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ありもしない神話の続きを

現代に戻ります




「__これが私のいた時代の出来事です。女神なんて大層な者がいてくれたら、もっと平穏な時代だったと思いますよ」



 レイエスは語り終えると、そう言って笑う。



 彼女の話は、アルレイエス教の歴史は愚か、ハルヴェスト王国の歴史とも違う。知らず知らずのうちに、この国も女神レイエスを信じ込まされていたようだ。



 というかそれ以前に……


 

「なんか……随分と無双してたのですね」

「あの頃は、若気の至りというか……お恥ずかしい」



 ネリフェラがついに口に出し、レイエスは顔を赤くする。




 呑気な王太子一行とは違い、コラン教皇やローラム枢機卿にはかなり衝撃的な内容だったようだ。それもそうだろう。今まで信じていた女神は少し変わった力を持つだけの人間で、忌み嫌っていた魔王と同一人物だったのだから。




「レイエス様。ひとつお尋ねしたいことが」



 そんな中、カルミアはレイエスに声をかける。

 


「何でしょう?私の答えられる範囲ならいいのですが」

「貴方様は、このアルレイエス教が続いても構いませんか?」


 レイエスは目を丸くすると、しばらく悩んだ後に答えた。



「私はすでに故人ですし、この話を聞いてもなお、信じたいのなら信じればいいと思いますよ」

「では……」

「最初から私に聞くことではないですよ。このような過激なことはやめていただきたいですけれど」

「もちろんです。……やはり、貴女様は女神のようですね」

「やめてください背中がゾワゾワします」



 レイエスは頬を膨らませてみせる。2人は顔を見合わせると笑い合った。カルミアはレイエスと話し、少し吹っ切れたように見えた。




「そうだ、僕もひとつ尋ねてもいいでしょうか?」

「いいですよ。答えられる範囲でなら」

「アルレイエス教では魔王は僕のような黒髪金眼だとされています。何か心当たりはありますか?」



 そう言って魔色を見せるエレクティオに、レイエスは目を輝かせた。



「おお、あの人そっくりですね」


「……あの人、というと?」

「アルくん…アルヴァルトです。彼も魔法を使う時は髪が黒くなって目が金色に光るんですよ。黒猫みたいでかわいいですよね」

「そう言われたのは初めてですね……」



 まじまじとエレクティオの髪と目を眺めるレイエスにエレクティオはタジタジである。しかも見た目はツユキなのだから尚更だ。




「魔王が黒髪金眼なのは事実ですよ。アルヴァルトはその魔色?っていうので魔王の時は黒髪でしたし、私も黒いかつらを被ってましたから。金眼なのも間違ってないですが……仮面の眼が金色だったことの方が理由でしょうね」

「なるほど、間違ってはいないのですね。

 ……でも、そんなことで僕は忌み嫌われたんだな」



 エレクティオは悲しげな声で呟く。聞いていたコランはバツの悪そうな顔で目を逸らし、「すまない……」とカルミアは拳を強く握る。



 そんなエレクティオの頭をぽんぽんと撫でたレイエスはあることに気がついた。



「……あれ?なんだか私とアルくんと魔力の波長が似ていますね。エレクティオくんはもしかしたら私たちの血を引いているのかもしれません」

「え……?」


「そうです!これまで魔王として恐れられてきたのなら、今度は女神の末裔として崇めてもらったらどうでしょう!」



 レイエスは名案とばかりにパンっと手を叩く。

 突拍子のない彼女の一言にエレクティオはポカンと口を開けていたが、やがて笑い出した。




「はははっ!それはそれで嫌だな!それこそ背中がゾワゾワしそうだ!」


「あれ?結構良い案かと思ったのですが……」

「別に見返したい訳ではありませんから。それに、魔王という名前、結構気に入っているんです。

 ……確かに、小さい頃は思うところもあったけど、今はこの国最強の魔術師として『氷の魔王』っていう異名も手に入れましたしね。見た目じゃなく自分の力で魔王になったんだと胸張って言えますから、もう気になりません。

 __それに、この髪も目も、綺麗と言ってくれた人もいますしね」


「そうでしたか、なら良かったです。……しかし、見た目も強さも魔王だなんて、本当にアルくんそっくりです」




 レイエスはそう言ってエレクティオの頭を撫で続ける。大の大人がとても恥ずかしいのだが、なんだか親にされるような心地よさもあって、彼はしばらくされるがままになっていた。




 

「__さて、そろそろ私は戻りますね」



 皆と話していたレイエスは、そう言って立ち上がる。



「行ってしまわれるのですかレイエス様!」

「この身体に居座りすぎてはツユキちゃんが戻って来れなくなりますからね。この子の犠牲の上で再び生を授かるなんて嫌ですから」


 未練たらしく止めようとするコランにそう返し、レイエスは天を仰いだ。柔らかい光が彼女を包み出す。

 



「あ、そうです」



 その途中、レイエスは思い立ったようにエレクティオの方を振り向いた。


「エレクティオくん。ツユキちゃんのこと、手放しちゃダメですよ」

「え、それはどういう……」




 突然そう言われ戸惑うエレクティオに、レイエスはニコッと笑顔を見せた。



「……おっと、時間のようです。それでは皆様、ごきげんよう」



 レイエスが綺麗なカーテシーをすると、ふっ、と糸の切れた操り人形のようにその身体は崩れ落ちる。エレクティオはそれを抱き止めると、すやすやと規則正しい寝息が聞こえてきた。





「おかえり、ツユキ」






 __






「……認めない」



 レイエスが去り、静かになった遺跡にポツリと声がした。




「ローラム卿?」

「認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない!!女神レイエス様があんな女など、認められない!!」



 ローラムはガリガリと頭を掻きむしり、壊れた機械のように叫び続ける。




「私は女神様と番になる男だ!この地に再び現れた魔王を女神様と共に殺し、神話の再現を歴史に刻み、私は女神様と添い遂げる!なのになんだあの女は!」


「ローラム枢機卿、貴様……そんなことをしようとしていたのか!?」

「ええそうです!貴方も所詮、女神様のための贄にすぎないのですよ!!」

「ああ、なんということだ……」



 コランはローラムの言葉に愕然とする。

 壮大かつ狂気じみたローラムの計画の駒でしかなかったという事実は、コランから言葉を失わせた。

 



「今度こそ、上手くいくと思っていたのに……また失敗だ!再び聖女の血を集め、魔力を貯めなければ……!!」



 ローラムは懐から小さな石を取り出す。赤黒く澱んだ宝石のようなそれは、溢れるほどに濃密な魔力を含んでいた。

 



「……なるほど、そういうことだったのか」



 その石を見てエレクティオは納得した。あの石は違法物として取り締まったことがあった。

 それは、人の血から作った魔法石だった。



「ローラム卿の異常なほどの魔力量、あれは歴代の聖女達から血から作った人工魔法石が原因だったんだ」

「っ!!じゃあトパーズも……」

「……そうだろうな」

「そんな……」



 倒れそうになるネリフェラをアイルズが受け止める。

 血を分けた自分の妹が、その血を抜かれ魔法石にされていたのだ。こうなるのも無理はない。



 あらゆる真実が露呈しショックを受ける者達のことなど露も気にせず、ローラムはツユキに目を向けた。




「……しかし、今回は今までで一番良い結果ですね。初めて聖女が憑代として機能したのだから__聖女ツユキを捕らえよ、“鋼鉄の蔦木”」



 ローラムの詠唱に反応し、地面から蔦とは名ばかりの人間の腕ほどの太さもある鉄の蔦が無数に生える。

 蔦は遺跡を破壊しながらエレクティオ達に襲いかかった。



 

「エレク、ここから離れるぞ!今のローラム卿を相手するのは危険だ!」

「わかった!皆、逃げるよ!」



 エレクティオの合図で皆が遺跡の外へ向け駆け出す。




「彼女は貴重なサンプルです。その血を使えば今度こそ女神様を降臨させることができるはず……逃しはしない!!」

「ローラム!もうやめろ!!」

「黙れ!聖堂騎士団長などとは名ばかりの無信心者め!」



 カルミアはローラムを止めるべく剣を抜き、鉄の蔦と打ち合う。

 しかし勢いよく振るわれる無数の鉄の塊に耐えられるはずもなく、剣は折られ、彼女は弾き飛ばされた。

 


 気を失ったカルミアに興味はないとばかりに、鉄の蔦はエレクティオ達に迫った。

 蔦をかわし、破壊しながら出口を目指す。外への通路が見えてきた時、逃がさないとその出口を鉄の蔦が覆い隠した。




「“氷結解除”!急いで!!」



 出口を塞ぐ鉄の蔦を分解し、人ひとり分の大きさの穴を開ける。しかし、鉄の蔦の再構成が早すぎる。解除の魔法を止めてはすぐに塞がれてしまうため、エレクティオは穴を開けたまま身軽な者から順に皆を逃した。

 一人一人穴を潜り、最後にネリフェラを抱えたアイルズが脱出したところで、エレクティオは抱えていたツユキを穴の先にいるミウに渡そうとする。



「ッ!後ろ!!」


 その時、ミウが叫ぶ。気づいたエレクティオは咄嗟に飛び退くが振り回される蔦に弾き飛ばされた。

 ツユキを庇い背中から壁に直撃する。




「エレクサマ!!」

 


 “氷結解除”が解け、鉄の蔦が穴を完全に塞ぐ。鉄の蔦は遺跡を完全に覆い、エレクティオはツユキを抱えたまま閉じ込められてしまった。

 


「貴方は簡単に逃しませんよ。さあ、それを渡しなさい」



「……断るっ!」




 エレクティオはローラムを睨む。その金色の瞳がローラムを苛立たせた。

 


「往生際が悪いですね魔王!」



 鉄の蔦が鞭となりエレクティオに襲いかかる。防御のために張った氷の壁は破壊され、エレクティオは何度も何度も鉄の鞭に叩かれる。

 満身創痍になりながらもツユキを手放さない彼にローラムはとどめとばかりに巨大な鉄の槍を作り出した。




「終わりです」



 鉄の槍が発射される。せめてツユキだけでも守ろうと、エレクティオは庇うように抱きしめた。





「“水”」



 その時、エレクティオの前に大きな水の球が現れる。鉄の槍がそれに触れると一瞬のうちに錆び、ボロボロと崩れていく。



「これは……」

「……少し、苦しいです……」




 呆気に取られていると腕の中がもぞもぞ動く。

 水魔法を使った正体を見て、彼女が帰ってきたことを実感して、エレクティオの目に涙が浮かんだ。



「ツユキ嬢……!」

「……おはようございます、エレク様」







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