表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/4

「戦術とは! 不利な状況を前提に最善を考えるのが騎士である。戦力が劣るから戦えないは騎士ではない!!」


 戦術の天才と名高いフロリアンの弁舌だ。

 彼は騎士科主席だ。


「故に戦場で一番大事なのは敢闘精神であります!」




 パチパチと拍手が会場を覆った。

 ここは貴族学園の講堂、ゲオハルト殿下の前で御前討論会が行われている。

 学園には騎士、軍を率いることになる貴公子達が大勢いた。



「私もフロリアン殿に賛成です」

「異議無し!」


「我が王国軍は頼もしいな。賛成の者は挙手!」


 一斉に手が上がった。だが1人思索にふけっている騎士学生がいた。

 一学年のケビン・ブッカー。彼の家門は三代前にホッケウルフ公爵家に降った盗賊の出である。盗賊業の他に荒くれ者が多く集まる運送業の商会でもあった。


 彼自身はおよそ騎士らしからぬ風貌だ。騎士と言うよりも文官志望に間違えられた。



 ・・・俺はケビン、危ういな。戦いを知らない者ほど勇ましくなる。やがてこの空気が乱を呼び寄せるのは歴史良くあるネタだ。敵を過小評価し尊大になりがちだ。

 と思っていたら。



「ほお、君は手を挙げてないな。では、見解を伺おう」



 手を挙げ忘れ殿下の目に止った。



「ケビン殿!」

「殿下のご指名ですよ」


「あ、はい、失礼しました」


「「「プゥ~クスクスクスクス~~」」」

「あいつが下から数えた方が早いケビンか、騎士というよりもまるで文学青年ではないか?」


「君、騎士として一番大事なものは如何に?」


「えっと、私は・・・戦場では補給が一番大事だと愚考します。戦術は次です」


「まさに愚考だな。指揮官は炊き出しでもしろと?」

「「「「ギャハハハハハハハ」」」

「殿下の言う通り!」


「では戦術とは?」


「はい、戦術とは・・・」


「戦術とは如何に?」


「戦術とは如何に楽に勝つか。損害を少なくして負けるかだと愚考します」


 殿下は呆れられた顔をされた。為政者たるもの表情に出すなと言いたい。

 少し捕捉しよう。



「はい、戦いの結果は戦う前から勝敗は決しているのです。戦いの外での策が重要なのです。勝ってから戦えが最上だと愚考します」



「もう、良い。貴殿は輜重隊にでもなるのだな」



 俺の進路は輜重隊か。まあ、良い。補給は大事だ。



「「「プゥ~クスクスクスクス~~」」」

「臆病者」

「やはり、盗賊出身の家門は卑しいな」



 講演会は散々な結果だった。

 殿下の隣にいた婚約者に慰められた。



「ケビン、お気を悪くしないで下さいませ」


「アレクサンドラ様、どうもです」

「他の人が何て言おうと私は好きな考えですよ」



 寄親のホッケウルフ公爵令嬢アレクサンドラ様で殿下の婚約者だ。

 お美しい。白い肌に艶のある髪、流れるような目。微笑むと輝く金髪もあわさって本当に輝くような値千金のご令嬢だ。


 これだけ身分の差があると恋心なんて浮かびもしない。

 俺は眺めているだけで幸せだ。



 しかし、幸せも続かなかった。

 ある日、下宿に緊急招集の連絡が来た。


「ケビン、ホッケウルフ公爵家派は緊急にタウンハウスまでだって!」


「先輩・・・何があったのですか?」

「分からねえ。お嬢様、王子からご不興をかったらしい。自決を命じられたそうだ」

「いや、領地に帰れと王命が出たよ」

「違うよ。修道院だ」


 情報が錯綜している。これはヤバいな。



 屋敷では年配の重臣達が会議を行っていた。

「ゲオハルト殿下が愛人を王妃に、アレクサンドラ様を則妃にすると言った」

「どうする!受け入れるか?」

「とにかく、お館様の指示を待つのだ」

「馬鹿め。早馬でも往復一月かかるぞ!」

「粛々と王命が出るまで待つのだ。それが忠義の証になる」



 会議は踊る状態だ。

 アレクサンドラ様は1人ポツンと座っていた・・・


 今、このタウンハウスでの最高責任者はアレクサンドラ様だ。


 俺はアレクサンドラ様に意見をした。


「とにかく領地に帰りましょう」

「え、ケビン、王都をでるなとの殿下の命令だわ」


「大丈夫です。何故なら・・・アレクサンドラ様もご存じですよね。王国の腐敗が著しい実情を、それを何とかしたいと仰っていたでしょう?」


 さあ、どうでるか?お嬢様は少し沈黙した後。



「わ、分かったわ。そうしましょう。メイドはケリーとマリ、その他はそれぞれ落ち延びて下さいませ。お金を配るわ」


 帰ると決断してくれた。


「「「はあ?」」」

「お嬢様!王都はでられませんぞ!」


「主命は降った!重臣方、主命でございますぞ!」



 夕方に護衛騎士は俺を含めて6人、御者ハンスさんとお嬢様とメイド2名合計10人で出発した。

 公爵家の紋章は付いていない普通の馬車だ。


 俺と先輩は騎馬で護衛、馬車一台にメイドとお嬢様、生活物資を詰め込んだ。

 四頭立てだ。



 まずは王都内の貴族街を区切る門を通る。


「貴人のお忍びの馬車である。通るぞ!」


「は、はい!」


 老人の門番だ。


 調べられもせずになんなく通った。


「・・・やっぱりそうだわ」

「ええ」


 何事にも建前と現実がある。

 このザクソン王国は腐敗が著しい。本当なら兵士が配置されているが、中抜きされて老兵1人が配置されていた。


 連絡網の欠如、指示が徹底されていない。


 それに、・・・王門まで来たか。



「おう、ご苦労!」


 傲慢にチャリンと金貨の入った袋を投げた。


「任務ごくろうである。皆で分けられよ。名のある貴婦人の密会だ。分かっているな」

「どうも、通って下さい」



 王門を出て、すぐに先輩を走らせた。


「先輩、公爵閣下に報告をお願いします。先輩が直接お館様に話して下さい。救援を求める栄光ある任は先輩が相応しい」


「ああ、分かった」」


 フウ、これから街を避ける。

 野営するが油断は出来ない。


 敵は味方だ。きれいどころが3人いる。状況の変化で自暴自棄になって襲わないとも限らない。

 だから策を講じた。



「先輩、街に行って物資を調達して下さい。気晴らしをした方が良いのではないですか?」

「ああ、分かった」


 娼館にでも行って来いと暗に匂わす。



 交代で先輩達に行かせる。気晴らしになるだろう。


 しかし、先輩達は1人帰って来なくなり。また1人・・・


 最後の先輩も・・・


「おかしい。サボっているな。俺がみてくる」

「はい、先輩、お願いします」


 腐っても王国、捕まったのだろう。最後の先輩も街とは反対方向に馬を走らせた。

 逃げるのだろう。




「ケビン、大丈夫かしら・・・」

「大丈夫ですと言ったら嘘になります。ご覚悟を」


 自決の意味だ。


 俺の予想だと、ホッケウルフ公爵閣下が立ち上がれば味方に付く諸候もでてくるはずだ。ご養子のマンフリート様は辺境伯のご子息だ。

 しかし、辺境伯領までは遠いな。



 何とか最後の関所についた。

 後は野原だ。3日進めば領地だ。



「これをどうぞ」


 いつも通りワイロを渡す。すんなり懐に入れるが・・・



「お、馬車の中にペッピンが3人、俺は真ん中の令嬢だ」

「うほ、震えている。いいな!」


 兵士たちが馬車の窓をのぞいて品定めをしている・・・



「あの、どうか、お止め下さい。貴婦人が怖がっています」


「知っているよ。公爵令嬢だろ?黙って通してやるから、少し相手をさせろ」


 万事休すか。覚悟を決めた。


「無礼者!」



 ふいをついて1人刺した。なるべく残忍に殺す。



「はあ、はあ、はあ、や、やめ、ろ」


 腹に刺さった剣を、180度回して横に切った。


 ドバドバと腸が地面に落ちる。腸が垂れ下がった。


「「「ヒィ!」」」


 臓物を片手で掲げて。


「みろ。無礼者の臓物だ!お前らもこうしてやる!」


 狂人を装った。


 恐怖を植え付ける。これが盗賊のやり方だ。1人を殺し100人に警告を与えてから交渉だ。

 後1人斬れるか?



 と思ったが逃げだした。


「さあ、ハンスさん。馬車を出して!メイドさんたちは走りながら荷を全て捨てて食料も!」

「「はい!」」



 追っ手が来るか。

 一昼夜走らせた。


「ヒィ、ヒィヒン」


 馬の口から泡が出ている。


 限界か。休ませなくては・・・



「少し、休みましょう・・・」


 後ろから土埃が見える。騎馬だ。

 領地の方向ではない。


 馬車のドアを叩きアレクサンドラ様に別れを告げる。


「もう、策は尽きました。王国の追手です。私はここで食い止めます」


「グスン、ケビン、ご武運を・・・待って、前方から騎馬が・・・お父様の軍だわ!」




 フウ、間一髪助かったか・・・



「お義兄様!」

「アレクサンドラ!」


 マンフレート様が来られたか。


 美男美女、2人並ぶと伝説の勇者と聖女のようだ。


「さあ、帰ろう。義父上が領地の境界で待っておられる」

「はい・・」




 俺の家門は公爵軍に参加した。

 寄子を集めても兵は8000人だ。


 王国軍は10万を超える。だが、10万の軍を全て討伐にあてることはできないだろう。せいぜい諸候軍を入れて数万か?


 軍を起して、この領地まで2ヶ月?いや、準備は早いほど良い。



「ケビン、聞いたよ。君の策でアレクサンドラは助かった。私の軍師になってくれ」

「はい。マンフレート様」



 そこからは目の回る忙しさだった。


 武器の製造を命じ募兵をした。


 武器は弩、弓、カタパルト、投射兵器を優先。平民兵には弓の訓練をさせた。



「ケビン、何故だ?」

「これからは騎士の時代ではなくなります。一騎打ちはあり得ません」



「農民の志願兵が列をなしています」

「これなら戦えるぞ!」


「いいえ。農民です。騎士をみたら逃げ出すでしょう。馬防柵を造る訓練をひたすらさせましょう」



 農民でも不満が出てきた。戦いたいと言う血の気の多い奴には・・・


「ほお、貴君の志は素晴らしい。この鍛錬棒を連続500回素振りしてくれ」

「ヒィ、そ、そんな。重い!」


 適当に作った重い棒を振らす。

 それが出来たら兵士にしてやっても良いだろう。

 それと、食料をかき集める。



 三代前に公爵家に降ったのが我がブッカー家だ。


 年配者に盗賊時代を覚えている者が多数いた。

 年配者から方法を学んだ。

 簡単だ。脅すのだ。食料をため込んでいる商会を脅す。


 人相の悪い家臣を連れて行く。



「物価高騰前の値段で売ってくれないか?」


「こんな値段で売れません。今はどこも高騰していますぞ」


「どうせ、来年には戦が終わり。買い占めた食料は余りますよ」

「その時は、その時だ!」


 仕方ない。もっと脅すか。



「なら、不満を持った民衆が倉庫を襲う・・と情報が来ているな。王国の腐敗を正す正義の戦いに協力できない。志が低い商会だと・・・オドロ商会は民衆の敵だとな」


「志が低いですと!・・・」

「今日にも火の中だ。だから商談がてら知らせに来たのだ」


 店の外を見る。釣られて商会長も見る。

 外には不満を持った民衆が松明なんかを持ってゾロゾロ歩いている。


「ヒィ、わ、分かりました!」

「オドロ商会は素晴らしい。この事を民衆に広めよう」


 もちろん、外の民衆は仕込みだ。


 食料は集まったが、味方に付く諸候は辺境伯殿以外は皆無だ。まだ、様子見のようだ。


 アレクサンドラ様に意見をする。


「アレクサンドラ様、毅然とした態度を取って下さい。演劇の悪役令嬢のようにお振る舞い下さい。使者を偉丈高に追い払って下さい」


「まあ、どうして?普通に援軍をお願いしていますが・・・」


「どうせ、様子見です」



 これは少なからず動揺を与えた。



「まあ、来年に参戦して下さるの?遅いですわ。私どもが欲しいのは今共に戦ってくれる方ですわ」


「褒賞のお約束?まだ、戦って武勲も立てていないのに?とんだ火トカゲの皮算用ね」


 様子を伺いに来る使者を追い返した。


 噂が流れた。


「ただ、王宮で婚約破棄の宣言に呆気にとられていたと情報があったが・・」

「王国の不正を殿下に意見し続けたお方だ。これは女傑かもしれないぞ」




 今のアレクサンドラ様は影響力が強くなったただの『大きな令嬢』だ。

 それを鉄の令嬢に成長して頂く。反乱の旗印にするのだ。


「大変だ。王都にいた重臣達は捕らえられて処刑された」

「使用人達の半数は何とか逃げだしたようだ・・・」


 悪い噂ばかり領地に届く。


「グスン、グスン、私のせいで、皆が死んだのね・・」

「違います。これは例えお嬢様が残ってもこうなったでしょう。王家は生贄を探していたのです」


 お嬢様に慰めではなく本当のことを言う。


 王太子に意見し続けるお嬢様を疎ましく思って、領地を没収して、愛人のリリア嬢の家門にすげ替えるつもりだったのだろう。



 噂は更に流れて来た。


「ホッケウルフ家討伐軍がレーベの城塞都市を出た」

「数・・・騎兵1万に歩兵数万だ。一気に決めるつもりだ」

「ゲオハルト殿下は、お嬢様に王宮の床を磨かせると豪語している」


 皆が恐怖している中で、俺だけはワクワクしていた。

 もう、勝てる算段は尽くしたからだ。


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ