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最終章 人間と魔物と

 空は血の色に染まり、地は荒れ果てた最果ての地、魔王の城。

人間を寄せ付けない強い意志を感じる禍々しい城。

その魔王の城に、たどり着いた者たちがいた。


 今まで、人間は長い間、魔物たちと戦ってきた。

人間にも魔物にも、多くの被害が出ていた。

それを終わらせようと、かつて魔王の城に挑んだ者たちがいた。

勇者、戦士、魔法使い、治癒師、盗賊、武闘家、騎士、射手、飛翔騎士、等々。

いずれも名うての実力の持ち主だったが、しかし忽然と姿を消した。

魔王の城も魔物もいまだ健在で、彼らが志半ばで失敗したことは予想できた。

今もまた、勇者と呼ばれる者が魔王の城を臨んでいる。

しかし、今、魔王の城の前にいるのは、一人ではない。

かつて失敗した名うての勇者たちとは違い、今、魔王の城の前にいるのは、

たくさんの人々。勇者だけではない。戦士や治癒師や色んな人々がいる。

彼らがかつての勇者たちと違うのはただ一点、しかし大きな一点。

魔王討伐に一人で挑むのではなく、集団パーティーで挑もうとしていること。

どんなに優秀な者でも、一人っきりで事を成すには限度がある。

一人でできることと集団でできることには大きな違いがある。

集団ならば、その限度を用意に越えうる潜在能力がある。

はっきり言おう。

今、魔王の城の前に集まっている勇者たちの集団は、

数こそ多いものの、一人一人の実力は、かつての同志には及ばない。

だがたった一つだけ、優れていることがあった。

勇者は、集団を率いて戦いを統率するのに長けていた。

他の者たちは、集団で集団を作りお互いに協力して戦うことが得意だった。

どちらも、一朝一夕で身についた技ではない。

かつての勇者たちに足りなかった能力は何だったのか、

敗因を分析し、学習し、訓練した上で身につけた能力だった。

勇者たちは、四人を基本集団として、さらに集団が集団を形作っている。

これでは多少の魔物など、誰を相手にするか決める前に倒れてしまうだろう。

それを悟った魔王の城の周辺の骸骨の魔物や岩の魔物たちは、

誰も勇者一行には近づいては来ない。

「みんな、俺の指揮に従って一緒に戦ってくれるか!?」

「おおー!」

勇者一行の雄叫びが響き渡る。剣も魔法も見せる必要はない。

集団という数の武器を見せるだけで、勇者一行は魔王の城に入ることに成功した。


 魔王の城の中は薄暗く、天井が高い建物だった。

建物のはるか上方には青い松明が灯り、魔王の城をほの明るく照らしている。

魔物たちがいる。骸骨の魔物や鎧の魔物たちだ。

侵入者である勇者一行に、すぐに気がついたようだ。

しかし明らかに躊躇している。このまま戦っても良いものか。

狭い通路は多人数集団の利点を発揮させにくい。

それでも、今、魔王の城の中には、

魔物たちの集団を遥かに上回る数の勇者一行の集団がいた。

魔物たちも愚かではない。

結局、魔物たちは多人数の集団を相手に戦うことを選ばず、

魔王の城の奥へと引いていった。

引く相手を追撃するのは常套手段。

しかし勇者は今、それを選ばなかった。

勇者一行はまだ魔王の城の中に入ったばかり。

どこに罠があるとも、魔物の集団が潜んでいるとも限らない。

目先の戦果に飛びつくのではなく、慎重に進むことを選んだ。

勇者一行は集団を崩さず、整然と魔王の城の奥へと進んでいった。


 やがて勇者一行の前に、三叉の通路が現れた。

どの通路の先も弧を描いていて先が見通せない。

きっと勇者が一人きりであれば、適当な通路を選んで進んだだろう。

しかし今、勇者にはいくつもの集団が味方として控えている。

勇者は盗賊など偵察に向いている者たちに、通路の先を調べさせた。

その結果、どの通路の先にも魔物の集団が控えていた。

しかし、その数は勇者一行ほどではないらしい。

だから勇者は、一つ一つの通路を虱潰しにすることを選んだ。

まずは右の通路から、通路一杯に使うほどの集団を組んで魔物に向かった。

魔物たちは当然反撃するのだが、腕も数も及ばない。

お互いにさしたる被害が出る前に、魔物たちは通路の奥に逃げ込んだ。

通路の奥には、大きな牢獄があった。

魔物たちは牢獄に入り、中から鍵をかけ、立てこもっている。

これでは魔物と戦うことができない。

いや、もう戦う必要はないだろう。相手は戦いから逃げているのだ。

結局、勇者一行は魔物たちを牢獄に閉じ込める鍵の魔法をかけ、

それから三叉の通路まで戻ってきた。

そして次に左の通路を進むことを選んだ。

しかし結果は同じ、魔物たちは勇者一行の数に恐れをなし、

通路の奥の牢獄に立てこもってしまった。

勇者は逃げる魔物を追撃することを選ばず、

ここでもまた鍵の魔法で魔物たちを牢獄に閉じ込めたのだった。


 三叉の通路の左右の魔物は無力化した。

だとすれば、本命は真ん中の通路ということになる。

勇者一行は真ん中の通路を進んでいった。

するとそこには、大きくて豪華な扉があった。

きっと中には大事なものがあるに違いない。

早速確かめたいものだが、その前に立ち塞がるものがいる。

大きくて真っ赤な牛の顔に、筋骨隆々の身体。

ミノタウロス、強力な魔物と伝えられる魔物だ。

素直に一対一で戦えば、勝てても無事では済まないだろう。

だが勇者は慌てず、仲間の集団に指示を出した。

「盾を持つ騎士たちよ、前へ。攻撃を防げ!

 魔法使いたちと射手たちよ、

 盾の後方からミノタウロスを狙い撃て!」

勇者一行の集団は指揮どおりの陣形になり、

ミノタウロスに遠くから魔法と矢の雨を浴びせかけた。

ミノタウロスは屈強な身体で知られている。

しかし、魔法で皮膚を焼かれた部分を矢で貫かれたり、

魔法で凍らされた皮膚を投石で割られるなど、苦戦を強いられた。

自慢のミノタウロスの斧も、相手に近づけなければ意味がない。

それでもミノタウロスは力任せで歩みを進め、

盾を構える騎士たちを斧で薙ぎ払った。

「ぐはっ!」

ふっ飛ばされて床や壁に叩きつけられる騎士たち。

すると勇者の指揮で、空いた穴には新たな盾を持つ騎士が、

負傷した騎士たちは治癒師たちによって治療されていく。

ミノタウロスは斧を振るっても振るってもきりがない。

それだけの数を、役割分担を、勇者一行はやってのけた。

やがて音に聞こえしミノタウロスにも、限界がやってきた。

今や腕や身体は傷だらけ、足は氷の魔法で凍らされていた。

そしてそれまで後方で待機していた戦士たちが一撃!

ミノタウロスの足を氷ごと砕いてみせた。

ミノタウロスの巨体は崩れ落ち、もう戦うことはできなくなった。

勇者は言う。

「もう勝負はついた。

 足がなければ、ミノタウロスは斧を振るうこともできないだろう。

 であれば、殺す必要はない。」

こうして勇者一行は、ミノタウロスを無力化しただけで殺すこと無く、

大きくて豪華な扉を開けた。


 大きくて豪華な扉の中は、金銀財宝が積まれた宝物庫だった。

飾られているのは宝物だけではない。

伝説に語られる剣や盾など、戦いに役立つであろう物も含まれていた。

しかし、勇者は言う。

「みんな、ここの宝物には手を出さないでくれ。

 罠の可能性があるし、武具の現地調達は危険だ。

 我々には既に使い慣れた武具がある。

 ここは素通りし、いずれ魔王を倒した後で使い道を決めよう。」

「は、はい・・・」

それでもやはり幾人かの者は宝物に未練があるようだった。

誰だって金は欲しいし、強力な武具は頼りになる。

しかし勇者は重ねて命じた。

「宝物には手を出すな。そのほうが安全だ。わかってくれ。」

勇者に頭まで下げられては、勇者一向に加わった者は逆らえない。

未練を残しつつも、勇者一行は宝物庫の宝物には一切手をつけず、

素通りして宝物庫の奥の扉をくぐっていった。


 宝物庫の先は、長い階段になっていた。

階段は地味に体力を奪う罠と言ってもいい。

勇者一行は、いつでも戦えるよう、慎重にゆっくりと階段を登っていった。

そうして階段を登りきった先、大きな広間に行き当たった。

大きな広間には、禍々しい長い絨毯が通路に敷かれ、

その絨毯の広い通路の左右には魔物の騎士たちが整列していた。

いよいよ最終決戦だ。

そう思われたのだが、勇者の予想は外れた。

「お前たち、よくぞここまでたどり着いた。

 心配するな。ここで戦うつもりはない。

 さあ、私のところまで来るが良い。」

通路の先から声が聞こえる。大きくもないのによく聞こえる声だった。

勇者一行は、いつ戦いが始まっても良いように、

戦いに備えた集団の編成で絨毯の上を進んでいった。

進んでいったその先にいたのは、魔王、その人だった。


 階段の上の広間は、魔王の玉座があった。

玉座に座っているのは魔王本人で間違いない。

しかし、何かがおかしい。

勇者に限らず人間の間では、魔王は強大な化け物とされている。

だが、今、目の前の玉座に座っているのは、

屈強な魔物でも、魔力に満ちた化け物でもない。

服装こそ禍々しく豪華な魔王のものだが、

魔王本人はただの人間、そのように見えた。

勇者たちの心の中を覗いたように、魔王は話し始めた。

「お前たち、私が魔物でないのが不満か?

 だが残念だが、これが真実だ。

 魔王の私は魔物ではない、人間だ。

 かつては私も勇者を名乗って、魔王を討伐するために、

 ここ、魔王の城の玉座までやってきた。

 しかしその時もやはり、魔王は人間だった。」

「魔王が・・・人間?」

勇者一行は驚き、集団の編成を解いてしまっていた。

しかし魔物たちは襲ってはこない。

それが、この魔王が本物で、本当のことを言っている、

魔物たちに戦う意志がない証だった。

勇者は大声を上げる。

「魔王に問う!何故お前は人間なのに、魔物といっしょにいる?」

すると魔王の答えは単純なものだった。

「それは、人間とも魔物とも戦いたくないからだよ。

 かつてはるか昔、この地球には人間も魔物も違いはなかった。

 しかしそこに魔法が発生し、人間と魔法使いに分かれてしまった。

 異なる二つの者は、いずれ争い合う運命。

 人間と魔法使いとの戦いが始まった。

 人間は銃で、魔法使いは魔法で戦っていた。

 お互いに核を使い、この地球を壊すほどの激しい戦いだった。

 その結果、人間は科学技術の継承者を失い、

 いくらかの人間たちは漏れ出た魔法の影響で醜い姿となった。

 世界は最初から今の姿ではなかったのだよ。」

勇者一行には、魔王の言うことがよくわからない。

「銃?核?何のことだ?」

すると魔王は薄く微笑んで答えた。

「銃とは、かつて人間が使っていた飛び道具だ。

 今に残る投石機などのようなものだ。

 核は・・・科学の産物だ。」

「そんなものがここにあるのか?」

「ある。この魔王の城には、核融合炉もある。

 お前たちは不思議に思わなかったか?

 この城の青い松明が、いつまでも消えず揺らがないことに。

 あれはただの松明の炎ではない。青色発光ダイオードだ。」

「青色・・・なんだって?」

「今は理解できなくてもいい。

 私からお前たち人間に提案したいのは、

 魔物と人間の戦いを止めること。

 それと、この魔王の城にある、失われた技術を使い、

 再び人間を争わせず栄えさせることだ。

 そのために、集団として動ける者たちが来るのを待っていた。

 魔物たちはあれで意外と集団で動くのには向いて無くてな。」

一度にたくさんの情報が与えられ、勇者一行は騒ぎになった。

あるものは魔王の罠だと切り捨てることを要求した。

しかしそれならば何故ここの魔物は襲ってこないのか、

それを答えられない限り、戦いを選ぶものはいなかった。

そしていくらかの話し合いを経た後、勇者は答えた。

「魔王に今一度問う。

 人間と魔物が協力すれば、戦いを止めることができるんだな?」

「もちろんだ。

 さっきも言ったが、元々は人間も魔物も同じもの。

 素粒子物理学の実験で偶然生み出された魔法が人間を変え、

 放射線が魔法を暴走させ人間を魔物に変えていったのだ。

 魔法を使える人間も魔物も、魔法を使えない人間も魔物も、元は同じ人間。

 元は一種類の魔法が使えない人間が、今は四種類の生き物に分かれたわけだ。

 この魔王の城には、その一部始終を記録した資料もある。」

「理由はわからないが、結論はわかった。

 俺としても、人間と魔物が戦わずに済むなら、それに越したことはない。

 しかし問題はある。魔王と違って、俺は勇者だが人間の代表ではない。

 俺たちが今ここで魔物と戦わないことを選んでも、

 他の人間たちは戦いを続けるかもしれない。」

「それを止めてもらうために、お前たちをここまで導いたのだよ。

 お前たちは集団で行動するのに適している。

 ということは、人と話し合いをするのにも適しているはずだ。

 それはどんな兵器や魔法よりも優れた能力だ。

 一人でいることの利点を知っている私とは別の価値がある。」

「なるほど、我々の集団をつくる技で、人間も魔物もまとめて、

 世界の戦いを終わらせるよう説得させようというのだな。」

「そうだ。長く苦しい戦いになるぞ。お前たちに耐えられるか?」

「耐えてみせるさ。何せ我々には、仲間がいるのだからな。」

こうして、魔王の城での戦いは終わった。

魔王を長とする魔物たちと、勇者に率いられた人間たちは、

お互いに和睦の印として手を繋ぐことができた。



かつて人間は、科学技術の使い方を誤り、

この世界を人間と魔物に分け、争いの原因を作り、

争いの結果、科学技術の担い手を失ってしまった。

しかし、失われた科学技術の資料や機材は魔王の城に残っている。

魔法を使いこなした人間であれば、きっと科学技術も使いこなせるだろう。

人間は二つ、いや四つに分かれた自分たちを一つに取り戻し、

失った世界を取り戻すことができるだろうか。

それはこれからの人間たちの行動にかかっている。

人間という人間と、魔物という人間の、集団パーティーが今作られる。

それがどれほどの規模になるのか、今はまだわからない。

世界の隅々まで集団になるのは難しい。

集団の最小単位は一人。それを勇者と魔王は知っている。

集団の大切さを知る者は、一人でいることの大切さも知っているから。

必要な時に必要な人数で、集団を形成していこう。

最後の敵は人間か魔物か、今はまだわからないのだから。



終わり。


 人間が魔王と対峙すべく、魔王の城に挑む話でした。


各職業の冒険者たちが活躍できるよう、連載形式にしました。

しかし、私が連載形式に不慣れなことで、終わるまで間が開いてしまいました。

それと最終章が急ぎ足になってしまったことについて、反省しています。


この世界は地球の遥か未来の姿でした。

素粒子物理学は魔法を生み出し、

原子核物理学は放射線による変質をもたらしました。

物理学を上手く使えば、争いなどせずに済んだはずでした。

しかしこの世界では、魔法により、

人間から魔法使いという変異種が生まれたため、

二者に分かれて激しく争い、二者は四者になり、

文明を破壊するまでになってしまいました。

複数に分かれたものを戦わずに済ませるには話し合いしかない。

一人には一人に、集団には集団にしかできないことがあります。

それらを適材適所で使い分けて、四者に分かれた人間と魔物は

これから和睦への厳しい戦いに赴くのです。


お読み頂きありがとうございました。


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