俺くんは国際交流委員38「文化祭1・メイド喫茶に決定!」
海から吹き込む涼しい風が、夏の終わりを告げる。
秋は、文化祭の季節。
高校生にとって行事は、学校生活の中心だ。
それがあるからこそ、俺たちは、通学ラッシュや授業の疲れに耐えることができる。
高校生活のモチベーションを高めることができる。
しかも今年は、3年に1度の公開文化祭。
公開といっても、入場できるのは家族だけで一般客は入れないのだが、生徒だけの校内文化祭とは俄然やる気は違ってくる。
2学期が始まると、各クラスはさっそく文化祭の準備に取り掛かっていた。
文化祭を盛り上げ楽しむためには、出し物や飾り付けにどう工夫を凝らすかが勝負だ。
1階の3年生の教室からは、夏休みに入るとすぐに、何やらトンカン叩く音が聞こえてきた。
展示物を鋭意製作中であることを示すその音は、廊下や階段を渡って、3階にある1年生のフロアまで響いてきた。
他のクラスには負けないぞという意気込みが、その音からも感じられる。
おもしろいのはそのリズムが、次第に他の教室の音と呼応することだ。
心が遊び浮き立つリズムを聞いて、1年生の気持ちは高まった。
2年生の廊下では、ジャージ姿の数人が、大きな木か煙突のような物体に自分の身体を蔦のように絡ませ、黒いものを張り付けていた。
しかしそれが何かは皆目見当がつかない。
このオブジェが廊下の通行の妨げになっていることは言うまでもない。
しかし、生徒も先生も何も言わない。
みな、「これが文化祭だ」と思っている。
放課後になると、美大の学生かガテン系の労働者かという風貌の先輩方が、校内外を闊歩する。
ジャージや作業着に、いろいろな色のペンキや塗料が付いている。
高校生活のよき思い出を作らんとする気概にあふれる姿は、いやがうえにも文化祭の雰囲気を盛り上げていた。
各種委員会や部活動などの展示制作も始まった。
校門では、客を迎え、文化祭を宣伝するための入場門が組み立てられている。
その制作のために、大型のクレーン車まで登場したのには驚いた。
やはり高校の文化祭は違うなぁと感心させられた出来事だった。
この後どんな驚きが、俺たちを待っているのだろう。
我がクラスでも、夏休み明けの最初のホームルームで、さっそく出し物の話し合いがもたれた。
委員長が、みんなの中心となって、企画・運営を進めている。
まず委員長から、文化祭の概略が説明された。
1、今年度は公開文化祭
2、入場は家族のみで、外部の人は入れない
3、入場希望者は、事前に配布されるパンフの記載事項を確認し、ネット予約をする
4、そして当日、校門に設けられる受付でその予約画面を係に提示して入場
5、模擬店は可能だが、ガスなどを使って本格的に調理するものは不可
6、公序良俗に反する出し物は不可
7、高額な物品の売買も禁止
8、わいせつ物陳列禁止
説明が後半にさしかかると、クラスのみんなは思わず笑ってしまったのだが、過去の先輩方がだいぶヤラカシタ結果作られた注意事項なのだろう。
クラスの出し物の案で最も賛同を得たのは、メイド喫茶だった。
ありがちだし、他のクラスとダブったらどうするんだろうと思っていたら、文化祭実行委員がじゃんけんで決めるそうだ。
それで、とりあえずこの案で話を進めておこうということになり、みんなでさらに細かい意見を出し合った。
男子によるメイド服着用=女装の案も出たが、コンセプトが違うという理由により、委員長によって却下された。
男子の女装は、それなりの盛り上がりが期待できる。
しかし、委員長は即座に否定した。
実は、委員長は、アロハのメイド姿が見たかったのだ。
我がクラスの文化祭は、ほぼ、委員長のためのものとなりそうだ。
これだけワガママを通しても、反対意見が出ないところが、委員長の不思議なところだ。
人徳?
そうして後夜祭では各種表彰が予定されており、委員長は、クラス賞を狙っているらしい。
彼女の目は、いつにも増してキラキラ輝いていた。
いつもみんなの中心にいる委員長。
俺に対してたまに支配欲を発揮するが、サッパリしていて、物事にあまりこだわらず、みんなの関係を円滑に結ばせようとするところがエラい。
クラスの出し物は、結局、メイド喫茶になった。
さっそく男子たちの鼻の下が伸びていたことは言うまでもない。
全校の男子が考えていることは、ただ一つ。
日米ハーフ美少女のメイド姿が見たい!
これぞ本物のメイド姿!
アロハが優勝!
(何の戦い?)
いや、待て。
ということは、俺はまた、国際交流委員としてアロハの護衛をしなければならないのか?
そう考えると、楽しいはずの文化祭に、若干の憂鬱を感じた俺だった。
なにしろ相手は男子高校生たちである。
これまでの学校生活で、たいしたトラブルが発生していないことの方が奇跡だ。
【クラスの役割分担】
・女子はメイド服着用。接客と校内を回って宣伝。
・男子は飲み物や軽食を準備。裏方に徹すること。
ところで、今どきの男子の中には、料理やお菓子作りが趣味というヤツがけっこういる。
彼らが中心となり、具体的な食べ物の案を考えるとのことだった。
女子の衣装のメイド服は、ネット上に安いものがたくさんあり、それで揃えてしまおうということになった。
ところで、クラスの女子の中から、「アロハちゃんには、わたしお手製のメイド服を着せたい!」という子があらわれた。
スマホ画像には、その子のコスプレ姿が多数保存されており、手作り衣装の完成度の高さに、委員長とアロハは驚嘆していた。
その子はコスプレが趣味だそうで、ふだんから自分で衣装を縫っているらしい。
そうして休みの日には、イベントに出没。
ふだんはおとなしいタイプの子の突然のカミングアウトに、クラスはどよめいた。
実は彼女、アロハをモデルにこれまでも密かにデザイン画を描いていたそうだ。
このように、アロハのファンは、女子の中にもたくさんいた。
その一方、スキあらばアロハに接近しようとする男子高校生が現れ始めていた。
アロハの日本語はもうだいぶ上達しており、彼女とのコミュニケーションの壁は低くなっていたからだ。
だから俺は、アロハが廊下などで男子に迫られ困った表情を見せるとすぐにそばに行き、ふたりで英語部に急ぐふりをした。
俺の国際交流委員の仕事は、最近忙しい。




