【第2章 第4話:記録査定、失格と判定不能】
王立魔導学府。
入学後一週間で行われる、最初の全体魔力査定日。
それは「魔導士候補生としての等級」を決定する、重要な初期スクリーニングだった。
測定対象は三項目――
【魔力量】【制御精度】【精神耐性】。
すべては魔導記録石によって自動保存され、以降の授業編成や立場、さらには卒業後の配属先にまで影響を与える。
……その中に、“記録されない者”がひとり、座っていた。
•
「では、黒澄――澪=クローデル嬢。前へ」
測定官が恐る恐る名を呼ぶ。
周囲の生徒たちは、息を呑んだまま見守っていた。
ティナだけが、いつも通りの笑みで背後から声をかける。
「頑張って、“記録されて”ね、澪さん」
「……努力してどうにかなるなら、とっくにしてる」
澪は無表情のまま、一歩前に進んだ。
•
澪の前に設置されたのは、学園でも最も高感度な魔力測定石。
通常は、この石に手を置くだけで、魔力の総量が波形として数値化される。
……だが、澪が手を触れた瞬間――
**
カッ……!!
**
波形は上昇し続け、上限値を超えた。
測定官「止まらない!? これは……ッ!」
**
ギィィイイイイン!!
**
次の瞬間、測定石が破裂した。
破片は浮遊したまま、爆散することも、落ちることもなかった。
空間が、**“観測を拒絶している”**のだ。
•
ざわめく生徒たち。
評価表を抱える教師陣は、一様に顔を青ざめさせた。
「記録不能……? 測定不能じゃない、“記録そのものが拒まれた”……!」
「再測定の術式も発動しない……彼女の魔力が、評価フレームを拒絶している……!」
教官フェリクスが立ち上がり、鋭く言い放つ。
「澪=クローデル。君の力は、魔法であるとすら断定できない。
もはや君は“魔導士”とは呼べぬ存在だ!」
•
澪は、ただ静かに彼を見た。
「……じゃあ、何って呼ぶの?」
「“異端”だ!」
「便利な言葉だね。わからないものには、それを貼っておけば済むんだから」
その言葉に、場の空気が凍った。
•
学院長アルシェが、その場を制した。
「本日の評価結果――**“∞(無限)”および“分類不能”**とする」
「これをもって、澪=クローデル嬢の評価は今後すべて“測定外”とし、個別記録扱いとする」
「彼女の存在は、“定義ではなく実例”で判断されるものとする」
教師たちは唖然とした。
だが誰一人として、否定の言葉を口にできなかった。
•
その日の夜。
澪は、記録不能となった自分の魔力帳を見つめていた。
中身は空白。
数値も文字も、存在しない。
だが、空白の中に――赫刃が微かに滲む赤で、こう書かれていた。
「記録不要」
それは、彼女が望んだわけでも、命じたわけでもなかった。
刀が、彼女の代わりに答えていた。
「……私は、やっぱり“記される側”じゃないんだね」
赫刃は鞘の中で、小さく鳴った。
•
その記録不能の波は、翌日以降の授業、制度、そして生徒たちの“感情”にすら――
静かに影を落としていくことになる。
誰にも止められない歪みが、
“澪=クローデル”という存在によって、始まっていた。




