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第18話 「普通に美味い」

 翌日。


 いつも通り、頬杖をついて授業をやり過ごす。


 ただ、いつもと違うのは、自然と時計を見る回数が多くなった。


 午前の授業が終わると、俺は席を立ち屋上に向かう。


 いつもの廊下を抜け、階段を登る。そして、屋上の扉を開く。


 そこにはすでに姫百合がいた。


「……来たわね」


 姫百合が俺を見て言う。


 少しほっとしているような表情をしていた。


「早いな」

「そう? まあ、私のクラスの方が近いからね」


 俺は姫百合の前に腰を下ろす。


「それより……ほら」


 特に装飾がされていない、無機質な弁当箱。


 それを無造作に差し出される。


「……あぁ」


 言葉に詰まり、それだけ返した。


 どうにも気恥ずかしくなり、矛先を変える。


「今日も二人は居ないんだな」

「えぇ」


 姫百合はそう言うと、自分の弁当箱を開けた。


「ま、玲奈は後から来ると思うけどね」


 そう口にして、手を合わせる。


「いただきます」


 箸をケースから取り出して食べ始めた。


「何してるのよ。食べないの?」


 俺が弁当を開けずにいるのを怪訝に思ったのか、こちらに視線を向ける。


 そう言われて、俺は蓋を開ける。


 中は、綺麗に詰められていた。卵焼きに、唐揚げ。野菜もきちんと入っている。彩りも、整っていた。


「これ、全部お前が?」

「他に誰が作るのよ」

「……ちゃんとしてんな」


 思っていたよりも、ずっと。


「当たり前でしょ」


 ……ただ、卵焼きだけ、少し形が崩れていた。


「……これ」


 卵焼きを指で示す。


「初めてか?」

「うるさい」


 そう言いながら、俺は「いただきます」と口にする。


 最初に箸に取ったのは、少し小さめに切られていた唐揚げだ。それを口に運ぶ。


「……どう?」

「普通」

「は?」

「いや、普通に美味い」


 もう一口、箸を伸ばす。


 その時だった。


「おー、いい匂いするねぇ」


 背後から声がした。


「玲奈」


 姫百合が、小さく呟く。


 振り返ると、安藤が立っていた。


 安藤は、ちらっと弁当に目を向ける。


「へぇ……」


 意味ありげに笑った。


「それ、もしかして美咲の?」

「そうよ」


 姫百合が即答する。


「ふーん……」


 安藤はにやっと笑う。


「ついにそこまで来たんだ」

「何がよ」

「いやいや、なんでもないよ」


 そのまま、腰を下ろす。


 安藤も弁当箱を広げ、食事を始める。


「それで、湊くん」


 ふいに、俺へと問いかける。


「毎日来るの?」

「……来るでしょ」


 姫百合が先に答えた。


「……だとよ」


 俺はそれだけを言うと、食事に戻る。


「そっかぁ」


 安藤は俺たちに視線を向けていたが、姫百合の方に真っ直ぐ向く。


「良かったじゃん、美咲」


 少しだけ、からかうようにそう言った。


 姫百合はそっぽを向く。頬が、わずかに赤かった。


「勘違いするような言い方やめて。それだと私が湊と一緒にご飯が食べれて嬉しいみたいじゃん」

「え、違うの?」

「違うわよ! 玲奈、分かって言ってるでしょ!」

「バレた?」


 もうっ、と少し怒りながら、食べ進める姫百合。


 その姫百合を見て、安藤は柔らかい笑みを浮かべた。


「もう……淋しくないね」

「私は別に、淋しいなんて思ってないわよ」


 安藤のあんな顔は初めて見た。


 二人がなんだか遠くに感じる。


「それにしてもさ」


 安藤が箸を止める。


「美咲が誰かに弁当作るとか、初めて見たかも」

「……別に、初めてじゃないし」

「へぇ?」


 安藤がまたにやっと笑う。


「じゃあ誰に?」

「……家族とか」

「ふーん」


 明らかに納得していない顔だった。


「なんか、ジェラシー感じちゃうなぁ。私にすら作ってくれたことないのに」

「玲奈は要らないじゃない」

「じゃあ、要るって言えば作ってくれるのかな?」

「まぁ、作らないけど」

「ほらぁ」


 安藤はわざとらしく不貞腐れたような顔をする。


 数秒後にはケロッとしていたが。


「まあでもさ」


 安藤が視線をこちらに向ける。


「続けなよ、それ」

「は?」

「弁当だよ」


 俺から姫百合へと視線を移して、


「楽しそうだし」


 最後にそう言うと、手を合わす。


「ごちそうさま」


 それに続き姫百合も手を合わす。


「湊、箱ちょうだい」


 そう言われ、視線を落とす。すでに弁当箱は空だった。


 俺は姫百合の目をちらっと見て、


「ごちそうさま」


 そう呟く。


「……お粗末さま」


 姫百合はそのまま視線を合わせず、弁当箱を回収した。


 その後はいつも通り、チャイムが鳴るまで俺たちは話続け、会話が途切れることはなかった。

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