表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赫刃  作者: あああ
PR
24/177

【第2章 第2話:存在しない生徒】

入学式の翌朝、王立魔導学府グラン・アカデメイアは静かな混乱に包まれていた。


誰も口に出さない。

誰も明言しない。

だが、生徒たちも、教員たちも――“彼女”の存在だけが、何かを壊し始めていることを感じ取っていた。


「澪=クローデル嬢の、出席記録がありません」


最初に異常を報告したのは、初等課程の記録官だった。

記録魔導石に名前が登録されていない。

出席簿に筆跡が記されても、その行を読み取ろうとした瞬間、文字が“空白”になる。


他の記録は正常。

ただ、彼女に関するものだけが、存在そのものを拒む。


「これは……魔法的消失ではない。“観測不能”……?」


担当教官のフェリクス=ローヴェは、魔術的視線を使って澪の席を観察する。

そこに“人の形”がある。

魔力反応もある。呼吸もある。


だが、記録術式が――“それを生徒として認識できない”。


「記録不能? 意図的妨害か?」


教員控室では、複数の魔導教師が騒然となっていた。


「いや、術式障壁にも侵入痕がない」

「彼女の存在そのものが、“記録魔術に適合していない”んだ」

「そんな生徒、過去にいたか……?」


一方、生徒たちはもっと直感的だった。


「澪って……何組だったっけ?」

「え、澪って誰? ……あれ、昨日話したよね?」


“昨日の記憶はあるのに、彼女のクラスや立ち位置を思い出せない”。


一部の生徒は、名前を呼ぼうとして――喉が詰まる。

別の生徒は、澪の隣に座っていた記憶だけが、白くぼやけていた。


「なんか、夢を見てたみたい……あの子、なんて名前だったっけ?」


そして、澪本人は――何事もなかったかのように、教室の一番後ろで座っていた。


窓の外をぼんやり眺めながら、手には厚い古文書。


そのページには、古代魔導の言語が書かれていた。

今では解読不能とされる“神代記録文字”。


だが澪は、普通に読んでいた。


「……読めるのか?」


声をかけたのは、ヘンリクス=マージュ。

禁書図書館の管理者にして、学園最古参の“文字魔導士”。


澪はゆっくり顔を上げる。


「読めるというより……“思い出す”だけ」


「君の中にある“記憶ではない何か”が、反応しているということか」


ヘンリクスは腕を組んで言った。


「やはり、君は“記録では定義できない存在”だな」


その日の最後、教員会議で結論が出された。


「澪=クローデル嬢は、“記録不能特例”として扱う。

 授業の参加・査定は実施するが、記録処理は手動対応。

 また、彼女に関わる生徒・教員には定期的に“記憶検査”を行うこと」


そして、学院長アルシェが一言。


「“存在しない生徒”の記録を続けることが、

 我々“記録を信奉する者たち”への試練となる」


その夜、澪は寮の個室にいた。


光を灯さず、闇の中。

机の上には記録石。

だが、何も記されていない。


澪はその石を、手の中で軽く握った。

石は、“自壊”した。


まるで、“記録されること”自体を拒否したように。


澪は呟く。


「私は……記録されるのが、嫌いだから」


その刹那、赫刃が静かに震えた。


名を刻まれず、記録されず、定義すら拒む“存在”。


澪=クローデルは、

王立魔導学府において、確かに“在りながら、存在しない生徒”として、歩み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ