【第2章 第3話:特待区画、記録不能室】
王立魔導学府。
その最上級寮区画、“特待生専用棟”。
王族、聖痕保持者、神と契約した者のみが住まう、特別な空間。
そこに――澪=クローデルが入ることになった。
だが、それは“前例”のないことだった。
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「個室番号A-01。澪=クローデル嬢、配置完了」
事務官が魔導記録板を確認し、魔力で扉を解錠する。
扉が開いた瞬間――
風が、逆流した。
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「う……ぐ、ぅ……っ!?」
「魔力が……引き裂かれる……!」
事務官は、何かに“名前を呼ばれたまま飲み込まれる”ような錯覚に陥り、
そのまま膝をついた。
部屋の中にあったはずの“配置魔導陣”、“防結界”、“視認追跡術式”――
すべてが“未記録”になっていた。
設置はされている。だが、記録上は“存在しない”。
つまり、魔法の目にも、術式にも、追えない。
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「……これが、私の部屋?」
澪が無表情で部屋に入った瞬間――
空気が、静かに収束した。
“拒絶”すらも、“自然”になっていく。
彼女は、まるで最初からここにいたように、違和感を示さない。
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その報告を受けた、封印術・結界術の専門家たちはすぐに集まった。
部屋の構造を解析しようとするが――
・空間が歪む
・魔導具の魔力が漏れる
・結界が“内側”から反転する
彼らの結論は、簡潔だった。
「この空間には、“観測されることそのものを拒絶する情報”がある」
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ヘンリクス=マージュは呟いた。
「……これは、赫刃の霊圧ではない。
澪嬢“本人”が、世界の観測体系と相容れない」
アルシェ学院長は深く頷いた。
「ならば、もはや“監視”は無意味。
澪嬢には、“自由にさせろ”。
ただし――彼女の“無意識”が暴れた時のために、記録石を一つだけ仕込んでおけ」
それは、観測するためではなく、“斬られた痕跡”を確認するための記録だった。
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その夜、澪は特待区画の窓辺にいた。
窓の外には、無数の魔力灯がきらめいていた。
煌めく世界。規則正しく流れる時間。定義に守られた秩序。
だが、彼女の背には、それらを“斬り落とす”赫刃があった。
澪は、誰にともなく呟く。
「私の居場所って、こういう“記録されない空間”しかないんだろうか」
赫刃は答えなかった。
けれど、その鞘は、少しだけ温かかった。
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この夜から、“記録不能室”という名称が学内で密かに広まる。
それは、“赫ノ令嬢”が住まう部屋。
誰も入れず、誰も近づかず、誰も定義できない空間。
その少女が笑ったか、眠ったか、泣いたか――誰にもわからない。
だがただ一人、ティナ=フェルメールだけが、
次の日も彼女を“澪”と呼び、部屋の前で待ち続けた。




