15-世界の型
朝。
通学路の交差点で、拓海はふと足を止めた。
横断歩道の向こう、
昨日と同じ柄のTシャツを着た若い男が、
昨日と同じ位置で信号を待っている。
リュックの位置も、手の動きも、
昨日と、まったく同じだった。
信号が青に変わると、
その男は左足から踏み出し、
スマホを一瞥しながら、ポケットに手を突っ込んで歩き出す。
拓海はその一連の動きを見ながら、眉をひそめた。
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(……リアリティに欠けるな)
(ここが仮想現実だってことは、ログインしたときから分かってる)
(でも──気づいてきた。作り込みが甘い。再現性が高すぎる)
(あいつら……動く背景の“繰り返し”だ)
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教室に入っても、その違和感は消えなかった。
隣の席の井上が、
プリントを受け取りながら言った。
「進路、どうするか悩むよな」
──昨日も、まったく同じセリフを、
まったく同じタイミングで口にしていた。
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(……井上も、そうなのか?)
そう思って横目で見たが、
井上は昨日と同じように笑って、同じように席に戻った。
表情も、口調も、挙動すら完璧に一致していた。
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(いや……でも、昨日はそのあと、屋上に誘ってきたよな)
それだけが、“パターン外”だった。
昨日と同じように見えて、
どこかに”違う部分”がある──
そんな微かな期待と、濃くなる不信。
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(他の連中は“定数”。でも、井上だけは……)
そこまで考えて、拓海は頭を振った。
(……まだ決めつけるには早い)
(こいつは何か、他と違う。昨日、確かに”意思”があった)
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昼休み。
教室を出て廊下を歩きながら、
拓海は改めて、周囲の世界を眺めた。
立ち上がるタイミング、
歩く姿勢、
ドアを開ける順番、
誰かが何かを言うタイミング──
全てが、“型”の上にあるように思えた。
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(パターンで動いてる。テンプレートをなぞってる)
(これが現実の“日常”なら、もう少しバラつきがあるはずだ)
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クラスの誰かが廊下でふざけ合い、
先生がそれを軽く注意し、
女子グループのひとりが「またぁ?」と苦笑いする。
──それすらも、昨日と同じだった。
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拓海は、廊下の端から空を見上げた。
雲の形は違う。
でも、動きはどこかぎこちない。
(これは……リアルに似せた何か)
(作られた”型”の中で、繰り返されるルーチンワーク)
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拓海の中で、
世界は徐々に、“現実”の皮を剥がしつつあった。




