3話:招待状
始まりは不穏でしたが、実際のところはごく普通の貴族令嬢としてすくすくと成長しております。
優しい両親の愛を一身に受け、広い邸宅を駆け回っては使用人たちに甘え、彼らもそんなわたくしを笑顔で見守ってくれています。
現在住んでいる邸宅は領地にあり、出入りする人も最小限で、貴族に必須の社交はお父様がたまにお出掛けされる程度の数少ないものです。娘のわたくしが病弱で、お母様も産後は体調を崩しがちのため、領地で療養していると周りに説明しているようです。実際はお母様は健康そのもの、わたくしは風邪をひいても数日寝ていれば治るといった健康優良児ですが。
お喋りが出来るようになってからは淑女教育も始まり、現在は礼儀作法、歴史、語学、ダンス、乗馬とそれぞれの科目に家庭教師がつき、忙しくも充実した日々を過ごしております。
そんな幸せな幼少期を送っているわたくしの元に一通の招待状が届きます。お父様の渋いお顔と、普段は何事にもおっとりと微笑むお母様の不安げな表情を見るに、よろしくない知らせであるのがわたくしにも分かります。
「王城で大規模な舞踏会が開催されるらしい。一週間ほど続き、よほどの事情がない限り貴族籍にある者は全員参加するように、と」
「いつものようにあなただけの参加では済まない、という事ですね…」
「あぁ、もしかすると第一王子のお披露目があるかもしれないな」
「第一王子…王太子になられる可能性が1番高いお方のお披露目。そうなると同じ年頃の子女が集められて、側近や婚約者の選別が行われますね…」
「間違いなくな…」
そう言って、お父様とお母様は重い溜め息を吐いて終われます。最近身に付けた楚々とした仕草でお茶を飲んでいたわたくしは首を傾げます。
「わたくしが社交にでるのはまだ早い、と言うことでしょうか?家庭教師の皆様には合格をいただいておりますが…」
「いや、シアの作法は完璧だ。よくやっているよ」
「それは良かったです。ありがとうございます」
「あなたはわたくしたちの誇りよ、シア。それは間違いないわ。けれど…どうにかわたくしたちだけの参加にできないかしら?…ほら、シアの身体は王都まで移動するには弱すぎるとか」
「今回ばかりは難しいだろう。そこまで病弱なら伯爵家の存続が困難だと思われかねない」
頭を悩ませる両親を見て、思い切って言ってみる。
「お父さま、お母さま。わたくし、王都に行ってみたいです。家族以外の方とお会いしてみたいです」
「シア…」
「王国中の貴族が集まるのでしょう?もしかしたら、その中にお友達になってくださる方がいらっしゃるかも…わたくし、お友達が欲しいです!」
最近、読んでもよいと許可がおり、簡単な物語を読み始めています。本当はもっと複雑な内容が良いのですが幼女らしく控えめにしています。登場人物のやり取りを通して前世の友人らを思い出し、本の感想を語り合うような交流ができたら、と常々思っていたのです。
滅多にしないおねだりをするわたくしの姿に両親は目を合わせ、何度目かの深い溜め息を吐きます。
「…そうね。期間中は王国中の子女が集まるのだから、中にはシアと気の合う子もいるかもしれませんね…」
「…確かにいつまでも領地に閉じ込めてはおけないか」
どうやらわたくしも連れて行ってもらえるようだと分かり、やったぁ、と少々はしたない声を上げ、お父様とお母様の頬にキスを贈ります。
「ありがとうございます!セルヴァン家の一員として恥ずかしくないよう努めますわ」
うきうきと期待に胸を弾ませるわたくしとは反対に、お父様は苦笑いを浮かべていて、お母様も物憂げな様子。しかし、わたくしはまだ見ぬお友達に想いを馳せるのに忙しく、なぜそのような表情をしているのか考えに至りませんでした。




