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第十九話:放課後サバイバル! 五大競技と、勝者の権利

「ルールは単純! 総合得点が一番高かった奴が、今日の航平の放課後を独占する!」


 美沙の宣言により、ガラガラになった放課後教室で突如開幕した『第一回・渡辺航平・放課後デート争奪戦』。

 呆然とパイプ椅子に座る俺を中央に配置し、五人のヒロインたちが火花を散らしている。


「で? 具体的に何で勝負するつもりなんだよ。学校で暴れて先生に怒られるような真似はナシだぞ」

 俺が釘を刺すと、美沙はフフンと胸を張って黒板に大きく文字を書き始めた。


「安心しなさいって! 放課後の校舎でできる、女子の魅力を競う『五大種目』を用意したわ!」


 黒板に並んだ種目は以下の通りだ。


 第1種目:【知力】白熱! 放課後クイズ対決(配点:10点)


 第2種目:【包容力】心の汗を拭え! 汗拭き&おしぼり対決(配点:10点)


 第3種目:【家庭力】胃袋を掴め! 購買の限定パン争奪ダッシュ(配点:20点)


 第4種目:【ヒロイン力】夕暮れの教室! 萌えキュン告白シチュエーション(配点:30点)


 最終種目:【愛の重さ】審判・航平への『直接アピールタイム』(配点:50点)


「……配点が後半に行けば行くほどガバガバじゃないか?」

 俺のツッコミを無視して、試合はあっけなくスタートした。


【第1種目:知力対決】

 学力と航平への理解度を問うクイズ戦。

 ここでは、やはり学年首位の白石葵と、高貴な教育を受けてきた九条麗奈が圧倒的な強さを見せた。


「第一問! 航平が一番好きな駄菓子は?」

「はい! チーズ味のうまい棒ですわ!」

 麗奈が優雅に挙手して即答する。

「正解! 九条さん10ポイント!」


「第二問! 航平が数学のテストでいつも引っかかるケアレスミスのパターンは?」

「符号の書き換え忘れと、最後の計算での掛け算の計算ミスです」

 白石が冷徹なまでの精度で即答。

「正解! 白石さん10ポイント!」


(俺の恥ずかしいプライベートが暴かれていくだけなんだが!?)

 俺が頭を抱える中、第1種目は白石と麗奈が10点ずつを獲得して好スタートを切った。


【第2種目:包容力対決】

「部活帰りの航平をいかに優しく、胸キュンさせる形で労われるか」を競う実技対決。


「航平、汗かいたでしょ? はい、冷たいおしぼり!」

 美沙が家から持参した保温容器から、キンキンに冷えたタオルを取り出して俺の顔に押し当ててくる。冷たくて気持ちいいが、ちょっと強引だ。


「渡辺、運動の後はコレだろ」

 新田は、スポーツタオルを俺の首にサッと掛け、後ろから俺の頭をポンポンと優しく叩いた。

「ほら、よく頑張ったな」

 部活で鍛えられた自然なスキンシップと、少し照れくさそうに微笑むギャップ。これには思わずドキッとしてしまった。


 指輪を通じて、新田の心が『うわああ! 触っちゃった! 心臓破裂しそう!』と叫んでいるのが伝わってきて、余計に甘酸っぱい。

 結果、第2種目は新田が10ポイントを獲得!


【第3種目:家庭力対決】

 購買に残った「幻の限定いちご焼きそばパン(※謎のメニュー)」を、購買部まで走って最初に買って戻ってきた者が勝ちという単純明快なレース。


「位置について……よーい、ドン!」


 美沙の合図と同時に、廊下を爆走したのは陸上部エースの新田遥……かと思われたが、


「お退きなさいなー!!!」


 なんと、高級ブランドの制服の裾を派手に翻し、圧倒的な脚力で先頭を駆け抜けたのは九条麗奈だった!

「な、なんで九条さんがそんなに速いのよ!?」

「聖ルチアの乗馬とテニスで鍛え上げた身体能力を舐めないでいただきたいわ!」


 凄まじい執念で購買からパンを奪取し、息を切らせながら教室に戻ってきた麗奈。

「はぁ……はぁ……! 勝ち取りましたわ……! 渡辺航平、あーんしなさい!」

 顔を真っ赤にしながら、パンを差し出してくる麗奈。

 配点20点を獲得し、麗奈が一気にトップへと躍り出た!


【第4種目:ヒロイン力対決】

 夕日が差し込む静かな教室。

「夕暮れの放課後、二人きりの教室で航平に可愛く告白する」という、まさに乙女の演技力と本気度が試される最高難度種目。


 トップバッターは、元地味子の椎名紬。

 彼女は分厚い眼鏡を外し、夕日に照らされた綺麗な黒髪を揺らしながら、俺の目の前まで歩み寄ってきた。文化祭のステージを経て磨かれた表現力が光る。


「渡辺くん……」

 紬は俺の制服の袖を、細い指先でギュッと掴んだ。

 上目遣いで、少し潤んだ瞳が俺を真っ直ぐに見つめる。


「私ね……地味で、自分のことが大嫌いだった。でも、渡辺くんが私を見つけてくれたから、今の私がいるの。……ねえ、アイドルの私じゃなくて、ただの女の子の私を、一番近くで見ていてくれませんか……?」


「〜〜〜〜っ!?」

 破壊力抜群。俺の心臓が物理的に跳ね上がった。

 指輪からは『好き……好き……渡辺くん、大好き……っ!』という純度100%の情熱が流れ込んでくる。


 審査員の美沙たちが「強い……強すぎる……!」と頭を抱える中、紬が見事に30ポイントを奪取!


 現在、ポイントは全員が接戦の状態で、ついに最終種目へと雪崩れ込んだ。


【最終種目:愛の重さ(直接アピール対決)】

「最後は配点50点! 航平の心を一番動かした奴が優勝よ!」


 美沙の強引な進行により、俺は教室の教壇に置かれた椅子に座らされることになった。

 夕暮れ時の教室。オレンジ色の光が室内を包み込み、どこか甘やかで切ない空気が満ちていく。


 ヒロインたちが一人ずつ、俺の前に進み出て、自分の「本音」をぶつけてくる。


 まず進み出たのは、図書委員の白石葵だった。

 彼女は静かに俺の前に膝をつき、俺の手をそっと両手で包み込んだ。

「渡辺くん。私は昔から『優等生』という看板ばかり見られて、誰も私自身を見てくれませんでした。でも、あなたが図書室で私を見つけてくれた。……私の頑張りを褒めてくれたあの日から、私の世界にはあなたしかいません。あなたに相応しい女性になれるよう、私はこれからもあなたの隣に居続けます」


 次に進み出たのは、陸上部の新田遥。

 彼女は少し照れくさそうに頭を掻きながら、俺の肩にぽんと手を置いた。

「私さ、走れなくなったらみんなに見捨てられると思ってた。でも渡辺が『走らなくたって新田は新田だ』って言ってくれて……本当に救われたんだ。私の足が治った今、次に走る理由は……渡辺の隣に追いつくためだから。絶対、離れないからね」


 続いて、椎名紬。

「渡辺くん。私はあなたの魔法で変われました。でも、今度は私が、渡辺くんを世界で一番幸せにする魔法をかけたいです。私を好きになってくれたこと、後悔させません」


 そして、幼馴染の美沙。

 彼女は俺の目の前に立ち、少し涙ぐみながら微笑んだ。

「航平。小さい頃からずっと一緒で、空気になるくらい当たり前の存在だった。でも……他の女の子に航平が優しくしているのを見るたび、胸が張り裂けそうなくらい痛かったの。もう『幼馴染』のフリをするのはやめる。私を、一人の女の子として好きになって、航平……!」


 最後に、九条麗奈。

 彼女は高慢な態度を完全に捨て、真っ赤な顔で俺の前に立ち、小さく震える手で俺のジャージの裾を掴んだ。

「私は……九条家の名前に縛られ、誰も信じられずに生きてきました。叔父たちに追い詰められ、絶望していた私を……あなただけが、あの泥臭い手で救い出してくれた。……責任を取りなさい、渡辺航平。私をこんな風に、一人の男の人を想って胸を痛めるような人間に変えたのは、あなたなのですから……!」


 ――ドクン! ドクン! ドクン!


 俺の左手の小指にある銀の指輪が、破裂しそうなほどの熱量を帯びて脈打っていた。

 指輪を通じて流れ込んでくるのは、五人五様の、一切の嘘偽りもない純度100%の愛と情熱。


 かつて、爺ちゃんが言っていた。

『男ってのはな、何歳になってもガキだが、女ってのはな、何歳になってもお姫様なんだよ』


 俺がこれまで必死に向き合ってきた彼女たちの悲鳴、悩み、そして決断。

 そのすべてが今、俺への強い好意となって目の前に結実していた。


「おい、航平」

 脳内で、指輪の精が深く、満足そうに頷く気配がした。

『いい顔になったじゃねえか。お前が命がけで向き合ってきたお姫様たちだ。……さあ、審判員。お前が選ぶのは、誰だ?』


 俺は深く息を吐き出し、膝の上の拳を強く握りしめた。


 五人のヒロインたちが、息を呑んで俺の口元を見つめている。

 放課後の静まり返った教室に、俺の決断の声が響き渡ろうとしていた。


「俺が選ぶのは――」

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