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呪いの印とその在処




 この可能性にエレクティオが気がついたのは姉聖女の姉であるネリフェラと休憩兼アイルズの調査報告を聞いていた時のこと。


 “憑代の祝印”の元になったという呪い“死者使役”、その形状もサイズもツユキの背にあるものとは大きく違っていた。




 しかし、この呪いには続きがあった。



「これは……“死者使役”の、二層目?」

「ああ、この呪印は合計四層もあるらしい」


 アイルズがページをめくった先にはさらに別の形の“死者使役”の呪印が描かれていた。その最後、四層目の呪印の中心、エレクティオは見覚えがある印を見つけた。

 


「ツユキ嬢につけられたのは、この呪印の一部だったのか……」

「ああ。つまり彼女を完全に解呪をするためには、残りの呪印を探さなければならないわけだ」

「そう簡単にはいかないね」

「それだけじゃない。見る限りこの呪印は大量の呪印の複合体だ。聖女ツユキにつけられたものはお前が魔力の供給を断ち切っているから効力はないも同然だが、どこかに描かれている残りの呪印は動いている可能性が高い」

「じゃあ、まだ彼女は呪いの影響下にあるのね……早くなんとかしてあげたいわ」



 ツユキの身を案じ、ネリフェラは呟いた。



 そもそも200年前の禁書を紐解かないと存在すら出てこないような呪いだ、もしかしたら解呪方法はとっくの昔に失われているかもしれない。

 それでも手がかりはあったのだ。解呪できる可能性は大いにある。



「私はこの本をもう少し読み込んでみる。まだわかることがあるかもしれない」

「なら、わたくしは禁書庫の入室許可をもらってくるわ。他に書かれている本があるかもしれない」

「じゃあ僕はツユキ嬢の保護兼観察かな。何かあったらすぐに報告するよ」



「エレクだけ不審者みたいね」

「……それは言わないでくれ」



 各々気合を入れ直し、ツユキの解呪に向けて意気込んだ。





「でも、呪印って分けて描くことができるのは知らなかったな。魔法陣は分けた途端自己修復が始まるからから新鮮だ」


 エレクティオは呪印を指でなぞる。魔法陣にも活かせられないかと考えてしまうのは魔術師の性だろう。



「「「……あ」」」


 その時、三人は気がついた。

 



「エレク、魔法陣は一部が決壊するとどうなる?」

「状態にもよるけど、陣自体が破片を集めて再形成されるかな。すでに同一の魔法の形に変換されている分、無変換の魔力より陣の破片の方が互いに引き合うというのが今の定説だね」

「やはりそうか」



 空間に形成される魔法陣は薄い硝子の板のようである。そのため壊すこともできるが、破片になっても魔法陣は生きているのですぐに破片同士が結合し修復されてしまう。そのため魔法陣を完全に破壊するには機能しないほど細かく破壊するしかないと言われている。



「これはもしかして……」

「ああ。呪印の場所、わかるかも知れない」


 呪印は魔法陣の派生系。分けて描かれてはいるが、構造が似ているのなら呪印も同じ修復の方法を取る可能性は高い。

 エレクティオがツユキの呪いを止めたことで、一部の決壊した呪印は欠片を集合させようとするのではないか。


 

「恐らくだが、呪印は聖女ツユキを呼び戻そうとする可能性がある。もし彼女どこかに行こうとするならば、その先に呪印の本体があるはずだ」





 __




 

「__という話になってね」

「だったらもっと早く止めろよ馬鹿主人」

「あだっ」



 正座させられたエレクティオの頭にミウの鉄拳が落ちる。




「それについては申し開きもない。魔力で威圧をかけても止まらないとは思わなくてね……」

「今になって震えが止まりません……」

「ごめん。本当にごめん」

「わー!?そこまでしないでください!!」



 全身を震わすツユキにエレクティオは土下座で謝る。

 シランにストールをかけてもらい、震えは多少収まった。




 魔術師の戦闘手段として、魔力による威圧が存在する。単純に魔力を放出するというものだが、魔力量の差が大きいと動けなくなるほどの威圧になるのだ。

 特にエレクティオはこれに氷の魔力を乗せることで確実に相手を怯ませることができた。『氷の魔王』の異名がついた理由の一つである。





 その割にはこの家の者は皆平然としているが……理由は聞かないでおくことにする。



「聖女様も無理に魔法を使ったから傷口が開いている、悪化しているところまであるわ。こんな状態で教会には戻せないわね」



 シランはツユキを“診断”する。その間もエレクティオは平身低頭なのだがもはや誰も気にしていない。心配するのは慣れていないツユキだけである。



「またベッドに逆戻りっすか?」

「いいえ、今回は腕だけだからベルトで固定なりすれば車椅子でも大丈夫よ。でも手を使うこと全てはしばらくできないわね」

「……よかったぁ。また皆様と食事できるのですね」


 ほっとしたツユキはつい心の声を漏らした。

 教会では食事は1人で食べるものだった。食卓を囲み皆で食べる食事がこんなにもおいしいものだとは思ってもみなかった。




 ただ、これが口にすると意外と恥ずかしいもので。



「いやぁ、そう思ってもらえると料理人として嬉しいもんだ!」

「うるさい食事を受け入れてくれてよかったわい。ふぉっふぉっふぉ」

「教会の無言の食事がいいって言われなくてよかったわ、あんなの静かすぎて味しないもの」

「このままこの家に染めて、教会に戻れない体にしてやるっす。覚悟するっすよ」

「……お、お手柔らかに……」



 

 皆から温かい笑みを向けられ、ツユキの顔は赤くなるばかりだった。





 __




「して、これでお嬢さんの呪いの大元がどこにあるのかわかったわけじゃの」

「どうすんだ?レイエスト教会にカチコミに行くのか?」

「そうしたいのは山々だけど、それは流石にまずいかな」



 腕を回しやる気満々なロバータをエレクティオが止める。ロバータはシェフのはずなのだが、何故ノリノリで行こうとしているのか。



「なんでっすか。さっさと乗り込んで壊しちゃいましょうよ」

「壊したら解呪できなくなるんじゃないかしら……」

「シラン先生の言う通り、破壊するのは悪手だ。それに教会の総本山の防衛機能はかなりのものでね、国軍を動かしても勝率は五分五分かな。無策で乗り込むには勝ち目がない」

「うへぇ。ただの宗教団体のくせに国レベルなんすか」

「世界的な宗教じゃからのぉ。それだけ技術が流れやすいのじゃろう」



 アルレイエス教は各国に支部を持つほどの大宗教である。特に近年はその影響力を使って各国の信者から軍事力を集めているという話があり、各国が危険視し始めている。教国を興そうとしているという噂まであるが、あながち間違いでもないのかもしれない。



 そんなアルレイエス教の総本山がレイエスト教会である。


 聖女を含めた数多の聖職者が修行を積む地であり、教皇の住まう場所であるレイエスト教会は各国の要人が訪れることが多く、それゆえに恐ろしいまでに強固な防衛機能が備わっている。



 そんな教会に正面切って喧嘩を売るのは、いくら氷の魔王でも分が悪い。





「ここは正攻法でと言いたいところだけど、僕はアルレイエス教に嫌われているから、アイルズかネリフェラに頼むしかないかなぁ」

「ここはやはり私が教会に……」

「ミウ、背中チェック」

「はいはい〜お背中拝借」

「じょ、冗談です冗談です!ひあぁー!?」




 背中をこしょぐられツユキの悲鳴が部屋中に響いた。



 (呪印は教会、か……。なんだか安直すぎるように感じる。誘導されているような……)



 そんなツユキを眺めながら、エレクティオの中には違和感が残っていた。






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