【第2章 第10話:赫刃、封じられし記録を焼く】
“赫ノ花”の顕現から数日後。
王立魔導学府の最上層、第5階層――禁書図書館にて、
かつてないほどの緊張が張り詰めていた。
そこに集まっていたのは、記録術の権威たち。
学院長アルシェ、禁書管理者ヘンリクス、魔術理論学部長カルダス。
そして、王家直属の記録官までもが召集されていた。
目的はひとつ。
「赫刃・無明」の正体を、“記録する”こと。
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「これ以上、“存在しながら記されぬもの”を許せば、
この学府そのものが“定義の塔”としての役割を失う」
カルダスがそう断言し、
慎重に選ばれた魔力筆と記録石盤が準備された。
被験者は――澪=クローデル。
彼女は静かに、石盤の前に立たされていた。
「……好きにすれば」
それだけ言って、彼女は赫刃を抜かずに鞘ごと机の上に置いた。
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ヘンリクスが呟く。
「これは、記録ではなく――“観測の試み”だ。
斬られる覚悟を持て」
そして、記録が始まった。
──筆が紙に触れる。
名称:赫刃・無明(通称)
形状:漆黒の長大太刀
所有者:澪=クローデル嬢
性質:定義不能/干渉不能/記録喰い
……その瞬間だった。
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カッ。
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空間が、赤く“染まった”。
記録石盤が赤熱化し、刻んだ魔力文字が、音もなく燃え始めた。
筆を握っていた記録官の手が、“消えた”。
焼けただれたのではない。存在が――“そこから除外された”。
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「離れろッ!! 退避――!」
だが、その場にいた者たちは気づく。
“逃げる”という行為すら、赫刃の存在領域では“定義されない”。
走ること。叫ぶこと。恐れること。
すべてが、“名づけられなくなっていく”。
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机の上にあった赫刃が、微かに鞘ごと動いた。
抜いていない。澪も命じていない。
ただ、それでも刃は“動いた”。
静かに、確かに――“記録そのものを焼き切った”。
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その後、禁書図書館の一室は“存在しない空間”として封鎖された。
記録石盤は跡形もなく消失。
魔力筆は黒く炭化し、触れた者すべてが、“記録当日を忘れた”。
ただひとり、学院長アルシェだけが、ぽつりと呟いた。
「これが……“記録を焼く刃”か」
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その夜、澪は自室で赫刃を撫でながら、ぼそりと呟いた。
「記録されることが、そんなに嫌?」
赫刃は、音を立てない。
けれど、澪は“応え”を受け取っていた。
「……私も、ちょっとだけわかるよ。
記されると、存在が決まってしまう気がするから」
彼女はそっと、紙にひとことだけ書いた。
――赫刃
そして、自らの指でそれを破いた。
「だから私も、“記されること”は嫌い」
その瞬間、赫刃が微かに震えた。
それは――共鳴だった。
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こうして、“赫刃・無明”は学園の記録からも、歴史からも、魔導理論からも――
完全に姿を消した。
だが、それでも澪の腰には、今もその刃が確かに在る。
“定義されぬまま、存在する”。
それが、赫ノ令嬢と赫刃の関係だった。




