中
王国軍が領地に迫って来た。
「ケビン・ブッカーを正式に子爵に任命する」
「承りました」
俺は職位をもらった。爵位の授与は王家の特権だ。
これは公然と反乱を起すことを意味する。
また、頂く者は完全な謀反人である。
領地の外では小競り合いが続いた。褒賞に釣られた諸候がおのおの攻めて来たのだ。
公爵閣下とマンフレート様が撃退をされている。
そろそろ王国軍主力が来るだろう。
3万人か。騎兵が・・・圧巻だな。これだけ集められるのとは、やはり王国軍だ。
「マンフレート様、この平野が決戦の地であります」
「何故、分かる?」
「騎兵で決着をつける気でしょう。平野しかあり得ません」
既に戦場に細工を仕掛けておいた。
農民兵を使い近くの川から溝を掘り。泥地にしておいた。
開戦前に農民達が馬防柵を造る。
その柵の後ろに弓兵たち。弓兵の護衛に魔道兵、歩兵だ。
「ケビン殿、な、何だ。まるで逆ではないか?弓兵が歩兵の援護なのに・・」
「騎兵隊長殿、お疲れ様です」
「騎馬は?騎馬の出番は?」
「はい、栄光ある追撃ですね。それまで待機をお願いします。それともし宜しければ各部隊の連絡係もお願いします。敵兵がうろつく危険地帯、やはり閣下の騎兵でないと無理です」
「承った!」
我が軍の騎兵は1000にも満たない。
連絡と追撃に使うべきだ。
戦いは大勝した。
泥地にはまった騎馬は動けず。弓の格好の的になった。
戦場を調査する。敵がどうやって死んだのかだ。
「弓や投石、投射兵器が7割近く・・・槍の傷が2割、後1割が、剣、または事故か・・」
やはり時代は投射兵器か。
これは良いデーターだな。
「「「ウラー!ウラー!ウラー!」」」
「正義はここにあり!」
大勝に沸く中、俺は糧秣の計算をする。
後は策を弄せずに勝てる。
「つまらないな・・・だが、それが良い」
どこか慢心している俺がいた。
☆☆☆
「ケビン殿、ここがレーベの城塞都市です」
「ヒドいな・・・」
レーベ、ここから先は王家直轄地や穀倉地帯になる。
俺は偵察任務にでていた。
城兵は城壁の上に洗濯物が干されている。風通しが良いのだろう。座ってカードゲームをしている者もいた。
士気が弛緩し放題だ。
調べではここはダイル将軍が将だ。社交ばかりしていると聞く。
もはや、勝利は決した。
レーベの城塞を抜ければ王国の実権を握れる。そして和議が妥当か?
あの大勝の後、王国軍と会戦が一回に、小規模な戦いが起きたぐらいだ。
「レーベの都市陥落でホッケウルフ家が公国を建国する」
との声がささやかれている。
問題は諸外国だな。
考えながら集結地についた。
ここには公爵軍の他に参加を申し出た家門の軍が多く集まった。
総勢3万にまで膨れ上がったが、烏合の衆だ。名は正義諸候同盟軍である。
これは適当だ。公爵家の私怨ではないことを示す。
バラバラに戦ってもらうのが良いだろう。噂が流れている。
「アレクサンドラ様も王家の血を引いておられる。女王として君臨してもおかしくない!」
「この戦いで手柄を立てれば・・・」
「マンフリート様を差し置いてアレクサンドラ様の夫になれるぜ」
まあ、やる気になるのは良い事だ。
天幕に入ったら、見知った顔がいた。フロリアンだ。
「よお、臆病者のケビン」
「フロリアン先輩・・・公爵側についたのですか?」
「ああ、有志の王国騎士科学生を将校にして軍を編成してもらったぜ」
忠義はどこに行った。と言いたい。
「ゴホン、フロリアン殿、ケビンは我が軍師だ。ケビンも先輩呼びはやめよ。ここでは部下だ」
「マンフリート様、分かりました」
「すぐに追い越してやるぜ」
軍議は踊る。嫌な兆候だ。もう勝った後の派閥争いが起きている。10日ほど費やした。
「レーベの街を落とせば勝ちです。その任を私に任せて下さい」
「しかしな。ケビンどう思う?」
「攻城兵器が足りていません・・・が、野戦で敵をたたけば開城出来るかも知れませんね」
結局、フロリアンを将として、一個騎士団5000名を派遣した。
強硬偵察を命じた。どのように敵軍が動くか。記録係も同伴させた。
「あくまでも様子見だ。敵の出方を見るのが目的だ」
「アハハハハハ、城壁をよじ登って制圧してくれよう」
偵察の結果、城兵の士気は低い。
まあ、大丈夫だろうと思ったが。
「フロリアン殿戦死!敵は士気旺盛、2000の兵です」
「「「馬鹿な!」」」
初の敗戦だ・・・・。
もしや・・・
「将が変わったか?ダイルではないだろう・・・」
すっかり油断した。将が代れば兵が変わる。良くあることだ。
慌てて偵察を出した。
調べさせたのは2点だけだ。
城壁の様子と将の名だ。
「ケビン様、城壁に洗濯物が干されていません」
「兵は居眠りしていません。カードゲームなどをしておりません」
「そうか・・・では将は?」
「王家第18子、メアリー姫6歳です」
「そんな馬鹿な。裏で操っている者がいるはずだ」
調べるが出てこない。
「・・・・幼女が指揮を執っているとの目撃情報が出ております」
「そんな訳ないだろうが!」
戦場が霧に覆われたようだ。
総勢2万5千の軍でレーベの近くに布陣をした。
王国最盛期に造られたもので城壁は高い。
やはり、公爵軍しかあてに出来ない。後は烏合の衆極まれりか?
早速、城壁をみるが・・
「何だ、城壁上に投石機がある・・」
「馬鹿な。逆ではないか?」
「マンフレート様、敵が討って出てきました」
何だ。いびつな軍だ。騎兵と歩兵がごっちゃだ。
敵は軍略をしらないのか?
「敵は素人だぜ!」
「これなら簡単だ」
「ヤッホー、マンフレート様、このミラン伯爵家の嫡男ロイドに一番槍に申しつけ下さい。アレクサンドラ様によろしく」
「ま、待て!」
先駆けをする家門がいた。一番槍。命令無視でも勝てば良いとの慣習がある。
委任と命令無視、その区分をしっかりしないといけないな。
しかし、敵は何故、出てきたのだ?
「ケビン軍師、農民の群れです」
「まさか、城に入る農民を助けるためにでてきたのか?」
まずい。我が軍は正義諸候同盟軍だ。農民を巻き込んだら、正義ではなくなる。
「馬を用意しろ。俺が行って止める!一個分隊ついて来い」
「はい、軍師殿」
既にロイド軍は戦っていた。
敵の戦法は・・・・
「騎馬と歩兵が連携してやがる・・・」
騎士の周りに歩兵、騎兵が戦っている最中に歩兵が長槍で援護する。
こんなのあり得ない事だ。
だが、こちらは騎馬が多い。互角だ。
「ロイド殿、やめよ。命令無視だ!」
「はあ、勝てますよ。それよりも軍を進めて下さい」
敵軍の声が聞こえて来た。
「農民の撤収、終わりました」
「なら、撤収!」
敵は引くのだろうが・・・いや、待て、このまま攻めても良いのではないか?
その時。
「投射なの~」
バラバラと石つぶてが城壁から飛んで来た。
我が軍に降り注ぐ。
あの投石機は石ツブテを投げるためのものか・・・レンガぐらいの石、いや、レンガだ。上手い具合に散らばって我が軍は負傷者が続出した。
兵が引く援護のために?
城壁の上を見た。
「みろ、幼女だ!」
「何で幼女が!」
確かに幼女が指揮を執っていた。
城門が閉った。
結局、ロイドは命令無視で処刑。
「軍令に基づき処刑する!」
「そ、そんな」
警邏隊を組織した。農民が城に入る。我が軍を恐れているのか?解放軍として見てくれていない。
調査の結果。
公爵軍は略奪しない軍法を徹底したが、やはり諸候軍までは行き渡らなかった。
「鶏を盗んだ兵がおります」
「処刑だ」
「婦女を暴行した兵士がおります」
「村人の前で縛り首だ!」
さて、どうやって、城を攻略する?
攻城兵器は後どれくらいで届く?
時間は?
「ケビン、根を詰めすぎですわ。少し、お休み下さいませ」
「アレクサンドラ様・・・」
「何をお考えですか?」
「もちろん城の攻略方法です・・・あっ?」
すっかり策を考えている自分に気がついた。
勝ってから戦うのが信条だったのに・・・
戦争は階級をごっちゃにする。戦功をあげれば下級貴族、いや平民でも将軍になれる。
しかし、それが王家の末姫だったとは・・・
戦乱が化け物を生み出したか?
このときはそう結論するしかなかった。
☆☆☆
攻城兵器が届き攻略を開始した。
「放て!」
投石機で巨石を投げて、城壁を崩す。セオリーだ。
「城壁が破れました・・・な、何?」
城壁に穴を開けてもすぐに補修が入る。
「何だ。あれは大工達ではないか?」
幼女のキンキン声が聞こえた。多分、撃てとかそんな事を言っているのだろう。
「撃てなの~」
幼女の号令で城から石が飛んで来た。
何だ。敵の投石機は巨石も投げられるのか。城壁の上からなので石が投石機陣地まで届く。
「投石機、壊れました」
「次は破城槌だ!」
だが、それも失敗した。城壁上から多量の矢が飛んでくるのだ。
「敵は補給が断たれている。矢も尽きるはずだ」
「軍師殿・・・この矢は我が軍が放った矢です」
「な、何だと!」
「石もおそらく、こちらの石を再利用しているものだと・・・」
我が軍の弱点が露呈した。
投射兵器を多量に使う戦法は、それだけ物資を消費する。石を運ぶのも時間がかかるのだ。
こちらの補給も滞る。
簡単に勝てる戦だったのに、慢心したか?
「ケビン、どうする?」
「マンフリート様、軍使として私を派遣して下さい」
「しかしな。我らは王国から見たら反乱軍だ。軍使とて例外なく逮捕出来る大義名分がある。もし、ケビンが捕まったら・・・補給がままならなくなる」
「大丈夫です。多分、そうならないでしょう」
これは勘だ。
☆☆☆
「軍師である。開門を願う!」
私一人で向かった。
城門が開き。私は通された。
「ついて来られるが良い」
「受け入れて下さり有難うございます」
城内を見る。いたる所が畑になっている。中には石畳を剥がし畑にしている場所もあり。家には鉢植えが置いてある。あれで野菜でも作るのか?
見事な。機能美に満ちあふれている景観だ。
「いそげ、城壁を補強するぞ!」
「「「ヘイ」」」
大工が城壁を直し。女達は炊き出しをしている。
「お夜食を作るよ!」
「「「はい」」」
城壁の内側に空堀を掘っている。あれは、こちらの穴を掘っての攻略を警戒しているのか?
活気がある。腐敗が著しい王国に殉じるつもりか?
いや、平民にとっては王国などどうでも良いのだろう。
城の執務室に近づくにつれ。壊れた家屋が目立つ。
我が軍の投石ではないようだ。
「・・・これは、兵士殿、我が軍がご迷惑をおかけしましたかな」
暗に我が軍の投石の威力だと匂わせた。
「メアリー姫は自らのお屋敷を壊して投石に使えと命じられたのだ。後、逃げだした高級将官の屋敷もな。王国の栄光ここにありだと執務室で寝泊まりをされている。グスン」
「そうか・・・」
有能な敵か。これは厄介だ。
執務室に通された。
「初めましてなの~、ザクソン王国第18子、第8王女のメアリーなの」
「初めまして、ケビン・ブッカーと申します」
幼女の隣には赤毛の女と護衛騎士がいた。
どう見ても黒幕ではない。
「平和になればいいの~、攻めるのはやめてくだしゃいなの~」
「それは、そうもいかないのです」
何だ。普通の幼女か?戦場で感じた化け物感はない。
「メアリーは王女なの。お父様の指示がなければ開城できないの~」
「道理ですな」
「では、これで帰ります。王家への連絡でしたら通すように指示を徹底します。安心して使者を出して下さい」
「はいなの~、それと城の郊外に家族のいる兵隊さんもいるの。非戦闘員は通して下さいなの~、人道的処置を希望するの」
人道?聞き慣れない言葉だ・・・だが騎士の名誉にかけて非戦闘員は殺さないべきだ。非戦闘員?意味は分かるが、幼女の使う言葉か?
「ケビンしゃん、どうしたの?」
「失礼しました。それと、王女殿下・・・お聞きします。戦争で一番大事なのは何でしょうか?王女殿下の考えで結構ですよ」
「兵隊さん達が生きて帰って来るまでが作戦なの~、それを考えるのが・・・指揮官のお仕事なの」
「左様ですか。勉強になります」
「では、平和のためにお互い頑張るのでしゅ」
「はい、良い方法を模索しましょう」
帰る途中、ジワジワときた。
『兵隊さん達が生きて帰って来るまでが作戦なの~』
俺の勝ってから戦えとは別視点だが・・・通じるものがある。
帰ってからマンフリート様とアレクサンドラ様と話した。
「ケビン、どうだった?敵の将は?」
「おそらく、化け物かと・・」
「まあ・・・王女殿下は幼女ですよね」
「レーベの街は力攻めで陥落しましょう。しかし、こちらも被害甚大。兵糧攻めで陥落しましょう。ですが、時間がかかりすぎます。こちらの補給も持たないかもしれません」
「では、どうするか?」
「はい、和議を結び。中立都市になってもらいます。素通りするのです。謂わば、飛び石作戦であります。これからは交渉が戦いになると愚考します」
これで方針は変わった。
盟約通り。付近の農民は通すことにしたが・・・
「ちょっと、これはあたいが食べるのだよ!」
「荷馬車一杯のイモじゃないか?」
食料を持ち込む者が検問に多数引っかかった。
「まあ、待て、良いではないか?兵器以外は認めるとの盟約だ」
「あら、あんた良い男だね!」
もう少し、言葉を選べば良かった。これでは食料をはこび放題ではないか?
「どうも、マダム、これも人道的処置です」
人道的?すっかりメアリー姫の策にはまったか?
☆☆☆
・・・一方、城内では。
「敵に飛び石作戦をしてもらうの。この城は追撃しないと信じてもらうの」
「それではメアリー様のお立場が悪くなります。折角の武功の機会を」
「いいの~、お義兄様が始めた乱なの~、最終的には勝てないの~、」
「メアリー様・・・」
くしくもメアリーはケビンと同じ『飛び石作戦』の言葉を使っていた。
が運命は皮肉であった。
王家側からの来訪者が現われたのだ。メアリーの義兄、王太子ゲオはルド殿下とその一党である。
一悶着があった後、使者は斬りだした。
「王命、ホッケウルフ公爵軍と和議をなす。城を受け渡しメアリー姫は戦争責任を取り死罪を申し渡す!」
「はにゃ?」
「「「何だと!」」」
戦争は錯誤の連続と表現する者もいる。転生者メアリーにも全くの予想外であった。




