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第17話 「来るでしょ?」

 昼休み。


 気付けば、また屋上に来ていた。


 扉を押し開ける。昨日とは少し違い、穏やかな風が顔を撫でた。


「……なんだ、お前だけか」


 今日は安藤も瀬川もおらず、姫百合一人だった。


 姫百合は俺の方に向き、不貞腐れたような顔をする。


「悪い?」

「そこまでは言ってねぇだろ」


 俺は姫百合の前に腰を下ろす。


「あいつらはどうしたんだ?」

「玲奈は昼練。ゆいは他の子とご飯」

「へぇ」


 少し意外だった。安藤は、まあ分かる。どうやら部の期待を背負っているらしいから。


 でも、瀬川はいつも姫百合と一緒に居る姿を見ていたから、他のやつといる所を想像できない。


「……ゆいはまぁ、可愛いから」

「自虐か?」


 姫百合のその言葉は、まるで自分は可愛くないと言っているようだ。


「少しは謙虚さを学んだんだな」

「は?」


 いつも通り、俺を睨む。


「じゃあお前、俺が来なかったら一人で飯食ってたのか?」

「……えぇ、そうね。悪い?」

「誰もそうは言ってねぇよ。俺はいつも一人だからな」

「アンタと一緒にしないで」


 相変わらず棘がある。


 でも、そうか。コイツもこういうところあるのか。


「私は普段、あの子達以外とは居ないから。お昼も誘われないのよね」

「ふーん」

「あ、男子にはよく誘われるわよ」

「いや、聞いてねーよ」


 呆れたように呟く。


「まあ、いつものお前は近寄り難いからな」

「……そうかしら?」

「お前はちょっと、真面目すぎなんだよ」

「うっさいわね」


 ふいっとそっぽを向く姫百合。


「……男子には意図的にそうしてる自覚はあるけど、女の子にはそれなりの態度、取ってるんだけどな……」


 言葉の終わりが、少しだけ弱かった。


 それを意外に思いながら、俺は軽く言う。


「まぁ、今後は一人で食うことは減るだろ」

「……え?」

「ここ、来てるだろ?」


 目を丸くし、俺を見る。


 少し沈黙が続いた。


「……そうかもね」


 そう言葉にして、姫百合は視線を逸らした。


 そんな姫百合を横目に、俺はおにぎりの袋を開ける。


 その光景を目にした姫百合が、口を開いた。


「湊」


 俺の名を呼ぶ。


「なんだ?」

「……前から気になってたんだけど、もしかしてご飯それだけ?」

「あ? そうだが?」


 俺はおにぎりを口に含みながら、そう答える。


「……この前、ちゃんとご飯食べてるって言ってたじゃない」

「だから食ってんだろ」

「……はぁ」


 頭に手を触れ、首を振る。


「それは食べてる内に入らないわよ」

「いや、入るだろ」


 呆れたように俺に目を向ける。


「それじゃあ、お腹空くでしょ」

「……飯に金を使うなんて、勿体ねぇんだよ」

「勿体ないってアンタ……」


 そう言って姫百合は視線を落とす。


 そこには、弁当があった。


「いや要らねぇよ?」

「誰もあげるなんて言ってないわよ」

「あっそ」


 俺は気にせず、おにぎりを完食する。


 しばらく無言が続いたが、姫百合が先に口を開いた。


「湊」


 さっきのように俺の名を呼ぶ。


 だが、その声はさっきよりも穏やかだった。


「ん?」


 俺は、姫百合を見る。


「……弁当」


 姫百合は揺れる髪を抑えながら、


「作ってあげる」


 そう言った。


「……えっ?」


 一瞬、言葉に詰まる。


「今、なんて?」

「だからっ」


 姫百合は、視線を逸らす。


「弁当! 作ったげるって言ってんの!」

「……いや、なんでだよ」

「だって、それだけじゃ……お腹空くでしょ」

「は?」


 意味が分からなかった。


 俺は首を横に振る。


「別に要らねぇよ」

「アンタの意見なんか聞いてないんだけど。それに、アンタの為じゃないし」


 姫百合は、一度口を閉じた。


 そして、また小さく声を上げる。


「……私の為よ」

「なんでそうなるんだよ」


 ますます意味が分からない。


 姫百合は視線を逸らしたまま、続ける。


「そうすれば、アンタ……」


 一瞬、言葉を途切れる。


「……来るでしょ?」


 少し、時が止まったような気がした。


「だから……私の為」


 姫百合は再度、俺の方に向く。


 その視線は、いつもより柔らかかった。


「ね? いいでしょ?」


 その言葉に俺は、


「……それなら、仕方ねぇか」


 ただ、そう答えるしかできなかった。


 風が姫百合の髪を揺らす。


 少し、甘い匂いがした。

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