11-すれ違い
放課後、教室にはまばらにしか人が残っていなかった。
井上も、その中の一人だった。
拓海は、何となく井上の席へと歩み寄る。
「そういやさ、バイト、決まったんだっけ?」
気軽なノリで話しかけたつもりだった。
──が。
井上は、何でもないような顔で答えた。
「ん?まだ探してるよ。」
拓海は、ふと眉をひそめた。
(……あれ?)
このやり取り、前にもやった気がする。
しかも──
たしか、井上は「面接受けて受かった」って、
数日前に自分で話してたはずだ。
⸻
「……この前、受かったって言ってなかったか?」
拓海が問い返すと、
井上は一瞬だけ、表情を止めた。
──ほんの一瞬。
すぐに、無表情に戻って言う。
「まぁ、探してるけどね。」
その返しは、
あまりにも機械的だった。
拓海の胸の奥に、
ひやりとした冷たいものが広がる。
⸻
違う。
こいつは、“覚えてない”んじゃない。
“繋がっていない”んだ。
昨日も今日も、
彼の中では何も変わっていない。
ただ、そこに存在するだけ。
⸻
教室の窓から外を眺めると、
グラウンドで部活をする生徒たちが、
まるでプログラムされたような動きで走り回っていた。
(……仮想現実にしても、出来が悪すぎる。)
拓海は、思わず拳を握りしめた。
井上は、それに気付くこともなく、
ぼんやりと窓の外を眺め続けている。
何も疑わず。
何も違和感を持たず。
ただ、存在しているだけ。
まるで、
生きている人間の”ふり”をしているかのように。




