【第2章 第2話:存在しない生徒】
入学式の翌朝、王立魔導学府は静かな混乱に包まれていた。
誰も口に出さない。
誰も明言しない。
だが、生徒たちも、教員たちも――“彼女”の存在だけが、何かを壊し始めていることを感じ取っていた。
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「澪=クローデル嬢の、出席記録がありません」
最初に異常を報告したのは、初等課程の記録官だった。
記録魔導石に名前が登録されていない。
出席簿に筆跡が記されても、その行を読み取ろうとした瞬間、文字が“空白”になる。
他の記録は正常。
ただ、彼女に関するものだけが、存在そのものを拒む。
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「これは……魔法的消失ではない。“観測不能”……?」
担当教官のフェリクス=ローヴェは、魔術的視線を使って澪の席を観察する。
そこに“人の形”がある。
魔力反応もある。呼吸もある。
だが、記録術式が――“それを生徒として認識できない”。
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「記録不能? 意図的妨害か?」
教員控室では、複数の魔導教師が騒然となっていた。
「いや、術式障壁にも侵入痕がない」
「彼女の存在そのものが、“記録魔術に適合していない”んだ」
「そんな生徒、過去にいたか……?」
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一方、生徒たちはもっと直感的だった。
「澪って……何組だったっけ?」
「え、澪って誰? ……あれ、昨日話したよね?」
“昨日の記憶はあるのに、彼女のクラスや立ち位置を思い出せない”。
一部の生徒は、名前を呼ぼうとして――喉が詰まる。
別の生徒は、澪の隣に座っていた記憶だけが、白くぼやけていた。
「なんか、夢を見てたみたい……あの子、なんて名前だったっけ?」
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そして、澪本人は――何事もなかったかのように、教室の一番後ろで座っていた。
窓の外をぼんやり眺めながら、手には厚い古文書。
そのページには、古代魔導の言語が書かれていた。
今では解読不能とされる“神代記録文字”。
だが澪は、普通に読んでいた。
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「……読めるのか?」
声をかけたのは、ヘンリクス=マージュ。
禁書図書館の管理者にして、学園最古参の“文字魔導士”。
澪はゆっくり顔を上げる。
「読めるというより……“思い出す”だけ」
「君の中にある“記憶ではない何か”が、反応しているということか」
ヘンリクスは腕を組んで言った。
「やはり、君は“記録では定義できない存在”だな」
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その日の最後、教員会議で結論が出された。
「澪=クローデル嬢は、“記録不能特例”として扱う。
授業の参加・査定は実施するが、記録処理は手動対応。
また、彼女に関わる生徒・教員には定期的に“記憶検査”を行うこと」
そして、学院長アルシェが一言。
「“存在しない生徒”の記録を続けることが、
我々“記録を信奉する者たち”への試練となる」
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その夜、澪は寮の個室にいた。
光を灯さず、闇の中。
机の上には記録石。
だが、何も記されていない。
澪はその石を、手の中で軽く握った。
石は、“自壊”した。
まるで、“記録されること”自体を拒否したように。
澪は呟く。
「私は……記録されるのが、嫌いだから」
その刹那、赫刃が静かに震えた。
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名を刻まれず、記録されず、定義すら拒む“存在”。
澪=クローデルは、
王立魔導学府において、確かに“在りながら、存在しない生徒”として、歩み始めた。




