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女神に捧ぐ最後の贄




 そこは初めて会った場所。



 彼女は覚えていないであろう、思い出の場所。





 __




 転移魔法で降り立った場所は森の中。

 日も落ちているために暗く不気味な雰囲気に包まれている。



「ここは?」

「ツユキ嬢が元々いた孤児院の近くだ」

「なんでそんな場所知ってるんすか……まさか、ストーカー……」

「ミウ?」

「冗談っすよ」



 くすくすと笑うミウは、大事なことを思い出す。



「そうだ。エレクサマ、これ返しておくっす」


 そう手渡されたのは、ツユキのお守りぬいぐるみだった。




「もう大丈夫なのかい?」

「ええ、身体を動かす分には全く問題ないっす。

 __それに、それは聖女サマがエレクサマに作ったものっすよ。いつまでもウチが持ってるわけにもいかないっす」


「わかったよ。でも無理はしないように」

「へいへい」



 ミウはヒラヒラと手を振りながら歩き始める。

 エレクティオも踏み出したが、数歩歩いたところでふと、手の中のぬいぐるみと目があった。



「必ず、迎えに行くよ」



 ぎゅっとぬいぐるみを胸に抱き、エレクティオはミウを追いかけた。






 

 記憶と探知した魔力を頼りに進んでいく。次第に辺りが青白い光に包まれ始めた。



「これは……想像以上っす」



 その光の正体を見て、ミウが呟く。

 半径数百メートルはあろう魔法陣、いや、呪印というべきか。それが円形の遺跡を中心に大きく広がっていた。



「ここからどうするっすか?」

「そうだね……おや」



 顎に手を当て考えていると、巡回していた2人組の騎士に気づかれた。

 


「なっ!?」

「き、貴様らは…!ぐあっ!!」



 騎士の1人をエレクは素早く氷漬けにし、もう1人をミウが取り押さえる。ミウはその首を捻ろうとしたが、エレクが止める。



「ミウ、殺すな。“憑代の祝印”の大元は“死者使役”、仮にでも使われたら面倒だ」

「りょーかい」



 それを聞き、ミウは騎士を気絶させる。とても痛そうな音が聞こえたがエレクは気にしないことにした。

 


「ん?」


 ミウは騎士達が何かを持っていることに気がつく。それは以前ツユキを偵察しに来た工作員の持っていたものと同型の通信魔道具だった。



「エレクサマー、こいつら通信機持ってやがった」

「おや、じゃあバレてしまったね」

「どうするっす?」

「せっかくだ、派手にいこうか」


 その言葉にミウは心底嬉しそうな笑みを浮かべた。

 身体強化をかけられるだけの魔力はすでに回復している。魔法までは使えないが、暴れるだけなら必要ない。



「エレクサマ、ちゃーんとついてくるっすよ」

「その言葉、そっくりそのまま返してあげよう」


 顔を見合わせ口角を上げる。

 次の瞬間には、静かだった遺跡が騒がしくなっていた。



 __





「首尾は?」

「問題ありません。最後の贄が届き次第、女神レイエス様の降臨をさせられるかと」


 ローラムの言葉に、アルレイエス教皇コランは嬉しそうに頷いた。



  

 “憑代の祝印”を成立させるためには、対象の強い残留思念が必要である。その人が持っていた物、住んでいた場所など、縁のあるものが揃うことで魂を呼び寄せるのだ。


 

 そしてここは、かつて女神レイエスと魔王が戦ったと言われている場所だ。最も強く女神の痕跡があり、女神の意思が残った場所と言えるだろう。女神が唯一残したという彼女の杖も用意した。




 準備としてはこれ以上ないだろう。



 祝印の中央には憑代となる聖女ツユキ。その周りには魔力供給のための贄として、アキメネス家の使用人、ハルヴェストの王太子と王太子妃が寝かせてある。

 ハルヴェストの王城は洗脳済みだ。今なら喜んで王太子を差し出してくれる。



 しかし、それでも魔力は足りなかった。仕方なく保険に用意していた最後の贄を運ぶよう手配した。

 それが来れば、この“憑代の祝印”は発動する。





 女神の力と大国が同時に手に入るのだ。未来を思い浮かべたコランは笑いが止まらなくなった。

 

 

 その時、カルミアの通信魔道具が鳴り響き、非常事態を伝える。同時に伝令の騎士が走ってきた。



「どうした!?」

「遺跡内に2名の侵入者あり!勢い止まらずこちらに向かってきます!!」

「な、こんな大事な時に侵入者だと!?貴方達聖堂騎士は何をしているのです!!」

「教皇様!そ、それが……」



  その瞬間、突如として遺跡の壁が音を立てて吹き飛ぶ。




「__ああ、こんなところにいたのか」



 そこにいたのは黒い髪に金の瞳をし、濃密な魔力を纏う、まさに魔王のような男だった。



「エレクティオ=アキメネス!!」


 カルミアは剣を抜きエレクティオに斬りかかる。しかし、エレクティオの前に影が立ち塞がり、その剣を受け止めた。

 

「おーっと、テメェの相手はウチっすよ」


 その姿にカルミアは驚く。それは確実に殺したはずだったからだ。


 

「貴様はあの時のメイド!?呪いで死ななかったというのか!」

「なんやかんやあったんすよ!」


 ミウの回転蹴りを剣の腹で受ける。しかし見た目とは裏腹にその一撃は重く、カルミアは弾き飛ばされた。




「エレクサマ、そっち頼んだっす」

「まかせろ」



 カルミアに突っ込んでいくミウに一言そう返し、エレクティオは教皇コランに対峙する。

 その絶大な魔力の前にコランから余裕が消えた。



「な、何故だ…貴様は魔力を封じられて投獄されたはず……!」

「あんなもの、僕にとってはないも同然だよ。それにしても、随分詳しいね」

「ぐっ……!」


 コランは言葉に詰まる。

 そんな教皇に語りかけたのはローラムだった。



「教皇様。本来と形とは違うとはいえ、役者は揃ったではないですか。何の問題もございません」

「……う、うむ。確かにそうだな」


 その言葉に頷き、コランは大量の魔法陣を展開する。




「貴様がこの祝印における最後の贄なのだ。エレクティオ=アキメネスよ、我らがレイエス神のための礎になってもらおう!!」








「__いえ、最後の贄は貴方ですよ、教皇様」





 ローラムがコランの背中に短剣を突き刺した。コランは口から血を吐き、魔力を失った魔法陣は次々と消えていく。



「教皇様!!ローラム卿ッ、貴様何を…!」

 


 カルミアはミウを振り切りローラムに斬りかかろうとする。しかし突如下から伸びた鉄柵によりそれは阻まれた。




「“鋼鉄の鳥籠”」

 


 ローラムの詠唱に合わせて鉄柵が生える。呪印の中央を取り囲むようにできた鳥籠のような柵はローラム達と寝かされたツユキ達、そしてエレクティオを閉じ込めた。



「エレクサマ!」

「こっちは大丈夫だ!」


 カルミアと戦っていたミウもまた、鉄柵の外に追いやられた。

 だが、それでいい。いざとなれば彼女だけでも逃すことができるから。




 それほどまでに、目の前の男は禍々しい魔力に満ちていた。

 


「……どうやら、この呪印を使っていたのは君だったみたいだね」

「ええ、そうですよ。ですが、それを知ったところで今更どうにもなりません。

 エレクティオ=アキメネス。いや、魔王というべきでしょうか。貴方にはまだ務めていただきたい役がございます」





歪んだ笑みが、瞳が、エレクティオに向けられた。



「__女神の雪辱を晴らすため、その命、捧げなさい」






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