中Ⅱ 王国側視点~戦場の我が儘姫
☆刻は半年前、メアリー姫がレーベの城に慰問に訪れた時に遡る。
「やーなの!やーなの!汚いの!」
また、王女殿下の我が儘が始まった。
「グスン、グスン、救護所が汚いの!汚物を流す側溝を作るの~」
仕方ない。
「おい、負傷兵と老兵から動ける者を出せ」
「了解です」
50人、負傷兵と老兵で動ける者を出した。
全くメアリー姫には困ったものだ。
ここは城塞都市レーベの指揮所、王国の重要拠点の一つである。
人口一万人に兵二千人だ。
王国に士気高揚のためにゲオハルト殿下とリリア様の慰問を要請した。
それが代わりに18人いる王子王女の中で一番身分の低い妃の末子6歳、上手く話せない幼女を寄越しやがった。
出世の糸口にもならない。
「将軍閣下、側溝が出来上がりました」
「うむ」
「それとメアリー様が畑を作りたいからそのまま人員を借りたいとダダをこねています」
「何だ。田園ごっこか?全く・・・好きにせよ」
高位貴族の間で農村ごっこが流行っている。
ここまで来てやることか?
大人しく泣いて帰れば良かったのに。
初めて救護所に来た時は泣いていた。
☆☆☆
『怪我人ばかりなの・・・』
『ええ、救護所ですから』
口を開けて呆然とした。そして泣き出した。
涙が頬まで伝わっている。
『王女殿下、お靴が汚れましたな』
『兵隊さんたち、どうして治療を受けないの?』
『薬と回復術士が足りていないのです』
『予算はどう使っているの?』
『はい、敵撃滅に使っているのです』
『グスン、グスン』
早く帰れよ。
それから我が儘が始まった。
汚物を流せるように救護所の周りに溝を作れだの。
看護人を増やせだの。
まあ、それはやってやった。
しかし、帰らなかった。
それどころか独り城内を回る。
『将軍、どうしますか?』
『フン、石でも投げられればベソをかき王都に帰るだろうよ』
王都で贅沢三昧暮らしていた姫だ。
しかし、それからも我が儘を重ねた。
『トイレ、汚いの!』
『井戸を掘るの!』
『猫を飼うの!』
『洗濯物を城壁で干さないの!』
挙げ句の果てに・・・
『ダメなの!友軍の遺体はきちんと埋葬するの!』
『しかし・・・右手首を取れば・・・』
『取ればなんでしゅか?』
『いえ、何でもございません』
死体の右手首を取って送れば敵を殺したとして褒賞を受け取れるのに。
あの幼女、平民兵士の死体を丁重に埋葬せよと要求した。
味方の死体を敵と偽るのはどこの部隊もやっていることだ。
全く、我が儘だ。甘ったれた感傷で将兵のささやかな報奨金を奪う気だ。
反乱はすぐに治まる。
今、始まっている「三日月の打撃」作戦が終われば王都に帰れるのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
腐っても王族の姫だから邪険にも出来ないか。また、キンキン声が聞こえる。
「オモチャ作るの~、壊れた弩を集めるの~、すごいカタパルトを作るの~」
「はい、姫様」
「ワシにお任せを、工房に勤めておったのじゃ」
フン、笑い声が響くようになった。何故だ。メアリー姫の周りに人が集まる・・・・
「はっ、気さくな姫、遺体の損壊を止めた事で人気が出ているようです」
「馬鹿な。全く意味がわからぬわ!」
「王女殿下、すごいカタパルトが出来ました」
「ありがとうなの~、次は石を投げる機械なの~」
「はい、作ってみます。廃材がございますから」
馬鹿なのか?城に投石機を配備して何とする。
「将軍閣下、補給品が届きました」
「うむ。ワインを持って来い」
「それが、レモンが代わりに届きました。それも大量です」
「な、何だと!輜重隊長を呼んでこい!」
「はい!」
とんでもない事が分かった。
メアリー姫が文書を書き換えただと・・・
「はい、王族ですので当職では逆らえません」
何て我が儘だ。レモンだと!レモネードでも作る気か。
「まあ、良い。ワインセラーから上等な物を持ってこい」
「将軍閣下、メアリー姫が持ち出しました」
【はあ?どこにいる!すぐにお叱りをしなければ!】
今まで放置したのが間違えだった。
「メアリー姫は救護所にいます」
「ついて来い!」
救護所には・・・娼婦たちがいた。あれは赤毛のサーラー。看護師を気取る気?
「はい、消毒だよ」
「す、すまない」
「フフフ、治ったら店に来てよ」
ワ、ワインを、一瓶で金貨の袋が飛ぶワシのワインが負傷兵の傷に注がれている。・・・
「レモン汁です。飲んで下さい。壊血病の予防になるってお姫様が言っていたわ」
「スッパ、でも、体に染みる・・」
中心にメアリーがいる。思わず体を震わせ怒鳴った。
【姫様!勝手をなさってはいけませんぞ!】
「勝手じゃないの!王国法だと、王は女神様から統治権を譲渡された神聖不可侵なの。王族はそれにつらなるの。メアリーに指示を出すのはお父様の権威に傷つけることになるの~!」
【はあ!】
ワシの巨躯で近づいてもメアリーは動じない・・・
「そうさ、こっちには王族のメアリー様がついているのさ!」
「そうだ。そうだ!」
畜生、娼婦に担がれたか・・・
「帰るの~、ここにいて良いのは名誉ある負傷兵を看護する者だけなの」
一端引くか。
久しぶりに視察を行うか・・・
城の居住区は激変していた。
「な、何だと花屋にでもなるつもりか?」
畑を作っていたのは知っていた。
いたるところに鉢植えが並んでいた。
「はい、メアリー姫の命令で」
「花など何の役にも立たぬわ!」
「いえ、野菜です」
「どうでも良いわ!」
すぐに執務室に戻った。メアリーの越権行為を告発するのだ。
「文机を出せ」
「将軍、反乱軍が迫っています」
「何だと・・・勝っていたのではないのか?」
「三日月の打撃作戦は失敗したようです。先ほど早馬が来ました」
三日月状に半包囲をして反乱軍を撃滅する。
必ず勝てる戦いだった。
「そもそも、いない諸候軍を計算に入れたり、情報の錯乱などで、包囲する前に各個撃破されたようですね」
「全く無能ばかりだ・・・」
「そもそも作戦名から敵に意図がバレバレです」
「な、何だと!ワシを侮辱する気か!ワシが陛下の認可を受けてつけた名だぞ!」
「ヒィ、知りませんでした。ご勘弁を!」
・・・いや、ということはワシが首席将軍になれる好機だ。
「なら・・」
「王女殿下の我が儘で指揮系統が混乱している。ワシは王都に戻って陛下に直接お伺いを立てる!護衛を用意せよ!出発だ」
「了解です」
ワシは信頼の出来る部下を連れレーベの城を出た。
「将軍、大丈夫ですか?平民兵と下級騎士しか残っていませんよ」
「指揮を執れる者がおりません」
「フン、せいぜい将軍ごっこでもさせれば良いさ」
間一髪、包囲される寸前で脱出できるだ。
「しかし、将軍、大丈夫でしょうか?敵前逃亡罪に問われるのではないでしょうか?」
「フン、ワシを見くびるな。手は打ってある」
王都についた。ここは地上の楽園だ。戦時中にかかわらずに街には物資があふれている。
「ワシは王女の我が儘を報告に来た。この責任はメアリー王女の責任である」
参謀府は後出しで転属命令を出してくれた。
「ダイル将軍、前線ご苦労、少し休まれるが良い」
「はっ」
ワシとて無能ではない。きちんと軍首脳部や貴族たちに根回しは欠かせない。
しかし、時間がかかるな。
「レーベの街は完全に包囲されました!」
「農民反乱が起きています」
「大変でございます。レーベの街とは連絡が途絶しました。補給が出来ません。それどころか王都に物資が集まりません」
「無能め。それを何とかするのが卿らの仕事であろう!」
よからぬ噂が流れてきた。
「反乱軍・・・いや、ホッケウルフ家も王家から別れた血筋だ」
「アレクサンドラ様を女王に推戴して国に尽くすのも忠義」
そんな話がささやかれてきた。
陛下は今回の事で病床、元々子を作る以外に政務に無関心な方だ。
王妃殿下は愛人と遊んでいる。
ワシは王子王女から声をかけられるようになった。
「将軍、もともとこの乱の元凶は兄上だ。私が王になって糺すのが道ではないか?」
「グランツ殿下、それは女神様の決める事ですね」
力の無い王子だ。
「将軍、ドレスが届かないのだけども!」
「王女殿下、いましばらくお待ち下さい」
ドレスの心配ばかりをする王女。
下位の王子王女の方から順番に声をかけられた。
しかし、そんな中、吉報も届いた。
「レーベの城塞都市は陥落しない!」
「それどころか反乱軍を撃退しているって!」
「指揮はメアリー姫が執っているそうよ」
「誰だ?メアリー姫って・・・」
「18番目の子よ」
まあ、まぐれだろう。
遂に王太子殿下ゲオハルト様に王宮に呼ばれた。
王宮は閑散としていた。宰相閣下とその他の大臣が数名。
中心にゲオハルト殿下とその隣に真実の愛の相手、リリア嬢もいた。
「ダイル将軍、ご苦労・・・」
「王国に輝く太陽であらせられる陛下を補佐するゲオハルト殿下にご挨拶を申し上げます」
「うむ。我とリリアはレーベに行く」
「それは・・・遷都ですか?」
「違うな。メアリーを派遣したのは私だ。つまり、レーベでの勝利は私の功績だ。名声が正しく伝わっていない」
「なるほど、仰るとおりでございます」
「そうだ。私とリリアが城に入り。私の戦功を持って和議だ。反乱軍、いや、ホッケウルフ家が応じないのなら戦えば良い」
「御意にございます」
「卿にレーベまでの護衛を頼みたい」
「しかし、兵がおりません」
「うむ。それは大丈夫だ。使者だと出入り出来ると連絡が来た。中立都市の認可を陛下に要求している。全くメアリーは臆病よ」
「御意」
ワシは護衛騎士数名で殿下を守りながらレーベの街に戻った。王国からの使者だ。
王命を運ぶ使者の旗を掲げた。メアリー姫の処刑命令を伝えるから使者であろう。
「ヒドいわ。湯浴みも出来ないなんて・・メイドもつれていきたかったわ。それにこれは女官の服ではないかしら」
「リリア様、ご辛抱を。これも策でございます」
フウ、車列10台で行くと言われた。怪しまれる。ワシとて無能ではない。
☆☆☆ゲオハルト視点
【王命である!メアリーとその一党は武装解除だ!】
この城に視察に訪れたのは数年ぶりだ。城は変わった。街は畑にまみれ。屋敷は解体され投石に使われただと。
醜悪極まりない。美観をここまで損ねるとは。
「殿下、泊まる所がありませんわ」
「リリア、しばらく我慢せよ。すぐに用意させる」
執務室にはメアリーの他に平民達がいた。メアリーは・・・半年前に視察を命じたが、指揮系統を混乱させ。越権行為が続いた。処刑だ。
城の高級参謀室には我を出むかえるワインもなく。メアリー姫と下賤の者達がいたではないか?
「ニャア」
猫が・・・机の上に乗っている・・・軍紀が乱れ放題ではないか?
「お前たちは誰だ!出ていけ!」
叱責をした。
「フン、まず自分から名乗りなさいよ」
赤毛の女だ。そうか、私の服は王太子の服を着ていない。騎士の服だ。
「平民ごときが!無礼者!お前らごときに名乗って良い名はもっておらんぞ!」
(殿下、どうせ、こいつらも処刑すれば良いです)
(うむ)
将軍に袖を引かれ耳打ちで考え直した。
「我はザクソン王国王太子にして国王特命大使、王国軍最高顧問、王国名誉騎士団長の摂政ゲオハルトフォンザクソンであるぞ」
恐れおののくか?
「アラ、なが~い名前だね。日が暮れちゃうよ。私は娼婦のサーラー、レーベ救護所の長だよ。メアリー様の任命だい!」
「当官は、メアリー姫に指名された野戦指揮官のオットー、平民出身の騎士であります」
「おう、嬢ちゃんに城の防衛を任された大工のガネルだぜ」
「そして、この子が城のネズミ退治担当のニケちゃんだい!」
「ウニャ!」
「はあっ?!」
仕方ない。どうせこいつら死ぬのだ。
「ダイルよ。王命を読み上げよ」
「御意・・・ゴホン。王命であるぞ。メアリー姫、謹んでお受けなさい。平伏をされよ」
「はいなの~」
言葉足らずの姫だ。王宮では引きこもっていたと聞く。
「王命、ホッケウルフ公爵軍と和議をなす。メアリー姫は戦争責任を取り・・・」
「死罪を申し渡す!」
「「「!!!」」」
「シャアアアーーーー!」
皆の顔が一変した。こいつら政治の恐ろしさを理解していない田舎者と甘ったれの幼女だ。
案の上、メアリー姫はブルブル震えだした。
「死ぬの~」
「王国の栄光のために身を投げ出すのが王族の務めだ!」
「皆は、無事なの~」
「他人の心配をする余裕があるのか?」
馬鹿め。この後、部下は命令違反で処刑にしてくれる。平民の分際で分不相応の位についた罰だ。
ダイル将軍が上手くなだめてくれた。
「当職がお約束します。部下の方々はホッケウルフ軍には引き渡しません」
「姫様、こいつ・・・やっちいましょうよ。皆、姫様に付いていくよ」
「姫様、当官は、グスン、姫様とともに行きます。どうかお伴を」
「嬢ちゃん。それはいけねえぜ!俺も付いていくぜ!」
「シャアアアーーーー」
「グスン、グスン、それはダメなの~、皆の無事がメアリーの願いなの。絶対に反乱はだめなの~」
「「「姫様!」」」
「ニャア!」
全く茶番だ。
「全く、我が義妹メアリーよ。栄光ある任だ。我が代りたいくらいだ。王国史に名を刻んでやる」
まあ、汚名だがな。
使者を出した。公爵は快諾。メアリーの身柄を欲しいと言う。
それぞれ護衛騎士10名だけを連れ中間地点で会う約束だ。更に我にも出向けと言う。
アレクサンドラめ。我に会いたいのか?仕方ない。
「出向けと・・・まあ、良い。この乱は終わりだ。我が終わらせたのだ。記録係しっかり記帳せよ」
将軍と共にメアリーを縛り上げて中間地点まで赴くことにした。
「オットーとやら、護衛騎士を出せ。精鋭だ」
「・・・グスン、はい」
「グスン、グスン、メアリーの命で城のみなしゃまの命は取らないでくだしゃい。城の皆は一生懸命に戦ったの。褒美をあげてくだしゃい」
かろうじて失禁はしていない。出来損ないの王女でも役に立つときが来たか。
約束の地にホッケウルフ公爵軍は盟約通り護衛騎士10名で来た。
アレクサンドラ・・・とマンフリート、公爵。それと茶髪の地味な奴がいた。文官か?
「この王女の命をもって和議といたす!」
我は威厳を持って宣言をした。
☆☆☆
「ちょっと、待て!話が違う!我らは和議に来たのだ!」
「な、何故じゃ!何故、ワシが縛られるのだ!」
我と将軍たちが捕縛された・・・護衛騎士を任じたオットーたちが寝返った・・・
まるで示し合わせたように公爵も黙ってみている。
「公爵よ!何とかせよ!謀反人だ!」
だが、公爵側は黙認した。まるで示し合わせたかのように動かなかった。
「なら、レーベ軍は仲間でございますな。ゲオハルト元王太子殿下は我らを謀反人と呼称していたではないですか」
ホッケウルフ公爵はゲオハルトの目線に合わせてかがんでニッコリ笑った。
「ヒィ!」
ゲオハルトはそれが恐ろしくてたまらなかった。




