【第2章 第1話:赫ノ令嬢、学舎を踏む】
霊脈の交差する王都の東、天へと伸びるように聳える白銀の魔塔――
王立魔導学府。
国家が築き上げた最高峰の教育機関にして、
魔導の才を持つ者すべてが目指す“記録と定義の城塞”。
今日、この塔に――ひとりの“例外”が足を踏み入れる。
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少女の名は、澪=クローデル。
四大公爵家のひとつ、“黒澄公爵家”の末娘。
だが、その名は形式にすぎない。
黒髪のロングヘア、血のように紅い瞳。
細く、白く、まるで絵画から抜け出たかのような姿。
彼女の背に揺れるのは、漆黒の大太刀。
名を――赫刃・無明。
その姿を見た瞬間、学園の空気が変わった。
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入学式。
初等〜高等課程の新入生が整列し、
記録石盤がそれぞれの魔力・家名・血統・適性を記録していく。
澪の番が来た。
「新入生、番号240番、澪=クローデル嬢――」
詠唱が始まる。魔力を通し、石盤が彼女の記録を……刻めなかった。
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キィィィ……ッ
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石盤が音を立て、黒く――砕けた。
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場が静まり返る。
「……記録が、消えた……?」
「いや……“記されなかった”? そんな……」
「記録術式が……拒絶された……」
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壇上から、学院長――アルシェ=グレイヴが歩み出る。
老いた白髪、無骨なローブの奥の眼差しは、静かに澪を見据えた。
「……これが、“赫ノ令嬢”か」
教職員たちがざわめく。
アルシェは続けた。
「全記録機構が破壊されたのではない。“記録されることそのもの”を、彼女が拒絶した。
これは事故ではない。**“存在による定義の否定”**だ」
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澪は沈黙したまま、視線を上げる。
紅い瞳に、誰もが一瞬だけ“恐れ”と“魅了”を覚えた。
そして彼女の腰の赫刃が、鞘の中で――わずかに鳴った。
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入学式終了後。
澪は一人、中庭を歩いていた。
誰も近づけない。
名前を呼ぼうとした者は言葉を忘れ、
話しかけようとした者は口を閉ざす。
「名前を……忘れさせる……?」「視界に入らないのか……?」
誰もが彼女を“異物”として感じ取っていた。
その中で、たった一人だけ――歩み寄る少女がいた。
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「やっぱり……あなたが澪=クローデルさんだよね?」
金髪、蒼い瞳。明るく澄んだ声。
少女の名は――ティナ=フェルメール。
平民出身の魔導士でありながら、今年度首席入学者。
彼女は迷いなく、名を呼んだ。
澪は立ち止まり、静かに問う。
「……どうして、呼べるの?」
ティナはにこりと笑った。
「だって、呼びたいと思ったから。
“あなたが誰なのか”じゃなくて、“私にとってのあなた”として呼んだだけ」
その言葉に、赫刃が静かに、心地よく震えた。
澪は、ほんの少しだけ目を細める。
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学園に、名を拒む者が来た。
これは、魔導の塔に刻まれぬ“赫ノ章”の始まり。
記録されない少女。
記録を拒絶する刃。
そして、呼ばれた“名”。
すべてが、ここから歪み始める――。




