俺くんは国際交流委員39「文化祭2・委員長、アロハに抱きつく」
文化祭の準備が本格的になってきた。
本番の一週間前から短縮授業となり、午後の校内は喧騒そのものだ。
忙しくも楽しく、みんなは準備に励んでいる。
メイド喫茶の役割分担は、衣装係と飲食物係だけでなく、教室や廊下の飾りつけ係も重要な仕事だ。
完成度を求めるほど、アイデアが必要になり、制作には手間がかかる。
中学までの俺は、行事なんかめんどくさく思うほうだった。
けど、今回の文化祭を体験してみて、その時間を楽しんでやった方がいいということを実感した。
自分ができることで行事に参加し、少しでも盛り上げた方が、高校生活のいい思い出を作ることができる。
そう思うようになったのは、やはり委員長の影響が大きい。
学校生活に意欲的な彼女の様子は、クラスの人たちにも自然と伝わっていった。
俺は、地味な存在そのままに、装飾係になった。
メンバーと話し合い、近世ヨーロッパの城をイメージして制作することになった。
スケッチブックにデザインを考え、少ない予算に合わせて必要な材料をそろえる。
目星が付いたらさっそく制作にとりかからないと、時間的にも間に合わない。
外壁制作という地味な係であっても、意外に大変なのだ。
でも、制作班のみんなはとても協力的で、けっこういい感じの外壁が完成した。
土台の部分はこげ茶色と茶色の用紙を組み合わせてモザイク柄にし、その上部はアイボリーの用紙で城の外壁を作る。
さらに、薄いブルーの用紙で屋根の部分を制作。
立体的な外観になるよう工夫した。
そうして、○○ランドの○○城のような外観が完成。
教室の入り口も、お城の入場門のようにこしらえた。
完成した外壁を眺めながら、「この中にメイド姿姿のアロハがいるのか」という相変わらずの妄想を忘れた俺ではない。
ことは、みなさん先刻ご承知のとおりである。
のが、自分でも残念だ。
これはもう、癖ですね、癖。
自分で自分が止められないのです。
休憩時間に出された試食用のクッキーは、ちゃんとふくらんでおり、サクサクとした歯ごたえがあった。
これを作ったのは、女子力の高い男子たち。
以前、母親が作ったクッキーは、真っ黒い石のようで、俺の歯は欠損の危機だった。
今でも手作りクッキーには多少のトラウマが残っている。
教室は、隅の一角がカーテンで仕切られ、着替え場所になっている。
その向こう側が、急に騒がしくなった。
なになに?
なにかあったの?
やがてカーテンが開き、その向こうから生きているお人形さんが出てきた。
アロハのメイド服姿の崇高さに、教室のみんなは息をのんだ。
黒地の服はすそが長く、その上に同じくらいの長さの白いエプロンをまとっている。
白と黒の対比に、気品がある。
頭には白いフリルのカチューシャを付けている。
アロハは、両手でスカートをちょっとつまむと、そのままひらりとターンしてみせた。
最後に顔を少し傾け、膝を軽く折り、恥ずかしそうな笑顔を俺にくれた。
ふだんは、そんなことをしない子だ。
「こんな子が、この世に実在するのか」と、教室内の全員が息をのんだ。
少しの静寂の後、教室内が盛り上がったことは言うまでもない。
女子たちはいっせいにアロハを取り囲み、男子たちはその後ろからのぞき込む。
「高貴……」という謎の言葉とともに、アロハにさっそく抱きついた委員長。
眉をひそめ、とても困った表情のアロハ。
身体をこわばらせ、顔をできるだけ委員長から離そうと腕を突っ張っているが、あまり効果はない。
これは国際交流委員の俺も、どうすることもできない。
下手にふたりの間に入ると、犯罪者扱いだ。
アロハの胸元へ頬ずりする委員長。
禁断の扉が、今、開かれようとしているのか?
やがてよこしまな欲望が満たされたのか、やっと委員長はアロハから離れ、なぜか俺の方を向いた。
そして、「私も着替えなきゃ♡」と言って、カーテンの向こうに姿を消した。
「♡」はいらない。
受け取りを拒否します。
もしくは、他の男子に譲ります。
だれか欲しい人、いませんかー?
数分後。
カーテンの向こうから登場した委員長は、こちらもさっきまでとは別人だった。
髪にワックスを塗り、口ひげをたくわえている。
まるで宝塚の男役のような、執事姿への早変わり。
「カッコイイ♡」という吐息をもらす女子たち。
委員長の新たな魅力に見とれる男子たち。
背筋を伸ばしたその姿は、凛々しく、威厳があった。
その雰囲気のまま、教室内を一周し、女子たちにあいさつをして回る委員長。
いちいちポーズを決めるな!
アロハと委員長を取り囲み、撮影大会が始まった。
☆☆☆☆☆
俺は英語部(国際交流委員会)が準備作業をしている多目的室に向かった。
部屋に入った瞬間、驚いた。
ここは何の集まりだ?
○○ズニーのキャラ、も○○け姫、ト○ロ、マ○オ、その他、いろんなキャラクターが集まっている。
どれも個性が強いキャラなので、カオスのひとことだ。
この一団に夜中に出会ったら、「百鬼夜行?」と思ったろう。
先輩方は、それぞれのクラスの仮装の試着をしていたのだった。
ところで、今回の文化祭で英語部は、まじめな出し物にしようと話し合っていた。
アメリカについて様々な問題を掲示し、それをお客さんに解いてもらう。
高得点の人には、チョコレート製のメダルを進呈。
地味な展示なのだけれど、文化祭当日には、保護者や先生方を中心にけっこう人が訪れてくれた。
会場入り口にはALTの故郷が、パネルで紹介されている。
彼は、機械文明から一歩距離を置いた人々が暮らすエリアの出身だ。
俺自身、アメリカにそういう人たちがいることを知らなかったので、とても興味深かった。
もちろん、アロハコーナーもある。
ハワイの風景や恐竜映画のロケ地になった場所について、写真とアロハ直筆の説明文が掲示された。
説明が細いペンで書かれており、イラストやマークで彩飾されている。
アロハ自身は恥ずかしかったらしいけど、彼女らしい展示に、感心した俺だった。
隣でアロハがいろいろ説明してくれたおかげで、ハワイへの興味がいっそうわいた。
まだ幼い頃のアロハの写真も飾ってある。
陽に焼けた天使が、浜辺に置かれたサーフボードに座り、こちらを向いて笑っている。
(これをこっそりスマホに収める男子続出。俺も)
放課後には、前夜祭が行われる。
1年生には初めての体験で、何をやるのか不明だが、先輩方が盛り上げてくれるに違いない。
いよいよ文化祭の始まりだ!




