アキメネス家のゆかいな仲間たち
シランの作った薬とアイルズの治癒魔法の力もあり、ツユキの怪我はみるみるうちに回復し、2週間が経った頃には車椅子に乗ることができるようになっていた。とは言っても、まだ自らの腕で動かすことはできないため、移動時はミウに頼ることになる。
今日は屋敷内の探索も兼ねて、ツユキはお世話になっている使用人にお礼を言いに回っていた。
「完治してからでもいいのに。わざわざ今行く必要あるんすか?」
「皆様に早くお会いしたいのです。それに、挨拶は早い方がいいでしょう?」
「律儀っすねぇ。ま、無理しない範囲でお願いするっすよ」
そんな話をしながらやってきたのは屋敷の中庭。
ここには様々な草木が植っており、まるで迷路のようになっていた。真ん中にガゼボがあるらしいのだが全く見えない。
ミウは迷わずすいすいと迷路の中を進んでいくが、ツユキには全て同じ道にしか見えない。動けるようになっても一人で中庭には行くなと言われていたが、なるほどこれが理由らしい。
そんなことを思っていると、視界が開ける。そこには白を基調にしたガゼボが建っており、中ではガゼボに似合わぬ二人の男がお茶を楽しんでいた。
「サボるな野郎どもー!」
……ミウの怒号が飛んだのは言うまでもない。
「なんじゃ来るなり大声を上げおって。騒々しい娘じゃの」
「お前らのせいだクソジジイ!!」
「おーおー口が悪りいぞミウ。一応アキメネス家に仕える身なんだから言葉遣いにゃ気をつけろー。そんなんじゃいつまで経っても貰い手がつかんぞ?」
「うるせえ!山賊みたいなナリしやがって、顔面がこの家にふさわしくないわ!」
「んだと粗暴女!」
「ひえぇ……」
来るなり大喧嘩が始まってしまいツユキは気圧される。
「お嬢さんや、ちょっと良いかの?」
「え!?は、はい」
「ほっほっほ、驚かせてしまったかの?」
突然後ろから声が聞こえてツユキは驚く。振り向くと、つい先ほどまで目の前でお茶を飲んでいた老人が立っていた。
「アルレイエス教聖女が一人、ツユキと申します」
「ほっほっほ、こりゃ丁寧にありがとのお。儂はオーゼリー、しがない庭師じゃ。
あっちでミウと小競り合っておるのはロバータと言う。熊みたいなナリじゃがこの家のシェフじゃの」
「よろしくお願いします、オーゼリーさん」
「ジジイで構わんよ」
「流石にそれは……」
「ほっほっほ、聖女殿にジジイなどと使わせてはいけないの。ま、好きに呼んでおくれ」
そう言ってオーゼリーは笑った。
ロバータにも挨拶しようとしたら止められた。小競り合い中の2人に近づくのは危険らしい。どう危険なのかと思った矢先に横を鋭い枝が通り過ぎツユキはあっさり納得した。
「__ところでお嬢さんや、ミウはちゃんとやれているかの?粗雑なところのある娘じゃから、迷惑かけてないか心配での」
「そんな、迷惑だなんて!むしろすごく色々やって下さって、申し訳ないほどです」
「ほっほっほ、そうかそうか。少しばかり詳しく聞いてもいいかの?」
「そうですね……例えば、髪を洗っていただく時も傷口に触らないように注意してくださるし、自分で洗うのよりも何倍も髪に艶が出てさらさらなんです。着替えや身体を拭いてくださる時もすごく優しくやってくださいますし、髪も服もセンスが良くてとってもかわいくしてくださるんです。とても美しい方ですし砕けた話し方のギャップもかわいらしいです。その上お茶を淹れるのも上手ですし本当にすごいのです。
まだ数日しかお世話になっていませんが、とても素晴らしい方だと思います!」
「だそうじゃぞ」
オーゼリーはツユキの後ろに向かって言う。
振り向くとそこには顔を茹でだこのように真っ赤にしたミウがいた。
「勘弁してくれっす……」
__
「いやーすまんなあ聖女の嬢ちゃん!ついやっちまった!」
「つい、で喧嘩しないでくださいよ……」
大きく口を開けて笑うロバータにツユキは困惑が隠せない。
「すまんのお、血の気の多い者ばっかりで」
「い、いえ……賑やかで、楽しい場所、ですね」
「めちゃくちゃ気を使わせてしまっておるの」
当たり障りのない言葉を選んだつもりだがバレバレだった。
なお、ミウは未だにショート状態である。
「俺はロバータ、ここの料理番だ。聖女の嬢ちゃんも好きなものをリクエストしてくれていいからな!」
「ツユキと申します。ロバータさん、美味しい食事を作っていただきありがとうございます」
「そういってもらえると作りがいがあるってもんよ!」
豪快な笑い声が庭に響き渡る。
「熊」だの「山賊」だのと言われていたがわからなくもない。確かに少々悪人面だし、はち切れんばかりの筋肉だし、コックコートパッツパツだし。
ここ数日の意匠を凝らした料理の作り手とは到底思えない。失礼ながら、人は見かけによらないとツユキは思ってしまった。
無事2人に挨拶ができたのでツユキとミウは迷路を後にする。本当はもう少し話がしたかったが、復活したミウいわく「いつまで経っても2人が仕事に戻らないからさっさと離れるべき」らしい。
「他の方はどこにいらっしゃるのでしょう?」
「え?あの2人で全員っすよ」
「……え?」
「エレクサマにウチ、シラン、ジジイと山賊。この屋敷にいるのはこの5人だけっす」
「ええーーっ!?」
長い廊下に驚きの声が響く。
この屋敷を見て回ったからわかる、ここはかなり大きい。その上どこも掃除が行き届いており清潔感が漂っている。これを維持するのにはかなりの数の使用人が必要だろう。
その割には誰ともすれ違わないとは思っていた。まさか5人しかいないとは。
「この広いお屋敷をミウさん1人で掃除していらっしゃるのですか……?」
「そっすよ。掃除程度、魔法でちょちょいのちょいっすからウチ1人で充分っす。ま、洗濯とかも全部ウチがやってるっす」
「はえー……」
自慢げに話すミウにツユキは間の抜けた声を上げる。
部屋数はゆうに30を超えている。その全てを魔法で掃除するとは、相当な魔力を消費するはずだ。5人分とはいえ洗濯物も結構な重労働だろう。
「本当はもっといたんすけどねぇ。どいつもこいつも役立たずだったりどっかの間者だったり、エレクサマ目当てだったりで全員解雇。結局残ったのはウチらだけってことっすよ」
だとしても1人は大変だろう。そんな後に自分の世話までしてくれているのだと思うと申し訳なくなってしまう。
「ミウさん、ありがとうございます」
「うぇ?どうしたんすか突然」
「ちゃんとお礼を言いたくなって……こんな大きなお屋敷の掃除も、お洗濯も1人でこなされて、その上わたしの身の回りも全部してくださって、やっぱりミウさんはすごいです!」
謝るのは違うと思い、ツユキは素直に感謝の言葉を言うことにした。
(だからこそ、これ以上迷惑をかけるわけにはいきませんよね……)
同時に、ツユキの心にある罪悪感が大きくなる。
背中にじんわりと違和感を感じたが、彼女は気にしなかった。
「……」
「……み、ミウさん?」
それよりも後ろから何も返事がない。振り返るとミウは全力で顔を逸らした。その顔は再び茹で上がっていた。
「あんたウチをほめ殺す気っすか……」
ミウはしばらくツユキの顔が見れなかった。




