女神レイエスの真実
「んん……ふわぁぁ……」
警戒するエレクティオ達と祈りを捧げるローラムをよそに、金の髪の少女は大きな欠伸をする。
「……なんだか、全身が痛みますね」
そう独りごちると、少女は胸に手を当てる。すると全身が淡い黄金の光に包まれ、ツユキにあった傷を一瞬で全て癒してしまった。
魔力の流れは一切なかった。これが女神の力というものか。
少女はあたりを見渡す。
倒れて動かない人が8名に満身創痍の青年が1名、そして涙を流してこちらに手を合わせる美丈夫が1名。
「……どういう状況?」
彼女の困惑も無理はない。
少女は自分を敬愛の目で見てくる青年だけは避けつつ、倒れているひとりひとりに触れ、その不思議な力で癒していく。
一時的な魔力欠乏に陥っていたメイド服の少女と女騎士は目を覚ましたようだ。辺りを見渡し、少女に驚いている。他の人も呼吸は安定している、命に別状は無さそうだ。
皆を癒し満足した少女は、現状で唯一、話ができそうな青い髪の青年に話しかけた。
「もしもーし、生きてます?」
「……ええ、貴女のおかげで助かりました。てっきり、女神は魔王に似た僕を嫌うかと思ってましたよ」
「……女神?…魔王??…私、ただの人間ですが……?」
「「「「……え?」」」」
その言葉に皆が停止する。そんな中、ローラムが震える声で尋ねた。
「な……何をおっしゃいます。貴女様こそ、女神レイエス様では……」
「レイエスは確かに私ですけれど……変わった力があるだけで、女神になれるほどできた人間ではないですよ」
「で、では……聖女とともに魔王を退け、この世界を浄化したというのは……」
「えっと…何の話でしょう??」
「そん……な……」
申し訳なさそうにはにかむレイエスの言葉にローラムは項垂れる。事情がイマイチ掴めない彼女はエレクティオ達に説明を求めた。
「……つまり、私はアルレイエス教という宗教の女神としてこの時代に呼ばれてしまった、と」
「恐らくは、そういうことでしょう」
レイエスの言葉にカルミアが頷く。
結局、この状況を正確に伝えられる者が項垂れたまま動かないため、エレクティオとミウ、それにカルミアの3人で説明することになった。
「で、実際のところどーなんすか?アンタはアルレイエス教と関係あるんすか?」
「貴様レイエス様になんて態度を…!」
「まあまあ、私はそのくらい砕けている方が話しやすいですよ。
……アルレイエス、ですか。その宗教の発信地ってどこだかわかります?」
「それはもちろんレイエスト神殿です」
「その場所の過去の名前はわかりますかね?」
「それは……」
「__ローゼマリー皇国の首都、ローゼンがございました」
その声に3人は振り向く。そこには、体を起こすコラン教皇の姿があった。
他の面々も目覚めたようだ。
「……ここは?」
「アイルズ!ネリフェラ嬢!オーゼリー、シラン、ロバータも!
……よかった」
「この程度でくたばるとは思ってなかったっすけどね」
「なんじゃミウ、その割には嬉しそうじゃの」
「……うるせー」
「教皇様、お加減は」
「問題ない。…ローラムめ、謀りおって」
一通り無事を確かめたところで、皆の視線がレイエスに集まる。その間、彼女は1人思考の海を漂っていた。
「皆様、大事ないようで何よりです」
視線に気がついた彼女は微笑みかける。
ツユキと似ているような違うようなその様子に、皆が少し困惑する。
「……ええと?ツユキ、じゃないのよね?」
「ああ、今の彼女はレイエス嬢だ」
その一言を聞いて、コランの目の色が変わる。
「おお!それでは女神を降ろすことに成功したのだな!」
「そのことなのですが…先ほど本拠地は元ローゼンと仰いましたよね?」
「ええ、アルレイエス教は魔王を伐つために貴女様がローゼンに降り立ったことから始まったと、記された歴史書がございます」
「そうですか……なるほど、それなら私が呼び出されたのも納得です……」
何か納得したレイエスは遠くを見るような目をしている。
「確かに、“女神レイエス”は私のことを指しているようです」
「おお!そうでしたかそうでしたか!!では……」
「しかし、あの宗教が、ここまで壮大に残っているとは思いもしませんでした……」
「そ、それはどういう…?」
「アルレイエス教は、ローゼマリー皇族復権を夢見た者達が私を探すために作り上げた空想の宗教組織が残ったものでしょう」
「空想の……!?」
その答えに、皆が驚く。
「ありえない!!教典や歴史書は全て出鱈目と言うのですか!!それも、貴女1人を探し出すためというだけの!!」
コランの絶叫に、レイエスは頷いた。
「それが、ありえてしまったんですよ。私がローゼマリー皇族の血を引く最後の人間で、神の力……という名の奇妙な力を持つ神子でしたから。
__私の本名はレイエス=ウェン=フェイル=ローゼマリー。元ローゼマリー皇国の第ニ皇女で、かの国の歴史に幕を降ろさせた元凶です」
静かな遺跡に彼女の声が響いた。
「……少し、昔話をしましょうか」




