【第2章 第11話:名前を呼んだ、その瞬間に】
学園の誰もが、澪=クローデルという存在を“記録できない”ことに慣れ始めていた。
だが、“慣れる”ことは、“理解した”こととは違う。
記録されない存在――
それは、逆に“意識しすぎる”対象でもあった。
そして、その“意識”は、いつしか“羨望”と“執着”へと形を変えていく。
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ある日。
貴族課程の人気者、クラヴィス=ロートリンが、
澪のすれ違いざまに、ふと呟いた。
「おい、お前。“澪”って呼ばれてるんだよな?」
澪は足を止めた。
彼の顔を見たわけでもない。
答えたわけでもない。
ただ――その一言の直後に、クラヴィスは、名前を忘れた。
自分の名前も、彼女の名前も、教室の場所すらも。
「え、あれ……? 俺、いま……何話して……?」
その場にいた全員が見ていた。
“澪という名を呼んだ者が、記録から外れていく”現象。
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その噂は、瞬く間に学園中に広がった。
「彼女の名を呼ぶな」
「記録されない者に触れると、記録から消える」
「逆に、名前を呼べた者は“選ばれし者”だ」
そう、まるで――信仰のように。
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「“澪さま”と呼べば、奇跡が起きるらしいよ」
「記録官が忘れた名前を、一言で取り戻したとか」
「禁書区画を通っても何も起こらなかったらしい」
そんな都市伝説めいた噂が生まれ始め、
いつの間にか澪の背後には、常に距離をとった“信者のような視線”が集まるようになっていた。
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澪本人は、それに対して――一切の反応を見せなかった。
ティナが心配そうに訊く。
「……嫌じゃないの?」
「嫌って言って、止まるなら、最初から誰も私を愛したりしないよ」
「でも、そんな風に崇められるのって――」
「崇められるのも、名前を忘れられるのも、どっちも同じ。
私は“名前を与えられる側”じゃない」
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その夜、澪の部屋に一通の手紙が届く。
手紙には、短く――
「貴女の名を、私だけが“正しく記録したい”」
――S
送り主は不明。だが、文面には高位記録術の暗号が仕込まれていた。
誰かが、“澪の名を記す”という禁忌に、手を伸ばそうとしている――。




