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赫刃  作者: あああ
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【第2章 第10話:赫刃、封じられし記録を焼く】

“赫ノ花”の顕現から数日後。

王立魔導学府グラン・アカデメイアの最上層、第5階層――禁書図書館にて、

かつてないほどの緊張が張り詰めていた。


そこに集まっていたのは、記録術の権威たち。


学院長アルシェ、禁書管理者ヘンリクス、魔術理論学部長カルダス。

そして、王家直属の記録官までもが召集されていた。


目的はひとつ。


「赫刃・無明」の正体を、“記録する”こと。



「これ以上、“存在しながら記されぬもの”を許せば、

 この学府そのものが“定義の塔”としての役割を失う」


カルダスがそう断言し、

慎重に選ばれた魔力筆と記録石盤が準備された。


被験者は――澪=クローデル。


彼女は静かに、石盤の前に立たされていた。


「……好きにすれば」


それだけ言って、彼女は赫刃を抜かずに鞘ごと机の上に置いた。


ヘンリクスが呟く。


「これは、記録ではなく――“観測の試み”だ。

 斬られる覚悟を持て」


そして、記録が始まった。


──筆が紙に触れる。


名称:赫刃・無明(通称)


形状:漆黒の長大太刀


所有者:澪=クローデル嬢


性質:定義不能/干渉不能/記録喰い


……その瞬間だった。


**


カッ。


**


空間が、赤く“染まった”。


記録石盤が赤熱化し、刻んだ魔力文字が、音もなく燃え始めた。


筆を握っていた記録官の手が、“消えた”。


焼けただれたのではない。存在が――“そこから除外された”。


「離れろッ!! 退避――!」


だが、その場にいた者たちは気づく。


“逃げる”という行為すら、赫刃の存在領域では“定義されない”。


走ること。叫ぶこと。恐れること。

すべてが、“名づけられなくなっていく”。


机の上にあった赫刃が、微かに鞘ごと動いた。


抜いていない。澪も命じていない。


ただ、それでも刃は“動いた”。


静かに、確かに――“記録そのものを焼き切った”。


その後、禁書図書館の一室は“存在しない空間”として封鎖された。


記録石盤は跡形もなく消失。

魔力筆は黒く炭化し、触れた者すべてが、“記録当日を忘れた”。


ただひとり、学院長アルシェだけが、ぽつりと呟いた。


「これが……“記録を焼く刃”か」


その夜、澪は自室で赫刃を撫でながら、ぼそりと呟いた。


「記録されることが、そんなに嫌?」


赫刃は、音を立てない。


けれど、澪は“応え”を受け取っていた。


「……私も、ちょっとだけわかるよ。

 記されると、存在が決まってしまう気がするから」


彼女はそっと、紙にひとことだけ書いた。


――赫刃


そして、自らの指でそれを破いた。


「だから私も、“記されること”は嫌い」


その瞬間、赫刃が微かに震えた。


それは――共鳴だった。


こうして、“赫刃・無明”は学園の記録からも、歴史からも、魔導理論からも――


完全に姿を消した。


だが、それでも澪の腰には、今もその刃が確かに在る。


“定義されぬまま、存在する”。

それが、赫ノ令嬢と赫刃の関係だった。


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