【第2章 第7話:記録違反者としての査問会】
王立魔導学府。
その中枢には、“記録”を司る特別機関が存在する。
《魔導監査局》――
学園内で記録の齟齬、不正、魔術干渉などの異常を監視し、裁定する部署。
澪=クローデルは、そこで“初の査問対象”として召喚された。
罪状は明確だった。
「魔導記録網への干渉、術式崩壊の引き金となる存在」
「生徒・教員の名・記録・記憶に損傷を与えた可能性」
だが、これらの罪に――証拠がなかった。
なぜなら、記録が残っていなかったからだ。
•
「……澪=クローデル嬢。あなたに記録査問を行います」
査問官は三名。全員が上級魔導官、かつ記録魔術のエキスパート。
澪は静かに椅子に座り、口を閉じていた。
「あなたが在席した授業で、記録石が無効化された」
「複数の教師の認識に齟齬が発生した」
「デュエル試合の記録が消失した」
――それらすべての事象に、あなたはどう関与していたか?
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澪は、ほんの少しだけ首を傾げる。
「……私、何かしましたか?」
それは、嫌味でも開き直りでもない。
**“本当に、何もしていない”**という事実だけが、そこにあった。
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査問官の一人が、記録結界を展開する。
澪の発言・表情・反応・魔力量――すべてを記録する術式。
だが次の瞬間――
**
ザラ……ッ。
**
結界の魔導文字が、“白紙化”した。
記録が――“記される前に、失われた”。
「これは……!? 結界自体が、言語化を拒んでいる……!」
もう一人の査問官が別角度から詠唱を試みる。
「ならば、視覚記録だけでも――」
だが、水晶鏡に映った澪の姿が――“霞んだ”。
鏡面が震え、焦点が合わなくなる。
まるで、“観測そのもの”が否定されたように。
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その瞬間、澪が口を開いた。
「“誰かが私を記録しようとするたびに”、
なぜか赫刃が少しだけ震えるんです」
彼女は、鞘の上から刃を軽く撫でた。
「私が命じたわけじゃない。
でも、きっとあの子は――**“記録されることそのものが気に入らない”**んだと思います」
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沈黙。
三人の査問官は、魔導書を開き、記録を確認するが――何も書かれていなかった。
澪がこの部屋に来たこと。
発言した内容。
結界の反応。
全てが、“白紙”として記録されていた。
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その瞬間、学院長アルシェ=グレイヴが入室する。
「査問は終了だ。
これ以上の“記録への干渉”は、君たちでは扱いきれまい」
査問官たちは抗議の声すら出せなかった。
アルシェは澪に向き直る。
「君が記録されない存在であることを、私は否定しない。
だが、記録に抗うということは、“誰かの記憶”にすら抗うということだ」
澪は、少しだけ表情を曇らせた。
「覚えてもらえないことには、もう慣れました」
「――では、君が“覚えていたいと思う誰か”が現れたとき、どうする?」
その問いに、澪は答えなかった。
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その夜。
ティナが澪の部屋を訪れる。
「今日の査問、大変だったって聞いたよ」
「……別に。記録されなかったから、なかったのと同じ」
ティナは、にっこりと笑った。
「私はね、ちゃんと覚えてるから」
その言葉に――赫刃が、鞘の中で“震えなかった”。
まるで、澪の中の何かが、一瞬だけ、“安心”したかのように。




