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俺くんは国際交流委員9「ハジメマシテ!アロハデス!」

高校生活2日目の朝、教室はしんとしていた。

すでに委員長は自分の席に座っている。

廊下側の一番端の列の真ん中の席。

俺が目線で軽く挨拶すると、委員長は小さく右手を挙げた。

クールな仕草で、スマシテいる。

学校では、やはりその路線で行くのか?

昨日の駅での表情とはだいぶ違う。

女性はいろんな顔を持っており、それを場面に応じて使い分ける生き物のようだ。


ショートホームルームのチャイムが鳴る。

小声でおしゃべりをしていた人たちも、みな席に戻った。


廊下に人の気配がした。

曇りガラスの向こうで何かを話している。

担任は男なのだが、女性の声も聞こえる。

みんなの視線はそちらに向き、廊下の様子をうかがった。


ドアが開き、 まずは担任が笑顔で入ってきた。

それに続き、生徒がひとり入ってきた。

教室内は、ざわめいた。

俺は、あっけにとられた。

昨日駅で会った女子が、そこに立っていた。


俺は違和感を禁じえなかった。

彼女がそこにいること。

うちの学校の制服を着ていること。

髪や化粧が、昨日とほぼ変わらないこと。 (学校側は、許可したのか?)

まぶしいばかりの笑顔であること。


こんなことって、あるのかなー?

あるんだねー。

俺が委員長の方を見ると、委員長は俺を見ずに、小さくピースサインをした。

謀ったな、委員長!


担任が女子に自己紹介を促すと、彼女は一歩前に進み出て、胸を張った。


それはとても目立つからやめなさい。

男子にとっては、目の毒だ。

自分を見失い、平常心を失ったヤツらは、何をしでかすかわからない。

彼女は何もせず、ただそこに存在しているだけなのに。

美はそれだけで罪だった。


ところ大丈夫なのだろうか?

つまり、彼女が、他の女子たちから反感を買わなければいいのだが。

このままでは、イジメられてしまうのではないか?

「なにあの子、生意気ねー」

「ちょっと容姿がいいからって、ちょーしに乗ってんじゃないわよ」

「それにさー、なにあの胸元。うちにケンカ売ってンの?」

「そうそう、そーとしか、考えられない」

「ホントむかつく!」

以上、俺のいつもの勝手な妄想である。

しかし、もしこうなったらゆゆしき状況だ。

いじめは困る。国際交流委員として、対処せねばならぬ。


そんな俺の危惧をよそに、彼女は笑顔で教室内を眺め、そして口を開いた。「アロ~ハ~!(親指と小指を伸ばし、他の指は折り曲げて、手をヒラヒラさせている) ハジメマシテ! アロハデス! ハワイカラ キマシタ。ナカヨク シテ クダサイ」

たとだとしい日本語だったけど、一生懸命伝えようとする彼女の姿に、クラスのみんなは自然と引き込まれた。一言一言うなずきながら聞いている人もいる。


「ヨロシク オネガイシマス!」

彼女が無事に言い終わると、 クラスは一瞬で沸き立った。


「アロハちゃんだってー。 カワイー!」

「転校生が美少女だなんて、 ラノベみたい!」

「俺、 ぜってーお知り合いになるぞー」

「いや、俺の方が先だ!」


みんな、落ち着け。

冷静に、そして静粛に。

朝のお前たちの探り合いは、 何だったんだ?

みんな、猫かぶってたのか?


大騒ぎをしているクラスの中で、俺はひとり、とても複雑な心境だった。

俺にとって彼女は、因縁の間柄である。

痴漢と間違われた。危うく犯罪者だ。退学の危機すらあった。


委員長が駅のホームで言いよどんでいた秘密とは、これだったのか。謀られた。俺は今まで、委員長の手のひらで転がされていた。アイツめー。

俺が再び委員長の方を見ると、ヤツはわざと目線を合わせない。

俺が見ていることを分かった上で知らぬふりをし、アロハに手を振っている。アイツめー。(2度目)

知らんぷりを決め込むつもりか?


俺の怒りの理由を、みなさんに説明しよう。

だって、アロハと俺たちは、もうすでに深い関係だもの。(変な意味ではない)。危うく、犯罪者(俺)と被害者 (アロハ)、その仲介役 (委員長) だもの。(いや、だから、違うって)

それなのに、俺だけが何も知らなかった。憎し、委員長。


委員長「(晴れやかに、どこまでも明るく) アロハちゃーん。やっと会えたねー! 待ってたよー!」

いよいよ小芝居を始めたのか?

ヤツの老獪(ろうかい)なところは、何も知らない人には、単に転校生を歓迎する人の好い委員長に見えるところだ。

しかしてその真実は、アロハを歓迎している様子を俺に見せつけている狡猾なヤツだということだ。


ここでヤツの心の内を、みなさんに解説しよう。

「関係者の中では、あなただけが知らなかったのよー。残念だったわねー。関係者なのにねー。悔しい? 悔しいでしょうねえ。その悔しさを、もっと味わいなさーい!」

みなさん、委員長はSであることが、本日判明しました。


それにしてもアイツ、今度は両手を振ってるよ。わざとらしー。小賢 (こざ) しいペテン師め。

これは俺に対するいじめだ。許せぬ。いじめは人として許されぬ行為だ。イジメ ダメ ゼッタイ!


それでも委員長は、あくまでも俺を無視して手を振り続けた。目の端で俺を捉えている。

ぜんぶ、バレバレなんだよー!

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