【第1章 第11話:赫刃の封印と異端の儀】
王都セレフェリカ──
重厚な議事堂の最上階、魔導議会の特別室では、
重々しい沈黙が会議を包んでいた。
そこにいたのは、王家直属の魔導卿たちと、聖銀財団の筆頭祭官、そして王族数名。
議題は一つ。
“赫刃・無明の保有者にして異端児” 澪=クローデルの処遇。
「封印だ」
王国の第一王子、ルシアン=アークライトがそう言ったとき、
部屋の空気が一段階、冷たくなった。
「すでに、周囲の空間に“定義の歪み”が発生している」
「記録が失われる症例も確認され、対象と接した者の認識にも影響が出ている」
「このまま放置すれば、国家秩序すら危うい」
それは、議論ではなかった。
既に決定された“処刑未満の封印”。
表向きは「保護」とされているが、実態は完全な“隔離”と“管理”だった。
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聖銀財団は特に強硬だった。
「この世界において、“名を斬る”という行為は、神の定義に対する反逆に等しい」
「我らが教典においても、“存在を名により束ね、記録により清める”と明記されている」
「名を拒む存在は、祝福を拒む“異端”である」
彼らの理論は、古く、そして強い。
“存在”とは“名”であり、“名”とは“祝福”であり、
それを斬るということは――神の支配そのものを否定すること。
赫刃の持ち主が“無明”と呼ばれていること自体、もはや預言の範疇だった。
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王家と教会の利害は一致していた。
澪は、あまりにも“完全”すぎる。
愛され、恐れられ、記録を拒む力を持つ。
それは“偶像”でも“兵器”でもない。
――“支配できない存在”。
ゆえに、封印が選ばれた。
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封印の形式は、“異端の儀”。
対象の名を、七つの聖句で覆い、
四種の魔導金属で編んだ封印具を心臓の真上に装着する。
それにより、**“名の再定義”と“記録の固定”**を強制する。
存在を“神の記録帳”に縫い止め、彼女を“祝福されたもの”へと矯正する術。
だがそれは、澪の“本質”――
自由に斬る者としての性を“殺す”ということだった。
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封印を執行するのは、“聖銀財団直属封印騎士団”。
かつて“神喰らい”とまで呼ばれた異能者を三日三晩かけて“定義し直した”という逸話を持つ。
その作戦名は――
《赫ノ嬰児記録改編儀・第一段階》。
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議会は解散した。
その結論は王の印とともに、密命としてクローデル家に届く。
澪の父、ロジオン=クローデルは、書簡を読んで静かに笑った。
「世界は、娘を恐れたか。……ようやく、面白くなってきた」
だが、その笑みの裏に、
愛でも忠義でもない、**「恐れ」でも「怒り」でもない、“戦の気配”**が滲んでいた。
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そしてその夜。
澪は夢の中で、“神の声”を聞いた。
「そなたは、名を拒みし者」
「ならば、名なきまま世界を渡り歩くがよい」
その声が、誰のものだったのかはわからなかった。
ただ――赫刃が震えていた。
(……また、斬らなきゃならない日が来るんだね)
澪は目を開き、微かに笑った。
「面倒だな。神まで出てくるのか」
その声に、赫刃がほんの少し、喜ぶように共鳴した。




