瞬間、紙は燃えなかった。
文字も消えなかった。
それは、赫刃が“反応しなかった”ことを意味していた。
「この文字……赫刃が、拒んでない?」
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その時、澪の背後から声がした。
「ようこそ、“記録の檻”へ」
振り返ると、そこに立っていたのは――
記録学上級課程、筆頭次席生。
セリアス=シュレッド。
王都出身の天才記録士であり、貴族社会の情報掌握を一手に担う家系の継承者。
彼こそが、“S”の名を持つ者だった。
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「君のことを、ずっと見ていた。
記録されないのに、存在し続ける君を。
それは、記録術に携わる者として……最高の誘惑だった」
セリアスは狂気をまとった瞳で、澪を見た。
「私は、君を“完全に記録する”。
それが、“この時代最大の記録者”としての使命だと思っている」
「……勝手にすれば」
「だが、君は拒絶できない。
私の“記録”は、記されることなく君の記憶に侵入するからだ」
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その言葉通り、澪の視界が――歪んだ。
瞬間、記憶にない光景が脳内を駆け巡る。
かつて戦場で斬り伏せた鬼たち。
名もなき村で燃えた家々。
赫刃に刻まれた“酒呑童子”の記憶の断片――
それらが、記録という形で澪の脳に逆流してきた。
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「……やめて」
澪が低く呟いた。
「それは、わたしが見た記憶じゃない。
わたしの中にあるけど――“わたしのものじゃない”」
「それでも、記す。君が拒むほどに――記録者としての価値が高まる」
セリアスは、狂気的な熱に浮かされながら、言った。
「君のすべてを、“記録”という名で捕まえてみせる」
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その瞬間。
澪の中で、赫刃が――応えた。
抜刀ではない。
ただ、存在の奥底から響くような、警告の脈動。
セリアスの記録魔術が、燃えた。
空間が焦げ、魔導文字が散り、彼の手から魔導筆が砕け落ちる。
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「……私を“捕まえる”なんて、
一番くだらない定義だと思うよ」
澪の瞳が、わずかに紅く光った。
「私は、“記される側”じゃない。
記録されそうになったら――“その記録ごと、消す”だけ」
赫刃は、何もせずに、セリアスの全てを拒絶していた。
記録を、記憶を、観測すらも。
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セリアスは立ち尽くしたまま、口元を歪めて笑った。
「やはり、君は“最高の存在”だ。
記録されることを拒むことで、永遠に記録される……」
その狂気は、もはや信仰にも近かった。
澪はその姿を一瞥し、背を向けた。
彼女の記録は残らなかった。
だが、セリアスの記録も――すべて“赫刃に焼かれた”。




