第14話 「ショッピングモール、いた?」
翌日の学校。
やはりというべきか、学校中が大騒ぎだった。
姫百合が『王子』とショッピングモールでデートしていたという噂。
登校して、教室に入る前からその噂は耳に入っていた。
教室でも、その話ばかりだった。
「……はあ」
溜め息が自然と漏れた。
──お昼休み、待ってるから
あの言葉が、脳裏を巡る。
屋上にはほとんど誰も来ないとはいえ、ゼロではない。このままだと、俺=王子というのがいつかはバレてしまうかもしれない。
それでも意識は、屋上に向いていた。
そのことに気がついて、再度溜め息を吐く。
そんな悶々とした気持ちでホームルームを終え、午前の授業が始まる。
授業が始まれば、流石にクラスメイトも授業に集中しようと黙って先生の話を聞いていた。
だが、それでもどこか集中しきれていないようで、ソワソワしている生徒が何人か居た。
しかし、俺が気になったのはそれとは別にあった。
最初は気のせいかと思ったが、授業中、何度か視線を感じた。
一度や二度なら気のせいで済ますが、午前中の授業の間で、何度も視線を感じた。
このまま見て見ぬ振りをするのは簡単だが、何かソワソワして気になった。
だから午前の授業が終わり、昼休みに入ると俺はその視線の主に話しかけに行った。
「柏木」
柏木優華。このクラスの中では良く話す方だ。もっとも、俺から話しかけるのは滅多にないが。
「えっ、く、九条くん?」
突然俺から話しかけられて取り乱す柏木。
「ど、どうしたの?」
それでもなんとかそう俺に問いかける。
「何か俺に用があるのか?」
「え?」
「俺のこと見てただろ」
柏木は俺の顔を見ながら、赤面する。
「き、気づいてたの……?」
「まぁ、あれだけ見られたらな」
「ぅ……」
机に肘を付いて、顔を覆い隠す柏木。耳まで赤く染まっている。
「それで、何か用か?」
手で隠していた顔を覗かせて、赤い顔のまま、それでも俺に視線を合わせた。
「その……今日、私たち日直、だから」
「ん?」
日直?
あぁ、そういえば日直だったか。それで、俺のパートナーが柏木だったな。
噂話に気を取られて、すっかり忘れていた。
「それで……それがどうしたんだ?」
「今日、昼休みに職員室に二人で来るようにって、ホームルームの時」
「……あー」
なんか、そんなこと言ってたような気もする。全く話聞いてなかったから覚えていなかったが。
そうか、それで俺の方見てたのか。
「あ、別に何かこの後予定があるんだったら、私一人で行くから大丈夫だよっ!」
俺が考え事をしていると、柏木は少し勘違いしてそう提案してくる。
「いや、それはさすがにな……。さっさと行こう」
予定がないといえば嘘になる。姫百合に屋上に来るように言われているが、まあ、そこまで長いこと拘束はされないだろう。
おそらく荷物運びか何かだろう。
俺は柏木と共に職員室へ向かう。
「待ってたぞ」
職員室に入ると、響子さんが俺たちを見てそう言った。
「悪いが、これを教室まで運んでくれ」
指し示された場所にはダンボールが二つ。
「分かりました」
柏木は頷くと、段ボールを持ち上げる。しかし思ったより重かったのかよろめく。
俺は背中をそっと支える。
「……あ、ありがとう」
少しだけ、困ったように笑う。
「あぁ」
そう返事して、もう一個の方の段ボールを持ち上げるが、これは少し軽かった。
「柏木」
「な、なに?」
「俺のと交換しよう」
「え?」
そう言って俺は、一度段ボールを床に置き、柏木のを貰う。やはりこっちの方が重かった。
「ありがとう……」
小さく、でもはっきりと言う。
俺は段ボールを抱えたまま、職員室を出る。
その横に柏木も並ぶ。
「重くないか?」
「え、あ……うん。大丈夫」
少しだけ間を置いて、
「九条くんの方こそ、大丈夫?」
「大丈夫だ」
しばらく無言で教室に向かう。
「あ、あのさっ」
柏木が普段とは少し強い口調で俺に話しかける。
「なんだ?」
俺は、足は止めずに柏木の続きを待つ。
柏木は、何かを確かめるように、こちらを見ていた。
「……昨日、さ」
柏木は一度、言葉を切るように間を置くと、意を決したように口を開いた。
「ショッピングモール、いた?」
その言葉を聞いた瞬間。
段ボールが、手から滑り落ちた。
「えっ?」
足を止めて、柏木を見る。
柏木は真っ直ぐ俺を見ていた。
俺は、
何かが、
崩れる音を聞いた気がした。
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