第十四章 十四人目 土の魔法使いを翻弄する無限の土袋
血の色のような真っ赤な空、荒れ地にそびえ立つ魔王の城。
今までに勇者や戦士たちが挑み、そして姿を消していった。
魔王はいまだ健在で、魔物たちは人々の生活を脅かしている。
誰か魔王を倒してくれる者はいないのか。
そんな人々の希望を一身に受けて、
一人の土の魔法使いの女が、魔王の城にたどり着いた。
たった一人で戦い続けた末のことだった。
土の魔法とは、土を操る魔法のこと。
魔法で土を操るとは、単に土を飛ばしてぶつけるだけではない。
土に宿る意思に土の体を与えることもできる。
そうして作った土人形は、魔物と戦わせることができる。
土人形の性質は、素材にした土と操る魔法使いの腕前に依る。
拾ったクズ土から作った土人形は、せいぜい石ころを運ぶことしかできない。
しかし、選び抜き使い慣れた良質な土から作った土人形であれば、
強力な魔物を倒すことすらできるようになる。
土人形の体は崩れても土に戻るだけ。
土があればまた土から土人形を作ることができる。
使いようによっては、無数の軍隊にも等しい戦力にもなり得る。
土を選び、土を育て、土を使う。
それが土の魔法使いに必要とされる能力だった。
今、魔王の城にたどり着いたその土の魔法使いの女はというと、
歳は若いが土の魔法使いとしては一流。
どんな土でも使いこなす、土となら上手くやっていける。
しかし人とはどうしても上手くやっていくことができず、
どの集団にも所属してはいない。
だが、一人っきりであることに問題を感じたことはない。
たった一人でも魔王の城までたどり着けたことが、何よりの証だった。
その土の魔法使いが魔王の城へ近付こうとすると、
辺りの荒れ地から、岩の魔物や骸骨の魔物たちが現れ近寄ってきた。
早速、その土の魔法使いは、背負っていた布袋を下ろした。
「魔王の城だものね。素通りはさせてくれないか。」
布袋の中には、故郷から持ってきた使い慣れた土が詰まっている。
しかし、その土の魔法使いは布袋の口は開かない。
代わりに地面に手をついて、何やら魔法を唱えた。
すると、荒れ地の地面から土が盛り上がって、土人形がいくつもできあがった。
大きさは岩や骸骨の魔物よりも大きい程だった。
その土の魔法使いが挑発的な微笑みを浮かべる。
「悪いけど、あんたたち程度の魔物には、荒れ地の土で十分だよね。
さあ、土人形たち、近寄る魔物たちを倒して!」
その土の魔法使いの命令に従って、土人形たちがのっしのっしと歩いていく。
岩の魔物や骸骨の魔物たちは逆に行く手を遮られた。
立ち尽くす魔物たちを、土人形たちは大きな腕で払い除けた。
大きな土の腕の直撃を受けた岩の魔物や骸骨の魔物たちが、
体をバラバラにされて地面に散らばった。
すると魔物たちは怖気付いたのか、もう近寄ってこようとはしなくなった。
「じゃあ、通らせてもらうね。」
そうして、その土の魔法使いは、魔王の城への門を潜っていった。
魔王の城の内部は、捻くれた骨のようだった。
壁も床も柱も捻れていて、見上げると遥か高く天井まで捻れている。
「わぁ、見てるだけで目が回りそう。」
その土の魔法使いは、フラフラと覚束ない足取りで足を進めた。
すると、城の奥の暗がりから、何やらいくつもの気配が近付いてくる。
暗がりに目を凝らすと、
骸骨の魔物や鎧の魔物たちがたくさんやってくるのが見えた。
ここは魔王の城の内部。足元は床であって地面ではない。
土の魔法使いの糧であり武器である土はない。
だから、その土の魔法使いは、背負っていた布袋を下ろした。
布袋の口を開けると、中には故郷から持ってきた使い慣れた土が、
出番はまだかと待ちわびていた。
「みんな、おまたせ。出番だよ。
魔王の城の魔物たちを、やっつけてやって!」
土の魔法使いが土を取り出し魔法を唱える。
すると布袋から土がポロポロと溢れ落ちたかと思うと、
ワラワラと寄り固まって土人形が出来上がっていった。
今、出来上がった土人形は、人の手のひら程の大きさ。
そんな土人形がワラワラと大量に出来上がった。
そして今度は、土の魔法使いが目を瞑って先程とは違う魔法を唱える。
すると、手のひら程の大きさだった土人形たちが、
見る見る大きくなっていって、人の大きさくらいになった。
出来上がった土人形を大きくするのもまた、土の魔法の効果。
大きくなった分、中身は薄くなっているのだが、
使える土の量に限りがある建物の中などでは有効な魔法だった。
「さあ、土人形たち。魔物たちを倒して!」
従順な土人形たちは、近寄る魔物たちの方へ向かっていく。
その後にはポロポロと土の足跡が残っていた。
土の足跡と魔物たちの足跡が重なって、激しい戦闘になった。
骸骨の魔物が剣を振るい土人形を切る。
しかし土人形は土の魔法によって体を固められていて、剣の刃は通らない。
すると今度は土人形が拳を振り上げた。
ゆっくりとしかし硬い拳が骸骨の魔物を叩くと、
骸骨の魔物の体はバラバラに砕けてしまった。
その脇腹を鎧の魔物の槍が突く。
土人形の脇腹は槍に貫かれてバラバラの土に戻ってしまった。
しかしその土人形の体はまだ健在。返す腕で鎧の魔物を殴った。
鎧の魔物は盾で受け止めるが、土人形の一撃は重く、
盾を構えた体ごとバラバラにされてしまった。
そんなことを続けていると、初めはほぼ同数だった土人形と魔物たちが、
お互いに徐々に数を減らして、土人形の割合が多くなっていった。
ゴツン!
鈍い音がして、最後の鎧の魔物が倒れると、
そこには土人形しか立っているものはいなくなっていた。
その土の魔法使いは笑顔で称える。
「みんなありがとう。もう戻ってもいいよ。」
すると土人形たちはボロボロと崩れていって、元の土塊に戻った。
そうなるともう魔物に倒された土人形たちの残骸と区別はつかない。
そして実際に区別はない。
土の魔法使いが使う土は、魔物に倒されたかどうかによらず、
使い終われば同じ土に戻る。
回収すればまた土の魔法の糧として使うことができるのだった。
そうして、その土の魔法使いは、
床に散らばった土塊を布袋に詰め直して背負うと、
魔王の城の奥へと進んでいった。
その土の魔法使いが魔王の城の奥に進むと、
やがて行く先に三叉に分かれた通路が現れた。
正面、左右の三つに通路が分かれている。
通路が捻れていて先は見通せないが、大きな違いは感じられない。
どちらの通路を進むべきか、その土の魔法使いは思案した。
そうして、背負っていた布袋を下ろすと、
また土を取り出して、魔法を唱え、小さな三つの土人形を作った。
「土人形たち。この通路の先をちょっと見てきて。」
言われた通り、三つの小さな土人形たちは、
ヨチヨチと通路の先へ歩いていった。
待つことしばらく。
通路の先から小さな土人形たちが帰ってきた。
口が利けない土人形たちは、床に散らばる石ころを集めて何かを訴えた。
慣れ親しんだその土の魔法使いにはすぐにピーンときた。
「なるほど。どの通路の先にも魔物の集団がいるわけね?
数は・・・真ん中が一番多そうね。
じゃあ、真ん中の通路を進もう。
大事なところには魔物が多くいるだろうからね。
危険じゃないのかって?
大丈夫、あなたたち土が一緒だもの。」
そうしてその土の魔法使いは、
三つの小さな土人形を土に戻して布袋に仕舞うと、
三叉の通路の真ん中を奥へと進んでいった。
三叉の通路の真ん中を進むことしばらく。
小さな土人形たちの事前の情報通り、
その土の魔法使いの行く先に、魔物たちの集団が待ち構えていた。
今までにも出会った骸骨の魔物、鎧の魔物だけではなく、
弓矢を持った魔物や、法衣を着た魔法使いの魔物の姿も見える。
前衛後衛の役割を意識した集団として編成された魔物たちだった。
先程のように土人形たちの数を集めてでたらめに相手をさせても、
簡単には倒せないであろう。
だから、その土の魔法使いは、土人形たちを呼び出した。
今度は前衛後衛の役割を意識して。
布袋の土から作り出された小さな土人形たちは、
ある土人形は土の棍棒を持ち、ある土人形は土の盾を持ち、
またある土人形は、土の長い槍を持っていた。
それらを魔法によって人ほどの大きさにしていく。
するとそこには立派な土人形の集団ができあがっていた。
「これでよし。
前衛は後衛を守ることを意識しながら戦って。
魔法は・・・あなたたち土人形には無理だから、
魔物の魔法攻撃はあたしが妨害する。
それじゃあ、戦闘開始!」
その土の魔法使いの掛け声で、魔物たちの集団との戦闘が始まった。
土人形の集団が、魔物たちの集団に向かって行進していく。
すると、侵入者に気がついた魔物の集団たちが反応した。
後衛の魔物が放った矢が放物線を描いて土人形を狙う。
しかし矢は前衛の土人形が持つ硬い土の盾に弾かれた。
後衛の土人形も歩きながら土の弓矢で応戦する。
すると弓矢の雨の中を、魔法の炎が走る。
魔法使いの魔物による炎の魔法だ。
土人形たちは魔法が使えないのでされるがまま。
しかしそこには、炎を遮るように、土の壁が現れて防いだ。
土の魔法使いの魔法によるものだった。
やがて前衛の土人形と魔物がお互いの間合いに入るようになって、
本格的な集団同士の戦いが始まった。
前衛の土人形の剣が、前衛の魔物の剣が、相手を切る。
後衛の土人形の矢が、後衛の魔物の矢が、相手を射る。
戦況は甲乙つけがたい。
お互いに傷つけ合い倒れていく数は同じくらい。
そんな場合には魔法使いが戦況を左右する。
魔法使いの魔物が放つ炎の魔法は、着実に土人形たちを焼いていった。
土人形は炎の魔法で燃え上がることはないが、
しかし焼けて固くなった体はボロボロに崩れ去っていく。
土の魔法使いが魔法で土の壁を作って防御するが、一歩足りない。
土人形たちは苦戦し、足元には土の壁の残骸が積み上がっていった。
だから魔物たちは気が付かなかった。
ただの土の残骸が戦況に影響を与えるなどとは、思ってもいなかった。
魔物たちにとって、土塊はただの残骸でしかない。
しかし、土の魔法使いにとっては、土は糧となる。
その土の魔法使いが魔法を唱えると、その土塊には新たな魂が宿った。
激しく戦い合う魔物と土人形の集団同士。
その足元に広がる土塊が動き始めた。
動いて寄り集まって、腕だけの土人形がいくつも出来上がった。
それらが床を這い、魔物たちの足にしがみついた。
足を取られた前衛の魔物たち。
足元を見るとそこには腕だけの土人形。
それこそがその土の魔法使いが狙っていたことだった。
魔法使いの魔物が放つ炎の魔法。
それを阻止する土の壁の本当の狙いは、集団の足元に土を撒くこと。
撒いた土に土の魔法を施し、戦場に追加の戦力を配置した。
ただし、作れる土人形は小さく、大きくするために魔法を追加する猶予はない。
だからその土の魔法使いは、腕だけの土人形を作り出した。
腕だけの土人形には魔物を倒すほどの力はない。
だが足を取るくらいのことはできる。
そうして足を取られた前衛の魔物たちは、身動きが取れなくなって、
次々に土人形たちに倒されていった。
集団は崩れれば脆い。
前衛の数が減った魔物の集団は、
次は後衛の魔物たちが餌食になっていって、
僅かな戦力の追加によって、とうとう全ての魔物が打ち倒されたのだった。
その土の魔法使いが額の汗を拭う。
「ふぅ、ちょっと苦戦したね。
でも、あなたたちのおかげで魔物は倒せたよ。
ありがとう。もう戻っていいよ。」
そうしてその土の魔法使いは、魔物の集団の残骸の中で、
床に散らばった土塊を回収して、先に進んでいった。
三叉の通路の真ん中を進むと、その先には、
大きくて豪華な扉があった。
見上げるほどに大きく、ただごとではない豪華さ。
その中には大事なものがあるであろうことがわかる。
どうやら真ん中の通路を選んだのは正解だったようだ。
しかしここは魔王の城。
正解ということはつまり、困難であるということ。
大きくて豪華な扉の前には、これまた大きな鎧の魔物がいた。
見上げるほどに大きな、通常とは違う、大きな鎧の魔物。
その土の魔法使いは苦々しい顔をした。
土の魔法は、土を操る。
たくさんの土人形を作り出し、集団を作り出すこともできる。
土人形の数を増やすのには土と魔法があればいい。
小さな土人形を魔法で人程に大きくすることもできる。
しかし、それよりも大きな土人形を作り出すのは、簡単な話ではない。
この世界にあるものの多くと同じく、土には重さがある。
土人形には自重に耐えられる強度が必要になる。
自分の重さに対して体の強度が足りなければ、
立っているだけで体が崩れ去ってしまう。
しかも土人形の体は土。
いくら魔法で強化しようとも、元が弱ければ丈夫さの上限も限られてくる。
巨大な土人形を作るのは難しいことだった。
だから、その土の魔法使いは思案して、巨大な土人形を作ることにした。
最初は人程の大きさの土人形を作って、魔法を唱えて体を大きくさせる。
それでは大きくなった土人形は自重で崩れてしまうはず。
だが、そうはならなかった。
見上げるほどに大きくなった土人形は、大きな足を一歩進めた。
ズシン、と重い足音がするが、体が崩れ去るような様子はない。
それを確認して、その土の魔法使いは満足そうに頷いた。
巨大な土人形が自重で崩れないのには理由がある。
その土の魔法使いは、土人形を作り出す際に細工をしていた。
足元になるほどに大きく丈夫に、頭へいくほどに小さく軽くなるように。
そうして出来上がった土人形は、魔法で巨大な体になっても、
自重に耐える丈夫な土人形として機能するようになったのだった。
巨大な土人形は、重いが自立した体をもって、大きな鎧の魔物に立ち向かった。
大きな鎧が侵入者に気が付き、巨大な土人形と組み合う。
ドーン、と重い音が響いて、土人形からバラバラと土の破片が落ちてくる。
そうして、巨大な土人形と、大きな鎧の魔物との戦いが始まった。
相手が大きな鎧の魔物だったのは、ある意味で幸運だったかも知れない。
巨大な土人形を作り出すために、
その土の魔法使いは持っている土を全て使った。
だからもし矢や魔法が飛んできても、それを阻止する土壁はもう作れない。
それらの遠距離攻撃を持たない大きな鎧の魔物は、
巨大な土人形と真正面から打ち合った。
緩慢だが重い一撃がぶつかり合う。
大きさでは互角。重さでも互角。速さも互角。
しかし違うところがある。
巨大な土人形は魔法で強化したとはいえ、元はただの土。
金属でできている鎧の魔物の剣には硬さで及ばなかった。
打ち合う土の剣と金属の剣では、どちらが勝つのかは明らか。
巨大な土人形の土の剣は欠け、やがて折れて砕けてしまった。
土の剣は床に落ちて、土塊に戻ってしまった。
無防備になった巨大な土人形を、大きな鎧の魔物の剣が襲う。
巨大な土人形は腕で防ぐが、その腕もまた欠けていく。
大きな鎧の魔物が剣を振り上げる。
ここまでか。そう思われた時。
たくさんの矢の雨が、大きな鎧の魔物を襲った。
振り上げた剣を下げて盾を構えて矢の雨をやり過ごす。
大きな鎧の魔物が見下ろすと、
そこには弓矢を番えた何体もの土人形たちがいた。
横で指揮を執る土の魔法使いが得意げに言った。
「これで勝ったと思った?
土の魔法使いにとってはね、土は糧なの。
魔法で土を操り、使い終われば土に戻る。終わりはない。
この子たちは、切り落とされた土の剣から作ったの。
あんたにとっては切り落とした剣はただの残骸。
でもあたしのような土の魔法使いには、それも糧なんだよ!
さあ、土人形たち、次は鎧の継ぎ目を狙って!
あいつはそこが弱点だよ。
そうしたら次は大きい土人形、継ぎ目が詰まった部分を叩いて!
継ぎ目が詰まった鎧は脆くなるから!」
その土の魔法使いの指揮に従って、土人形たちは土の矢を放った。
矢は雨のように大きな鎧の魔物を打ち、盾の死角から継ぎ目を射抜いた。
射抜かれた鎧の継ぎ目には矢の残骸の土が詰まった。
そうしてしまえば鎧は衝撃を逃せなくなる。
巨大な土人形が腕を振りかぶって叩く。
一体の土人形から作った、大小の土人形たちの集団の攻撃により、
大きな鎧の魔物は体がバラバラになって崩れ去った。
「やったぁ!あなたたち土人形たちのおかげだよ!」
その土の魔法使いは近くの土人形の手を取って喜んだ。
「それじゃあ、この部屋の中を検めてみますか。」
それからその土の魔法使いは、土人形たちを土に戻して回収すると、
大きくて豪華な扉を潜っていった。
大きくて豪華な扉の中には、金銀財宝が積み上げられていた。
輝く宝石、豪華な衣装、美しい財宝の数々。
どうやらここは宝物庫のようだった。
その土の魔法使いは財宝を見上げて言った。
「はぁ~、こんなにお宝がいっぱいあっただなんて。
どおりで豪華な扉だったわけだ。
いずれにせよ、ここにはお宝が目的で来たんじゃないんだけどね。」
その土の魔法使いは、魔王を討伐するために、この魔王の城まで来た。
財宝は目当てではない、間をすり抜けて先へ進む。
と、そこで何気なく床に置かれていた布袋を見て、足を止めた。
「・・・あれってまさか、無限の土袋!?」
その土の魔法使いは、泡を食って布袋にしがみついた。
無限の土袋。
それは魔法の支援効果が込められた布袋で、
中には布袋の大きさを遥かに超えた土が詰められている。
一説には名前のとおりに無限の土が入っているとも言われる。
詰められた土は多いのに、無限の土袋の大きさや重さは標準の布袋と変わらない。
それも込められた魔法の支援効果に依るもの。
土の魔法には土が必要で、それも良質な使い慣れた土がよい。
建物の中などでは地面にも触れられないので、
土の魔法使いは土を運ぶ布袋が欠かせない。
だがその重さと土の量が大きな制限となっている。
その制限を、無限の土袋は失くしてしまう。
使い慣れた良質な土を、軽く嵩張らずにいくらでも持ち運べる。
土の魔法使いにとって無限の土袋は夢のような財宝だった。
その土の魔法使いも例外ではなく、無限の土袋を手に目を輝かせていた。
「すごい!本当に無限の土袋だ。
これがあれば、さっきみたいな時も、土の残量を気にせずに魔法を使える。
それに、土って重いんだよね。
重い土を担がずに済むなら、大助かりだよ。
これ、あたしが貰っちゃってもいいよね?」
その土の魔法使いはキョロキョロと辺りを見回すと、
無限の土袋を取って担いだ。
「よし、そうと決まれば、中身を入れ替えてしまおう。
土の入った布袋を二つも担ぐのは重すぎるし。
あたしの土は故郷の村から持ってきた特製の土だから、
無限の土袋の方に入れてしまおう。
それとも、よくわからない土と混ぜるのはよくないのかな?
ちょっと試してみようか。」
その土の魔法使いは、布袋の土を入れ替えようと、
二つの布袋を背負って宝物庫から外へと戻っていった。
宝物庫の外には、バラバラになった大きな鎧の魔物の残骸が残っていた。
動くものはなく、シンと静まり返っている。
その土の魔法使いは、自分の布袋と、無限の土袋と、
担いでいた二つの布袋を下ろした。
「ふぅ。重かった。
じゃあ、土を取り出して中身を入れ替えてみようか。」
その土の魔法使いは、まず、自分の布袋を手に取った。
口を開けて逆さにすると、中身の土がドサドサッと溢れ出た。
慣れ親しんだ土の匂いがした。
そうして何気なく、次に無限の土袋を手に取った。
中身を取り出そうと、口を開けて逆さにした。
その途端。土がまるで滝のようになって降り注いだ。
ドーっと留まることのない土の滝が、床をあっという間に埋めていった。
「何!?何が起こったの?」
その土の魔法使いは咄嗟のことに、何が起こったのかわからない。
だが冷静に考えれば、何が起こったのかはわかること。
その土の魔法使いは、無限の土袋の口を開けてひっくり返した。
その中には無限の土が詰め込まれている布袋を。
そうするとどうなるか。
中には無限の土が入っているのだから、
留まることのない土が溢れ出てくることになる。
溢れる土は無限の土袋を持ち上げ、あっという間に天井へ。
後から後から止めどなく土が頭上から溢れ出ることになってしまった。
その土の魔法使いがその事に気がついた時には、
無限の土袋はすでに遥か遠くにあった。
「しまった!無限の土袋を逆さにしたら、無限に土が出てくるに決まってる。
あたし、なんてことしちゃったんだろう!
どうやってあの袋の口を閉じたらいいの?」
無限の土袋の口を閉じようにも、
その袋は今や吹き出す無限の土に飛ばされ天井付近を彷徨っていた。
だがそれがだんだんと近付いてくる。
床が上がっているのだ。
吹き出る土が通路の床を埋め、床自体が高くなっていく。
あれよあれよと言う間に天井が目前に近付いてくる。
無限の土袋を掴もうにも、激しく吹き出る土で飛び回って止められない。
そうしている間に、その土の魔法使いは、無限の土に埋もれようとしていた。
「まずい・・・!このままじゃ、潰される・・・!
誰か助けて!」
土に体が埋もれ、息も絶え絶えになった、その時。
その土の魔法使いの前に、何者かが立ちはだかった。
見るとそこには土、でも埋め尽くそうとはしない。
よく見ればそれは土人形だった。
その土の魔法使いが自分の布袋から出していた土が土人形となり、
助けを聞いて駆けつけてくれたのだった。
だが、土人形にも溢れる土はどうすることもできない。
すると土人形は、その土の魔法使いに手を伸ばした。
手には鞄と、あの使い慣れた布袋が握られていた。
鞄の中には帰還魔法の巻物がある。
それを使えば、どんな状況でもすぐにこの場から逃れられる。
土人形はそう言いたいのだろう。
だが土の魔法使いはその案を拒否した。
「駄目だよ!それじゃあなたたち土人形を連れて帰れない!」
今、その土の魔法使いの使い慣れた土は全て、目の前で土人形になっている。
土人形は盾となって無限の土からその土の魔法使いを守ってくれている。
体はミシミシと音を立て、今にも崩れてしまいそう。
周囲はもう土しか見えない状況。
土人形を土に戻して布袋に仕舞う猶予はない。
だが土人形は、それでもその土の魔法使いに頷いて返すのだった。
このままではどちらも無限の土に飲み込まれるだけ。
選択の余地はない。
その土の魔法使いはそのことを理解した。
鞄と布袋を受け取ると、魔法の巻物を取り出した。
「ごめんね。あなたたちを連れていけなくて。
でも、あなたたちの犠牲を無駄にはしないから・・・!
帰還魔法!我を安全な場所に運び給え!」
その土の魔法使いが魔法の巻物を広げて魔法を唱えた。
するとどこからか風がびゅうびゅうと吹き付けて、
迫りくる土を吹き飛ばし、その土の魔法使いの体を運び去った。
それを確認して、土人形はガックリと体を崩れさせた。
崩れた土人形の体は土へと戻っていき、
迫りくる無限の土に飲み込まれ混ざっていった。
そうして、その土の魔法使いは、帰還魔法により、
魔王の城から遠く離れた安全な王都へと帰還した。
すぐに魔王の城へ取って返して土を取り戻したかったが、
それは不可能だとわかった。
持ち帰った布袋の中には、砂ほどの土しか残っていなかったから。
土の魔法使いにとって土は糧。
慣れ親しんだ、使い慣れた土がなければ、土の魔法は意味を成さない。
その土の魔法使いは、土という相棒を失い、
今や無力な一人っきりの出来損ないの魔法使いになってしまっていた。
そんな事があった後。
その土の魔法使いは、今、故郷の村へと戻っていた。
魔王の城で失った使い慣れた土は、元々はこの村の土。
だが同じような土でもその中身は全く違う。
故郷の村の土は、思うように土の魔法の糧にすることはできなかった。
万事休す、しかしその土の魔法使いは諦めない。
今、その土の魔法使いは、農家として土を耕す日々を過ごしている。
しかし農家とは言え、収穫するのは作物だけではない。
その土の魔法使いは、砂ほどに減って持ち帰った、
土を増やすために畑を耕している。
使い慣れた土は減ってしまったとはいえ、完全になくなったわけではない。
砂ほどの土でも育てればいずれは殖やすことができるはず。
そうして慣れ親しんだ、使い慣れた土を増やして、
蓄えて土の魔法の糧とすることで、
身代わりとなってくれた土人形を迎えに魔王の城へ再び赴く。
その土の魔法使いは、魔王の討伐よりも前に大事な目的を果たすために、
故郷の村で汗を流す日々を送るのだった。
終わり。




