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赫刃  作者: あああ
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【第2章 第1話:赫ノ令嬢、学舎を踏む】

霊脈の交差する王都の東、天へと伸びるように聳える白銀の魔塔――

王立魔導学府グラン・アカデメイア


国家が築き上げた最高峰の教育機関にして、

魔導の才を持つ者すべてが目指す“記録と定義の城塞”。


今日、この塔に――ひとりの“例外”が足を踏み入れる。


少女の名は、澪=クローデル。

四大公爵家のひとつ、“黒澄公爵家”の末娘。

だが、その名は形式にすぎない。


黒髪のロングヘア、血のように紅い瞳。

細く、白く、まるで絵画から抜け出たかのような姿。


彼女の背に揺れるのは、漆黒の大太刀。

名を――赫刃・無明かくじん・むみょう


その姿を見た瞬間、学園の空気が変わった。


入学式。

初等〜高等課程の新入生が整列し、

記録石盤がそれぞれの魔力・家名・血統・適性を記録していく。


澪の番が来た。


「新入生、番号240番、澪=クローデル嬢――」


詠唱が始まる。魔力を通し、石盤が彼女の記録を……刻めなかった。


**


キィィィ……ッ


**


石盤が音を立て、黒く――砕けた。


場が静まり返る。


「……記録が、消えた……?」

「いや……“記されなかった”? そんな……」

「記録術式が……拒絶された……」


壇上から、学院長――アルシェ=グレイヴが歩み出る。


老いた白髪、無骨なローブの奥の眼差しは、静かに澪を見据えた。


「……これが、“赫ノ令嬢”か」


教職員たちがざわめく。

アルシェは続けた。


「全記録機構が破壊されたのではない。“記録されることそのもの”を、彼女が拒絶した。

 これは事故ではない。**“存在による定義の否定”**だ」


澪は沈黙したまま、視線を上げる。


紅い瞳に、誰もが一瞬だけ“恐れ”と“魅了”を覚えた。

そして彼女の腰の赫刃が、鞘の中で――わずかに鳴った。


入学式終了後。

澪は一人、中庭を歩いていた。


誰も近づけない。

名前を呼ぼうとした者は言葉を忘れ、

話しかけようとした者は口を閉ざす。


「名前を……忘れさせる……?」「視界に入らないのか……?」


誰もが彼女を“異物”として感じ取っていた。


その中で、たった一人だけ――歩み寄る少女がいた。


「やっぱり……あなたが澪=クローデルさんだよね?」


金髪、蒼い瞳。明るく澄んだ声。

少女の名は――ティナ=フェルメール。


平民出身の魔導士でありながら、今年度首席入学者。

彼女は迷いなく、名を呼んだ。


澪は立ち止まり、静かに問う。


「……どうして、呼べるの?」


ティナはにこりと笑った。


「だって、呼びたいと思ったから。

 “あなたが誰なのか”じゃなくて、“私にとってのあなた”として呼んだだけ」


その言葉に、赫刃が静かに、心地よく震えた。


澪は、ほんの少しだけ目を細める。


学園に、名を拒む者が来た。


これは、魔導のグラン・アカデメイアに刻まれぬ“赫ノ章”の始まり。


記録されない少女。

記録を拒絶する刃。

そして、呼ばれた“名”。


すべてが、ここから歪み始める――。


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