教会は企みが交差して
アルレイエス教会側のお話です
「聖女ツユキはまだ見つからないか!!?」
ステンドグラスに囲まれカラフルな光の降り注ぐ礼拝堂。その場所に教皇コラン=ヴァイン=アルレイエスの怒号が響いた。
「申し訳ございません」
平謝りをする聖堂騎士団長カルミアの白い鎧を錫杖の先で叩く。礼拝堂の空気に似付かわぬ甲高い金属音が彼らの耳を震わせた。
「誰が貴女を騎士団長に任命したと思っている!神の信徒として恥じない結果を出さないか!」
「はっ、大変申し訳ございません」
「もういい、下がれ」
コランはカルミアを追い出した。
「……全く、これだから女は。すり寄るだけすり寄って、結果を出しやしない」
「教皇様。騎士団も必死に探しているのです、叱責もほどほどに」
「貴様もだローラム枢機卿!祝印はどうなっている!?」
「魔術師に探させてはいますが、魔力を遮蔽されたようで感知ができないそうです」
ローラムは困ったとばかりに頭に手を添える。その演技じみた動作はコランの苛立ちに油を注ぐ。
「元はと言えば貴様の発案だろう!古代の祝印というからどんなものかと思えば……役に立たないではないか!」
コランは錫杖を振るう。しかしそれはローラムの魔法に弾かれ彼に当たることはなかった。
「そう仰らずに……そうですね、ではより祝福を強くしてみては如何でしょう?」
錫杖が魔法に弾かれる音が響く中、ローラムが笑顔で言うとコランの手が止まる。
「そんなことしてしまわれては聖女が壊れるだろう!」
何を言っているのかと喚くコランにローラムは笑顔を崩さず楽しげに続ける。
「なに、必要なのは聖女の器。中身が多少壊れたところで影響はございません。それに……壊れたとしても、彼女ならば容易に治せるでしょう」
「……なるほど、それもそうだな」
コランはようやく錫杖を下ろす。あたりは再び静かになった。
「本当に聖女の力とやらが得られれば私も神の啓示が聞こえるようになるのだな?」
「ええ、そうすれば教皇様の地位は不動なものとなるでしょう。それこそ、国という存在がちっぽけに思えるほどに」
「そうか」
しばらく考えた後、教皇は人を呼ぶ。
「魔力の高い奴隷を数体買ってこい」
やってきた神父にそう言付けし、多めに金を握らせる。神父は喜んで礼拝堂を後にした。
「馬鹿な男だ……低俗な人間は御し易い」
「ええ、本当ですね」
コランは神父を鼻で笑い、ローラムは貼り付けた笑顔で返す。
「ローラム、祝福を強め、ツユキを炙り出せ。必ず成功させろ」
「仰せのままに」
そんな2人のやり取りを、女神の像は作られた笑顔で見下ろしていた。
__
「くそっ!」
白い壁に思い切り拳を叩きつける。鈍い音がして壁に小さなクレーターができた。
「教会を壊すのではありませんよ」
背後から声がして振り向く。そこにいたのは見目美しいが胡散臭い男だった。
「ローラム枢機卿か、斬られたくなければ後ろに立たないことだな」
「それは失礼を」
素直に頭を下げるローラムには隙がない。ここで剣を振ったところで、恐らく彼に当たることはないだろう。
「……それで、何のようだ」
「いえ、少し助言をと思いまして」
「助言?何のだ?」
「聖女ツユキに関することです。彼女の消息は魔力を辿ることができないためわかりません」
「おい、おちょくっているのか」
剣に手をかけるカルミアにローラムは静止を促す。
「いえいえ、その魔力が辿れないということが重要なのです。彼女には祝印が施してあるので魔力を隠蔽しても探すことができるはずなのです。祝福すらも遮断できるとなると相当の魔法使いが関わっていることになるのです。
__それこそ、この国最強の魔法使いのような」
「……氷の魔王、エレクティオ=アキメネスか」
「ええ、いくら祝印が理解できようともそれをここまで完璧に遮断するには聖女トパーズに並ぶ力が必要です。彼女以上となるとこの国には氷の魔王しかいない。
……あくまで推測の域を出ないのですが」
口ではそう言っているが、目の前の男はほとんど確信しているのだろう。
魔王__このアルレイエス教にとって忌み嫌う存在。
特に氷の魔王と呼ばれるエレクティオ=アキメネスは、かつて女神レイエスと戦ったという魔王と同じ黒髪金眼の魔色を持つ男だ。
彼自身がアルレイエス教に害をなしたことはない。しかし、その見た目ゆえ危険視する信徒が多いのは確かだった。ローラムもまた、その一人であるということか。
「……わかった、かの者を探ってみよう」
「ありがとうございます、カルミア騎士団長」
恭しく頭を下げるローラム。そんな彼にカルミアは疑問をぶつける。
「しかし、何故お前がわたしに手を貸す?貴殿は教皇側の人間かと思っていたが」
「いいえ、騎士団に花を持たせたいだけですよ。教皇猊下のお怒りを買うばかりでは貴女方も立つ瀬がないでしょう?」
「……それは、そうだが」
カルミアは教皇の一存で騎士団長に選ばれた存在。これ以上彼の機嫌を損ねるのは体裁が悪い。
自身の目的のためにも、ここで立場を悪くしたくないのは確かである。
「今は、そういうことにしておこう。貴殿と敵対したくはないのでな」
「ええ、それがよろしいかと」
ローラムはにこりと美しい笑みを浮かべて去っていった。何も知らないご令嬢が見れば卒倒してもおかしくはない。
しかし、見慣れたカルミアから見ればなんとも薄気味悪い笑みだった。
「……貴殿は、何を考えている?」
その背中に、カルミアはポツリと呟いた。




