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赫刃  作者: あああ
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【第1章 第12話:記録されるという呪い】

記録とは、何か。

澪にとって、それは“牢”だった。


過去の出来事。

自分の名前。

他者からの印象。

愛、憎しみ、哀しみ、賛美。

――すべては“記録”という鎖に繋がれて、動きを奪われていく。


朝、澪は一通の手紙を読んだ。


それは王都から届いた正式な命令書。

「魔導的安定性の確保のため、澪=クローデル嬢を“記録”に固定する処置を行う」

表向きには、祝福の儀式。

だがその内容は、明確に“異端への封印”だった。


父ロジオンは、その書を焚き捨ててから、澪に言った。


「お前が何を望むかは問わない。だが、他人に“お前を定義させるな”」


澪は黙って頷いた。

だが心の中で、静かに思っていた。


(望んでいない。

 私は、自分を“誰かの記録”に収めたいと思ったことなんて、一度もない)


“記録される”ということは、“名前をつけられる”ということ。

“名前をつけられる”ということは、“意味を与えられる”ということ。

“意味を与えられる”ということは、“他者の期待と定義に縛られる”ということ。


澪は、それを――呪いだと知っていた。


だからこそ、彼女は「赫刃」と共に生きていた。

世界を斬る。定義を斬る。記録を斬る。


その夜、澪は書斎の扉を開いた。


中には一冊の本があった。

彼女の名が書かれた、“澪の記録帳”。


家族が、周囲が、教育係たちが。

愛情と敬意を込めて日々書き綴った、“澪という存在の履歴”。


笑った日。

眠った日。

学んだこと。

食べたもの。

語った言葉。


それは、誰かの“愛”の結晶だった。

誰かの“理解したい”という欲望のかたまりだった。


澪は、その本を静かに閉じ、火の灯った燭台にかざした。


紙の焼ける匂い。

文字が灰になる音。


それを見つめながら、澪は呟いた。


「私は、“澪”という記録すら、私ではないと思ってる」


赫刃が鞘の中で、ゆっくりと共鳴する。

まるで、それを肯定するように。


“定義”とは、理解するための道具だ。

だが澪にとって、それは理解ではなく、制御でしかなかった。


ならば。


「記録されるくらいなら、私は“消えたい”」


その言葉は、呪いではなかった。

祈りに近い、静かな決意だった。


その翌日。

聖銀財団の封印騎士団シグナ・セラフィムが、王都を発ち、クローデル家へと向かう。


世界が、彼女を“記録”しようと動き始めた。


だが、そのとき誰一人、知らなかった。


その“記録”こそが、

のちに“この世界の記録を消し飛ばす”刃となって、

逆に“自分たち”を呑み込むことになるということを――

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― 新着の感想 ―
非常に面白かったです。怪異ファンタジーとでも言いましょうか、世界の中にしっかりと法則があり、澪の存在とその力もまたある法則に則った物なのだというのが伺い知ることができました。 「存在を斬る」描写だっ…
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