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【全話執筆済】『孤独になった俺を、彼女は最後まで家族と呼んだ』  作者: ブヒ太郎


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第四十八話:交差する質量と、起動する更地の嵐

放棄精製所の冷え切った地下空間。

薄暗い照明の下、マテオの異常に発達した腕から放たれる厚さ三十センチの巨大な鉈が、空気を叩き潰すようにカルロの頭上へと振り下ろされた。


「死ねッ!」


「……っと!」


カルロは正面から受け止めない。

背負っていた巨大な斧の柄でその重たい一撃を滑らせ、弾かれた勢いを利用して独楽のように身体を回転させる。


そのまま遠心力を乗せた斧の刃が、マテオの胴を両断する鋭い軌道を描いた。


だが、マテオはただの「鉄の塊」である鉈の腹で、いとも簡単にその必殺の斬撃を受け止めてみせた。

鋼鉄と硬い魔獣の装甲が激しく噛み合い、暗い空間に激しい火花が弾け飛ぶ。


「……ふむ……旧人類の割には、そこそこ力があるようだ……だがッ」


マテオが手首を返し、乱暴に鉈を振り払う。


カルロは斧を盾にして防御姿勢をとるが、その圧倒的な重さの差を殺しきれない。

靴底でコンクリートの床を削りながら、後方へと大きく吹き飛ばされた。


「……弱者どもが。我々からしてみれば貴様らはハエも同然よ……」


マテオの獣のような視線が、後方で立ち尽くす純白の外套へと向く。


じりじりと距離を詰めるその巨体を前に、フィオーネの額に冷や汗が滲んだ。


「……化け物がッ……」


赤熱する剣を正眼に構え、迎撃の体勢をとる。


だが、マテオがその間合いに入るより早く。

背中のスラスターから爆炎を噴き出させたカルロが、吹き飛んだ勢いを殺して再び猛然と突っ込んできた。


「フィオーネッ! 俺が引き付けるから、お前はその隙を突けッ!」


「……了解ッ!」


フィオーネが白百合の裾を翻し、マテオの死角へと向けて駆け出す。

マテオは忌々しげに二人を睨み据え、再び巨大な鉈を構え直した。


* * *


一方、ネロを包囲していた三人の刺客。


「っおおおお!!」


鋼鉄のように黒く硬化した皮膚を持つロッコが、身の丈を超える巨大な盾を構え、ネロを圧殺せんと突撃してくる。


「っらぁッ!」


ネロは逃げない。

右手の漆黒の戦棍を握り締め、鋭い気合と共に正面からフルスイングした。


黒い鉄塊と鋼鉄の盾が激突する。

鼓膜を圧迫する強烈な衝突音と共に、ロッコの巨体が盾ごと宙を舞い、後方の壁へと吹き飛んだ。


「……チッ!!」


その隙を突き、ティトが腕の筒から可燃性のガスを大量に放射する。


引火すれば一瞬で灰になる死の霧。

ネロは一切の躊躇なく、戦棍を背後へ引き絞ると、そのまま前方の石畳へ全力で叩き込んだ。


粉砕されたコンクリートから巻き起こった爆発的な土煙と風圧が、前方の空間を薙ぎ払い、迫るガスを強引に押し返す。


「くっそッ!」


自身のガスに巻かれ、むせ返りながら後退するティト。


「終わりだッ!」


だが、その混乱の只中、完全にネロの死角に潜んでいたブルーノが跳躍していた。

灰の火花を散らす双剣が、ネロの首筋めがけて音もなく振り下ろされる。


ネロは振り向かない。

深く沈み込んだ体勢のまま身体を鋭くねじり、左足で強烈な後ろ回し蹴りを放つ。


「……ッ!!」


刃が届くよりも早く、ネロの踵がブルーノの腕を深く捉えた。

骨が軋む嫌な音と共に、ブルーノは床をバウンドして弾き飛んだ。


三方向からの波状攻撃を完全にねじ伏せ、ネロは戦棍を肩に担ぎ直した。


息一つ乱していない。


「……はっ! 身体が軽いな……!」


ネロの口角が吊り上がり、獰猛な笑みが浮かぶ。


ひび割れた床から、ロッコ、ティト、ブルーノが呻き声を上げて身体を起こした。


「こいつ……」


「適応が……」


ブルーノが信じられないものを見るように、ネロを睨み上げる。


「……俺たちと、同じに……」


ネロは黒シャツの下で、体内に眠るウイルスの力を静かに引き出していった。


右腕の筋肉が服を破らんばかりの異様な太さに膨れ上がり、漆黒の瞳の奥で、純度の高い『灰色の光』が不吉に明滅し始める。


「……さて……姉さんが……セリアが今どこにいるか、答えてもらうぜ……!」


冷たく低い声。

それは問いかけではなく、死の宣告だった。


三人を見下ろすネロの圧倒的な余裕に、ティトが忌々しげに顔を歪める。


「……セリア……お前が、あの化け物の弟かっ」


「……出来損ないの弟と聞いていたが……どこがだッ……」


盾を構え直したロッコが、冷や汗を流しながらジリジリと後ずさる。


「答えねぇなら、当然無理やり口を割らせるまでだ……」


ネロの身体から、異常な高熱の蒸気が吹き上がり始める。


冷え切っていた地下空間の空気が、彼の放つ異様な殺気によって、物理的な重圧を伴ってひしゃげていた。


ネロは漆黒の瞳を細め、身の丈を超える巨大な盾を構え直したロッコへと明確に狙いを定めた。


「……モーディ」


「……ちっ!! こいつの攻撃は俺が受け止める! お前らはっ!」


ロッコが首筋の皮膚を再び鋼鉄のように黒く硬化させながら叫ぶ。


ネロの右手に握られた戦棍から、感情の温度を一切排した無機質なシステム音声が地下空間に響き渡った。


『対単体・極大貫通プロトコル、ロード。魔導回路01〜03、直列連結シリアル・リンク確立』


内部の回路が直結され、凄まじい高周波の共鳴音が鳴り響き始める。


「させるかよっ!」


その隙を狙い、態勢を立て直したブルーノが跳躍した。


特殊合金で打たれた曲刀が灰の火花を散らし、戦棍の起動を妨害すべく振り下ろされる。


『マナ・プレッシャー、規定値を突破。安全リミッターを強制遮断します。……マスター、衝撃に備えてください』


「邪魔だっ!」


刃が届くよりも早く。


ネロは異常な熱と圧力がパンパンに詰まった戦棍を、片手で横薙ぎに振り抜いた。


漆黒の鉄塊と、極薄の曲刀が激突する。


「……くそがっ!」


甲高い金属の断末魔が響き渡った。


ネロの理外の力と戦棍の重さに耐えきれず、ブルーノの握る曲刀の二本のうち一本が、火花を散らして無惨に砕け散る。


ブルーノ自身もその衝撃を殺しきれず、床をバウンドして弾き飛んだ。


「……っうぉぉぉぉおおおっ!!」


だが、その僅かな隙を、ロッコが見逃すはずもなかった。


彼は巨大な盾を構えたまま爆発的に踏み込み、ネロの身体を擦り潰さんと突撃してくる。

圧倒的な重さの壁が、ネロの眼前に迫る。


『──対象の装甲組成を、”不要物ノイズ”と再定義。撃発機構パイルバンカーを起動──』


「ッラァァッ!!!」


ネロは逃げない。

迫り来る大盾のド真ん中へ、限界まで熱を帯びた戦棍を真っ向から突き込んだ。


ゼロ距離で空間が圧縮され、極大の鋼鉄の杭が撃ち出される。


爆発的な衝撃波が空気を打ち砕き、石畳が粉々に吹き飛んだ。


「おおおおおおっ!!」


だが、杭は盾を貫通しなかった。


ロッコは自身の硬化した筋肉を限界まで膨張させ、靴底で床を深く抉りながらも、その巨体で強烈な衝撃をギリギリで受け止めてみせたのだ。


盾の表面に亀裂が走るが、その巨体は崩れない。


「そのまま止めておけっ!!」


拮抗した状態のロッコの背後から、ティトが躍り出た。


彼の腕の筒から、引火性のガスが大量に放射される。

盾の左右から回り込むようにして、ネロの退路を塞ぐ死の霧。


「……決まりだっ」


盾越しにネロの身体を押さえつけながら、ロッコの口角がニヤリと吊り上がった。


逃げ場はない。

だが、ネロの顔に焦りはなかった。


「モーディッ!!」


『続いて、広域空間制圧プロトコル、スタンバイ。魔導回路01~06、多重並列連結マルチ・パラレル・リンクを確立』


感情の温度を一切排した機械音声が、空間の熱を奪い去る。


杭の機構が解かれ、内部で新たに六本の回路が直結した瞬間。


『エネルギー分配パターン:拡散ディフュージョン。──当該座標における物理的構造の固定を解除、地形維持プロトコルを強制遮断カットします』


「!!!!」


死の気配を肌で察知し、背後のティトが顔を引きつらせる。

盾を構えるロッコの余裕の笑みも、完全に凍りついていた。


『対象エリアの全事象を”不要な凹凸ノイズ”と再定義。衝撃波による物理的均一化を開始──完全更地化グラウンド・ゼロ


「吹き飛べ、デカブツ」


ネロは、絶対的な破壊の暴威を纏った漆黒の戦棍を、目の前の大盾めがけて、下からえぐり込むように全力で振り上げた。


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