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俺くんは国際交流委員32「海水浴2・人魚の生まれ変わり」

アロハが裏口のすだれをくぐって「タダイマ オジイチャン」と声を掛けると、すぐ隣の部屋から「お帰り」と返事がした。

俺と委員長はちょっとびっくりした。

すぐそこにいたんだ。

暗さに慣れないまま、俺と委員長はおじいちゃんがいるらしい方に向かって、「おじゃまします」と声を掛けた。


闇の奥から出てきたおじいちゃんは、いかにも「海の老人」という雰囲気だった。

日に焼けた赤褐色の顔と腕。

意志が強い、遠い目。

顔のしわが、人生の深みを表している。

細身の体に薄い筋肉がついているのが、Tシャツ越しにもわかる。

隣の作業場からすると、漁師なのだろう。


俺と委員長は、再び「おじゃまします」とあいさつして頭を下げた。

おじいちゃんは、「ふたりにはいつもアロハに良くしてもらってるようで、ありがとう。」と答えた。

俺と委員長の顔をそれぞれ眺め、目尻を下げている。


俺たちは、茶の間のようなところで冷たい麦茶をごちそうになりながら、おじいちゃんと話した。

おじいちゃんはやはり漁師で、最近は体調と天気が良い日だけ漁に出ている。

歳には勝てないとこぼしながら、うちわをゆっくりと動かしている。

生まれた時からここに住んで漁師をしてきたので、おばあちゃんが亡くなったけど、これからもずっとここにいたいし、漁も続けていきたいそうだ。


隣でアロハは、おじいちゃんの顔をじっと見ている。

顔が似ているようないないような、そんな祖父と孫娘だった。

アロハには、パパのアメリカの血が混じっているので、おじいちゃんにアメリカの血を混ぜるとアロハになるのかと、俺はちょっと変なことを考えていた。


会話を続ける途中、以前この人と会ったことがあるような不思議な気持ちがしていた。

それは、おじいちゃんへの親しみなのか、それとも実際に会ったことがあるのか、わからない。

口に出して言うのも失礼だと思い、そのことについては黙っていた。


アロハのママの話題になった。


おじいちゃん「あの子は海が好きで、絵本で見たハワイの海にずっと憧れていた。」

委員長「そうなんですね」

おじいちゃん「小学生の頃から、ハワイに行きたいハワイに行きたいと、ずっと言い続けて、おばあちゃんと私を困らせた」

委員長「そんなにハワイが好きだったんですか」

おじいちゃん「あぁ。それでおばあちゃんと話し合って、それならば、思い通りに行かせてやろうということになった。でも、中学から行くことになるとは、私も思わなかった。おばあちゃんが、どうせ行きたいなら早い方がいい、行かせてやろうと言って、私も決心した。」


アロハはやはりじっとおじいちゃんを見つめている。


俺「ずいぶん、決心がったんでしょうね」

おじいちゃん「最後はおばあちゃんに押し切られた。おばあちゃんは漁師の妻だけあって、胆力たんりょくのある人だったから、早く娘の希望をかなえてやろうと思い切ったんだろう」

委員長「アロハのママは、どうしてそこまでハワイに憧れたんですか?」

おじいちゃん「あの子は、人魚の生まれ変わりみたいな子だった。小さなころから海で遊んで、波と戯れるという表現がぴったりの子だった。ちょっと目を離すと、どこまでも泳いで行ってしまう。危ないからとさとしても、体が動いてしまう。実際泳ぎも上手だった。波間に潜っては、しばらく浮いてこなかった。」

俺「アロハのママは泳ぎが上手なんですね」

おじいちゃん「海のそばで生まれたからと言って、あれほど上手になるわけじゃない。あの子は、ただ泳ぎが上手なだけではなくて、海とともに生きている。海から生まれ、海に育てられた。泳ぐのではなくて、海とひとつになる。不思議な子だ」


委員長が「今も上手なの?」とアロハに聞くと、アロハは微妙な表情をした。

アロハ「モウ オヨイデナイ」

委員長「日本に帰ってからも?」

アロハ「ソウ。シゴトモ イソガシイ」


アロハのママは、日本とハワイの貿易の仕事をしているそうだ。

まだ起ち上げたばかりなので、毎日帰りも遅いらしい。


アロハはこれまで、ママのこともママと海のことも、ほとんど話さなかった。

そこには何かがあるような気がして、俺も深くは聞かなかった。

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