10-邂逅
駅前の広場。
雑踏の中で、拓海は黒いパーカーの少年を見失わないように歩を進めた。
(……気づいてる?)
追っているはずなのに、
少年の足取りは妙に一定で、
まるで「追わせている」ようだった。
⸻
数メートル先、
黒パーカーの少年がふと立ち止まる。
拓海も、自然を装って足を止めた。
──そして。
黒パーカーが、こちらを振り返った。
正面から。
はじめて、顔を見た。
感情の読めない、無表情。
けれど、
その目だけは、
拓海を──いや、“この世界”を見透かしているようだった。
⸻
「お前……誰だ?」
拓海は、自然に口を開いていた。
すると、
黒パーカーは微かに口角を上げた。
「──それは、どっちの意味だ?」
意味のわからない返答。
拓海は眉をひそめた。
(どっち、って……?)
質問に質問で返すのも不自然だったが、
それ以上に、
その”言い回し”が──
「……白石拓海。」
不意に、黒パーカーが拓海の名前を呼んだ。
拓海の全身に、戦慄が走る。
(なぜ、知っている?)
拓海は答えられなかった。
だが、黒パーカーはそれを待っていなかった。
「君も、そうかと思ったけど……違ったか。」
ぼそりと、それだけ言い残し、
黒パーカーは、雑踏の中に紛れるように立ち去っていった。
拓海は、その背中を追えなかった。
足が、動かなかった。
⸻
(──今の、何だったんだ。)
頭の中に、
“現実”と”現実ではないもの”が
ごちゃごちゃに混ざり合うような感覚。
認識が、
感覚が、
世界そのものが、
揺らいでいた。




