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夢は共鳴する




「……私の、勝ち、ですね」



 目の前で息を切らし膝をついた青年に意気揚々と告げる。

 平原だと思われるそこは穴だらけになっており、降り注いだ雨によって小さな池が無数にできていた。



「半永久的に回復し続けるなんて、大人気ないと思うけど?」

「負けるわけにはいきませんでしたから、全力で行かせていただきました。

 __そ・れ・に、私のことをお子様扱いしたのは貴方ですよ?大人ではないので大人気なくても問題ありませんよね?」


「あー、確かに言ったね。悪い、撤回するよ」

「甘んじて受け入れましょう。……しかし、この力を使ってもここまで苦戦するなんて、本当、何なのですか貴方は」

「さてね、僕も知りたいよ」




 2人は顔を見合わせて笑う。少し前まで死闘を繰り広げていたとは思えない光景だった。



「……さて、と。負けたらこの国の無条件で開け渡す、だったね。民に恨まれちゃうな」

「そうですね。ちゃんと私に開け渡してくださいよ?」

「え?」

 


 わたしは目の前にいる黒髪の青年に手を伸ばした。





「私、かなり欲張りですから」





 __





「ふあ……ぁ」



 夏が終わり、少し和らいだ太陽の日差しが気持ちいい。大きく伸びをしたツユキはそのまま欠伸をした。

 聖女として務めていた頃では考えられない行動だが、これもこの家に慣れたからだろう。




「おや、眠たいかい?」

「お恥ずかしながら……今日は何だか不思議な夢を見たような、見なかったようなで寝た気がしないのです」



 紅茶を飲む手を止め尋ねるエレクティオに、ツユキは慌てて口に手を当て答える。



 昼食も終わったこの時間はガゼボに皆が集まりのんびりすることが多い。物も人もないただ大きなだけの屋敷だ、仕事という仕事も少なく皆のんびりとしている。


 休みの日には、これにエレクティオも加わる。主従の関係性は薄く、皆の距離が近いここではそれが当たり前の光景であった。



 ツユキもまた、皆と一緒にいることが多くなった。いつ呪いが動き始めるかわからないため監視の意味もあるが、1番の理由はツユキ自身がアキメネスの人々のことをもっと知りたいと思ったからだ。




「不思議な夢、ね……もしかすると誰かの夢と共鳴しているのかも」


 角砂糖を5つ入れた紅茶を混ぜながらシランが言う。「そんなに入れんなよ……角砂糖高えんだぞ」というロバータのボヤきは残念ながら無視された。



「共鳴、ですか?」

「たまに起こる現象よ。人は眠ることで魔力を回復するでしょ?その時集めた魔力に人の夢なんかの記録が残っていると他人の夢をぼんやりと見ることがある、と言われているわ」




 この世界には全ての存在がもつ魔力と呼ばれるものがある。



 魂や核にある器に注がれる魔力は一定量が生命力として生きる上で必要な力となり、生命力を超過した分は魔法を行使する際に消費される。


 そんな魔力は眠る時に対外環境から吸収され回復する。環境中のそれらは無機物から生物、その死骸に至るまでの様々なものから放出されたものであり、その波長もまたバラバラである。

 そのため体内で変換してから使われるのだが、時おり吸収した中に誰かの夢や記憶の断片が残った魔力があり、変換時にそれを夢という形で追体験することがあるらしい。



 

「魔力制御が不安定な時に起こりやすいものだけれど……呪印が聖女様の魔力を乱しているのかもしれないわ。呪いが再び動く前兆かも」



 その言葉に他の者達も反応する。

 ミウは徐にツユキの背中を覗き込み、エレクティオはツユキにかけていた魔法封じを強めた。

 


 呪いに気づいた頃は呪印の魔力供給を止めることで呪いを抑えていたが、先日の呪いの作用を目の当たりにしてからは直接彼女の魔法ごと呪いを封じる措置を取っている。

 もちろんツユキの了承は得ていた。彼女自身も誰かを傷つける可能性があるなら一時的に魔法を封じた方が良いと思っている。うっかり魔法を使って怪我の回復を遅くすることもなくなるのでツユキは一石二鳥とも思っているのだが。


 

 呪いの効果は未知数である。呪いの影響を見たことがある面々は少々過保護になっていた。




「ありがとうございますアキメネス様、ミウさん。……やってもらってばかりですいません」



 ツユキはしゅんと小さくなる。

 聖女だった頃はトパーズといる時以外、全てのことを一人でやらないといけなかった。トパーズが居たとしても、全て任せるのは悪いと一緒にやっていたので、誰かに何かを全部やってもらうことはほとんどなかった。そのため、このように何もできずに周りに気遣われる現状にツユキは申し訳なさを覚えていた。



「謝りすぎるのも、逆に迷惑じゃぞい」

「す、すいません……あ」

「ふぉっふぉっふぉ、ゆっくり慣れていけばよいぞ」


 オーゼリーはそう言って笑う。言われた側から謝罪の言葉が出たツユキが、恥ずかしさで少し頬を赤くしていると、ロバータの大きな手がツユキの頭をわしゃわしゃに撫でる。


 

「そうだそうだ。ミウなんか鼻の下伸ばして嬢ちゃんの背中眺めてるだけなんだぜ」

「はぁ!?テメェ眺めてるだけってなんだ!触診もしとるわ!」

「鼻の下伸ばしているのは否定しないのね」



 ショートケーキのいちごを脇に置き、スポンジ部分から食べていたシランがぼそっと呟くと、ミウはぴたりと止まった。その目は明後日の方向に泳いでいる。



「へ?あー、いやー……それは、ねぇ?」

「……ミウさん」

「すいません役得です!!」


 ツユキにジト目で睨まれたミウは目にも留まらぬ速さで土下座した。だが本音は漏れている。

 そんな反省しているのかしていないのかイマイチわからないミウをツユキはしばらく見ていた。




「ミウさん」



 名前を呼ぶと彼女の肩が大きく跳ねる。おずおずと顔を上げる彼女に、ツユキは笑いかけた。



「わたしは怒ってませんよ。ミウさんがわたしをどんな目で見ていようと、直接危害を加えることはないとわかっていますから。

 __それに、トパーズお姉様も同じような顔でわたしを見ていましたし……慣れていますから大丈夫ですよ」

「全然大丈夫じゃないよそれ!?」



 ミウを安心させようと付け加えた衝撃の事実に皆が止まる。

 アキメネス家の中で聖女トパーズ変態疑惑が生まれた瞬間だった。







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