【第2章 第5話:初対決、デュエル拒否】
魔導学園にはひとつの“制度”がある。
それは、「魔導試合――デュエル」。
正式名称は、《立位魔導試合権限制度》。
生徒が生徒に対し、魔法での決闘を申し込む権利。
勝者は、敗者の「所属地位」「講義優先枠」「推薦資格」などの“記録的特典”を一時的に奪える。
言い換えれば、それは――
“記録における立場”を賭けた魔導戦。
だが、澪=クローデルにはその制度が適用されない。
彼女には“記録”がない。
よって奪う地位もなく、奪われる資格もない。
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だが、それでも。
ひとりの上級生が、彼女に挑んだ。
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「私は、あなたのような“例外”をこのまま許すつもりはありません」
そう宣言したのは、選抜課程三年、魔術部副主将――
エヴァン=ローズクラフト。
貴族階級の中でも古参家系。
規律と血統の誇りを重んじる者。
彼は澪に対し、宣言通告を出す。
「澪=クローデル。貴様が“記録不能”であることを以て、学園の秩序を乱す存在と断定する」
「よって、魔導試合を申し込む」
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学園全体に緊張が走った。
“挑まれた”澪はどうするのか――
そして“記録されない者”に対して、制度が本当に通用するのか――
学院長アルシェは淡々と告げた。
「試合は成立する。
ただし――“敗北の定義”が成立しなかった場合、試合は“無効”ではなく、“敗者喪失”とする」
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当日。
場所は魔導戦技演習場。観覧席には教師と生徒がぎっしり詰めかけていた。
澪は、何の準備もなく現れた。
刀を鞘に納めたまま。
戦闘衣も着ず、制服のまま。
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エヴァンが先に動いた。
詠唱時間わずか1.4秒。雷の球体が空中に浮かび、澪へと撃ち出される。
同時に地面に展開される結界陣――
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――バチィイイッ!!
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だが、雷撃は澪に届く前に“空気ごと霧散”した。
雷が消えたのではない。
“雷が雷であるという定義”が破壊されたのだ。
術式構造が、その瞬間に“魔法として存在できなくなった”。
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観客席がざわめく。
「な……詠唱は完璧だったはず……!」
「何をした……? いや、“してない”……?」
その間も、澪は一言も発さず立ち尽くしていた。
やがて――
エヴァンが叫ぶ。
「答えろ! 貴様は、何者だ!」
そのときだった。
赫刃の鞘が、かすかに“音”を立てた。
そして、エヴァンの表情が――変わる。
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「……え……?」
彼は手の中の杖を落とす。
周囲の生徒がざわめく。
「どうした!?」「立てよ!」
だが、エヴァンは立ち尽くしていた。
そして呆然と、こう呟く。
「……誰と……戦っていたんだ、俺は……?」
彼の記憶から、澪という“名前”が消えていた。
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魔導試合終了。
勝敗記録――成立せず。試合履歴、“空白”。
ただ、ひとつだけ残されたのは、
「観客の心に刻まれた“何か恐ろしいものを見た”という記憶」だけだった。
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その夜、澪は静かに刀を撫でていた。
「抜かなくても、“名前”って消えるんだね」
赫刃は静かに、確かに“肯定”の震えを返した。
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そして、記録官の手元には――こう記されていた。
澪=クローデル
魔導試合履歴:挑戦多数・敗北なし・記録対象外
彼女の名だけが、制度の中で浮かび上がる“異物”として、
確かに――学園の“記録”に穴を空けていった。




