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お守りは小さなぬいぐるみ




「__そうか、聖堂騎士が」



 王太子護衛の任務が終わり、邸に戻ってきたエレクティオはオーゼリーとミウから報告を受けていた。その手には回収された2つのロザリオと通信魔道具がある。




「申し訳ないっす、ウチがいながら……」



 そう言ったミウの顔はいつにも増して暗い。




 ツユキの護衛として側にいながら、小鳥に纏わりつく工作員の魔力に気づけなかったのだ。こうなるのも無理はない。


 だが、小鳥には気配隠蔽の魔法が重ねがけしてあった。ミウが小鳥に気づいたことはすごいことなのだが、今の彼女にはツユキの存在が聖堂騎士にみすみす知られてしまったことが重くのしかかっていた。





「いずれバレることだ、そんなに気にすることはないさ」


 エレクティオは俯くミウの頭を撫でる。


 

「それに、相手の出方も見えたんだ。こちらも動く口実ができたし、対策も立てやすい」

「でも……」

「ミウや」


 ウジウジとしている弟子に、オーゼリーは声をかける。



「一度の失敗をいつまでも悔やむのはお主の悪い癖じゃの。

 __己が失敗した時、儂はなんて教えた?」

「……切り替えろ、次を考えろ、立ち止まらず動き続けろ。命があるなら、後悔はいつでもできる」

「わかっておるではないか」



 俯いていた彼女から小さく笑い声が聞こえてくる。


 

「はは。懐かしいな、メイドに慣れすぎて色々忘れてたわ。

 ……ありがと、ジジイ。目ぇ覚めた」

「昔みたいにおじいちゃんと呼んでくれればかわいいものを」

「なっ!?いつの話してんだ!!ジジイはジジイだろが!!」



 顔を真っ赤にしたミウはオーゼリーに殴りかかるが、ほっほっほと笑う彼に当たることはない。

 もはや照れ隠しとは思えない空中殺法の鬼ごっこを眺めながら、エレクティオは明日のことを考えていた。




「しかし、このタイミングとは……アイルズ大丈夫かな」






 __






「そうですか、殿下達が明日レイエスト教会に……」




 夕食の終わり、エレクティオはツユキに、明日アイルズ達が巡礼ついでにレイエスト教会を調べることを話した。



「大丈夫かい?」

「……動き始めたなと、思っただけです」



 沈黙するツユキに尋ねると、そう答えが返ってきた。




 ツユキには偵察の件を伝えてある。その際、驚くこともなく彼女はその事実を受け入れた。教会に居場所がバレる覚悟はできていたようだ。



「わたしに、何かできることはありますでしょうか……」

「うーん……今回は僕も無事を祈るしかできないからね」

「そうですよね……。今できることはないですね……」



 ツユキは拳を握る。

 そんな彼女の頭に、皿の片付けを手伝っていたシランがポンと手を置く。



「聖女様はまず自分の怪我を治さないといけないでしょ。だいぶ良くなったんだから、無理に動いて悪くしてはいけないわ」

「そ、それもそうですね……」



 そう言われてしまうとツユキも弱い。




 怪我は快方にむかっているものの、その治りはかなり遅かった。呪いを抑えるための魔力封じが影響しているようで、治癒魔法が効きづらくなっている上、魔力の流れが悪いために自然治癒も弱くなっていた。


 それに、車椅子で生活を始めてから結構経つので完全に治ってもしばらくはリハビリが必要だ。




 現実を突きつけられツユキは萎む。

 思ったよりも暗くなってしまったツユキにシランは頭を抱える。真面目なところは彼女の美徳ではあるのだが、度が過ぎて自己嫌悪するの考えものである。

 シランは話を変えるべく、落ち込むツユキに耳打ちをした。

 


「……それより、エレク様に渡すものがあるんでしょ?」

「そうでした!!」



 ツユキは服のポケットから小さなぬいぐるみを取り出すと、エレクティオに差し出した。




「これは…?」

「アキメネス様のお守りです。お待たせいたしました」



 ツユキはアイルズやネリフェラ、アキメネス家の皆にお守りとして手製のぬいぐるみを渡していた。

 エレクティオの分は鋭意製作中とのことだったが、遂にできたらしい。



 ……忘れられていなくてよかったと、内心ほっとしたのは内緒である。




「納得のいく形になるまで時間がかかり、こんなに遅くなってしまいました……すいません」

「そんなこと、謝る必要はないよ。__ありがとう、ツユキ嬢」



 エレクティオはツユキの頭を撫で、ぬいぐるみを受け取る。金の瞳の黒狼を型どったそれは、自分をイメージして作ってくれたのだろう。



「お礼を言うのはわたしの方ですよ」


 このぬいぐるみはお守りとして渡したかったのと同時に、感謝の印でもあった。だからこそ納得のいくまで作り直し、その結果完成に時間がかかったのだが……。



「いつもありがとうございます……え、エレク、ティオ様……」

「……え?」



 ツユキはこれまでの感謝を言葉にする。しかし、名前で呼ぶのはどうも気恥ずかしく、尻すぼみになってしまう。

 それでもエレクティオは聞き逃さなかった。

 


「い、今名前で呼んでくれたよね!?」

「よ、呼びましたよ!呼びましたからそれ以上は言わないでください!!」

「もう1回!もう1回だけ!!」

「……い、1日1回だけです!!今日はもう呼びません!!」




 ツユキは真っ赤にした顔を見られまいと全力で背けた。

 しかし1日1回は呼んでくれるらしい。これからは毎日呼んでもらうとしよう。

 思いがけないプレゼントにエレクティオは嬉しくなった。



「劣化防止と盗難防止が付与されたディスプレイケースを注文しよう。書斎に置くところはあったかな?」

「飾らないでくださいよ!?」



 飾る気満々のエレクティオをツユキが止める。喜んでもらえたのは素直に嬉しいがそこまでされると居た堪れない。

 それに、あのぬいぐるみをお守りと呼ぶには理由がある。そのためにも、やはり持っていてもらわなければ意味がない。

 


「冗談だよ」とエレクティオは言っていたが、その目は本気だったような……






 ……気のせいだと思おう。







 __


 




 __思えば、トントン拍子に話が進みすぎていた。

 



 突然決まった国王のレイエスト教会巡礼。普段なら考えられないぐらいにあっさりと許されたアイルズ達の同行。そして、聖堂騎士団によるツユキの偵察。


 エレクティオはこれらの出来事にえも言わぬ不安を感じていた。そしてその不安はすぐに的中することとなった。

 



 翌々日、いつも通り王城に向かったエレクティオは、息を切らせて走ってきた近衛兵フリッツからそれを聞くことになる。

 



「エレクティオ!アイルズ殿下とスローカム嬢が……行方不明になった!!」






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