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誰だお前は





 アイルズとネリフェラの2人が行方不明になった。




 そう聞かされてすぐに、エレクティオを含む近衛は国王に召集された。城内、ひいては国内の混乱を防ぐためにこの件は内密に捜査するようだ。



「しかし何の手がかりもない故、捜査しようにも手がつけられぬのが現状だ。何でもいい、何か知らぬものはいないか?」



 今回の件を一任された騎士団長が集められた皆に尋ねる。するとフリッツが手を挙げた。



「そういえば一昨日、護衛を引き継ぐ前に王太子殿下とエレクティオが何か話していましたが……エレクティオ、あれ何の話だ?」

「そうなのか、エレクティオ?」



 皆の視線がエレクティオに集まる。



「……はい。殿下と昨日のことで話をしておりました。殿下とスローカム嬢は、国王陛下のレイエスト教会巡礼に同行すると言っており……」


「そんなはずはない」



 エレクティオの言葉を国王が即座に否定した。





「……え?」

「我は昨日、確かにレイエスト教会に赴いた。だが、アイルズやネリフェラ嬢は同行などしておらんぞ」



 そんなはずはないと言おうとしたエレクティオは、後ろにいた騎士達に押さえられる。机に突っ伏した状態で彼が見たのは、その場の皆が蔑む目でこちらを睨む光景だった。



「そんな見え透いた嘘を言うとは、やはり貴様であったか」

「なにを…っ!」

「エレクティオ=アキメネス、王太子誘拐の容疑で貴様を拘束する」



 後ろ手に魔封じの腕輪をつけられる。魔封じの腕輪は装着者が魔力制御できなくなる腕輪だ。

 そのため、魔力制御のできなくなったエレクティオは魔力が漏れ出し、その髪は黒く、その瞳は金色の魔色に染まった。





「__黒髪金眼の魔色持ちなど、信用していた儂が馬鹿だった」




 そんな王の呟きにエレクティオは違和感を覚える。


 

 国王陛下は無宗教者だ。レイエスト教会への巡礼は総本山がある国としての体裁もとい礼儀であり、国王自身は他宗教との対立を生まないために無宗教を貫いている。


 アルレイエス教においては、むしろ黒髪や金眼への差別思想を嫌っており、その溝が埋まるよう努めていたような人物だ。




 エレクティオの知っている国王陛下なら、その口から黒髪金眼を蔑む言葉が出てくるはずがなかった。




「お前の知る陛下はもういねぇよ」



 そんなエレクティオに1人の近衛兵が話しかける。その顔は見たこともない粘着質で君の悪い笑顔をしていた。



「フリッツ……いや、違う。お前、は誰だ?」

「もうすぐ死ぬ奴に名乗る名前はネェんだワ。ケケケ…」


 目の前の男は明らかにフリッツではない笑いをあげる。





「……くそっ」



 何もできないまま、エレクティオは連行される。

 閉められる扉の隙間から見えた国王は、まるで別人のようだった。





 __






「聖女サマ、お昼にするっすよ」



 ぬいぐるみを作っていたツユキのもとにミウがやってくる。ツユキは針を動かす手を止め頷いた。



 ミウに車椅子を押してもらい、食堂に向かう。




「今日の昼食は何でしょう?楽しみです」

「聖女サマよく食べるようになったっすね。カラカラだった車椅子も丁度よく重くなったし、いいことっす」



「……もしかして、わたし太りました!?」

「健康的な範囲でっすよ!!むしろもっと太れ!細すぎるわ!」



 修行の一環として、聖女の時の食事は量が少なめだった。加えてツユキはそれすら与えられず、トパーズに分けてもらうことも多かったこともあり、結果として2人の食事量はかなり少なかった。

 侯爵令嬢であるトパーズも聖女になってからかなり痩せたと言っていた。あまり意識していなかったが、自分も痩せていたのかもしれない。



 そんなことを考えていると、ミウの声が急に聞こえなくなる。止まった車椅子の上でツユキが振り返ると、彼女は真剣な顔で耳に神経を集中させていた。




「聖女サマ!!」



 突然、ミウはツユキを抱き上げて飛び上がる。次の瞬間、その場所が破裂し残された車椅子が粉々になった。


 呆気に取られるツユキをよそにミウは廊下を走り続ける。その後ろを爆発が迫ってきた。




 窓を蹴破り、ミウはバルコニーに出る。



「跳ぶっすよ!!」



 そして手摺りを蹴って大きくジャンプ。爆風が彼女の背中を押し、2人は庭の迷路にダイブした。



「聖女サマ、大丈夫っすか?」

「はい、ありがとうございますミウさん」



 ほっとしたのも束の間、無数の足音が庭に向かってくる。金属の擦れる音が混じったそれは彼女達の周りを取り囲んだ。





「……これはまぁ、大仰なこって」




 その姿を見て、ミウは鼻で笑う。





 白を基調とした鎧に身を包む彼らはアルレイエス聖堂騎士団だった。




「アルレイエス教には、他人の屋敷を壊してもいいって教えでもあるんすか?」

「貴様らが聖女を隠すような真似をしたからだ」



 整列した騎士達が左右に分かれる。そうしてできた騎士の道を一際豪華な鎧を纏う女性が歩いてきた。

 その姿を見て、ツユキが息を呑むのが聞こえる。


 彼女はカルミア=グラトキシン。このアルレイエス聖堂騎士団の若き団長である。



「団長直々とは、聖堂騎士団っつーのは暇なんすか?」




 軽口を叩きつつ退路を探るが、周りは騎士の壁、跳ぼうにも弓兵が構えているため難しい。

 オーゼリー達がいれば状況は好転する、しかし何故か彼らが見当たらない。爆破程度でくたばるような人達ではないはずだが……。



「お前が探しているのはこいつらか?」

「っジジイ!!」

「シランさんロバータさん!!」



 騎士が引きずってきた3人を見て2人が声を上げる。

 オーゼリーはかろうじて意識があるらしく、彼女達の声にぴくりと反応した。シランもロバータも気絶はしているが呼吸はしている。

  生きているのがわかってほっとしたものの、ミウの頭には疑問が浮かんでいた。





(やられた…この3人が?こんな騎士の雑魚共に?)



 足捌きや立ち位置、周囲の警戒の仕方など、仕事柄相手の強さを探るのは得意だ。しかしどう見ても目の前の騎士共は3人よりもはるかに弱かった。

 寄ってたかられたとしても負けることはないはずだ。



 ならば、なぜそこでやられている__?




「……そいつらみたいに、ウチをボコって聖女サマを取り戻すつもりっすか。はっ、聖堂騎士団って案外野蛮なんすね。騎士というより野盗みたいっす」


 

 口を動かしながらも逃げ道を探し思考を巡らせるミウ。疑問に対する答えは後でいい。今はここから脱出する方法を__


 その時、突然胸に燃え上がるような痛みを感じる。上手く息ができなくなる。

 ミウはツユキを手放すと胸を押さえた。落とされて痛かったろうに、こちらを心配してくれるツユキにミウは微笑んだ。



「ミウさん!!ミウさんっ!!」

「聖女サマ、ごめん…」




 ミウの背中が裂け、血飛沫が上がった。




「い、いやあああぁぁぁ…!!」



  四方八方に飛び散る紅く生温かいそれを浴びたツユキの脳内にあの日の光景がフラッシュバックする。

 また大切な人を目の前で失ってしまう。そんなのは嫌だ。ツユキは自分の身体のことなどお構いなしに呪いと共に封じられていた魔法を解き放つ。淡く柔らかい光がミウを包み込むように広がり



「…がっ……!」


 首に強い衝撃を受ける。治癒の光は役割を果たさずに霧散した。

 




「聖女ツユキ、貴様がその力を使うのはここではない」

 

 カルミアはツユキを掴み上げると控えていた聖堂騎士に引き渡す。ミウの姿がどんどん遠くなっていった。





「ミウ…さん……」



 弱々しく伸ばした手はミウに届かないまま、ツユキは意識を手放した。







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