俺くんは国際交流委員30「スポーツ大会3一進一退の攻防」
卓球の試合時間が迫っていた。
俺たちは、急いで格技場へ向かった。
決勝戦は、3試合同時に行われる。
他のメンバーの試合経過も気にしつつ、自分の試合に集中しなければならない難しい状況だ。
俺はシングルスに出場した。
試合前の乱打で、相手も卓球の経験があることを感じた。
強めに打った球も、平気な顔で返してくる。
さすが決勝戦、それなりの相手が勝ち上がって来ている。
徐々に俺は燃えてきた。
卓球で燃えるのは、何年ぶりだろう。
中学一年の時に、卓球部の先輩を打ち負かした時以来だろうか。
試合開始。
相変わらず応援がいないので、試合は静かに進む。
格技場に響くのは、ボールの音と、審判のコールの声だけ。
バレーの試合とはまるで違う。
地味だ、地味すぎる。
俺の試合相手は、ラケットさばきが上手で、サーブも回転をかけたりかけなかったり、角度をつけたりつけなかったりと、変幻自在な球を繰り出してくる。
バシバシ打ってはこないが、非常にいやらしくてやりにくい相手だった。
ミスが少ないため、試合に勝つというよりは、負けにくいタイプだ。
試合途中、場内がざわついた。
ふり返ると、アロハと委員長が来ている。
ふたりは俺に手を振った。
やっと来たか、応援団。
俄然やる気が出てきた俺だった。
それにしてもやりにくい相手だ。
俺の強打をかわしてくる。
変な回転をかけてくる。
俺のミスを待っている。
俺は改めて、試合に集中した。
こういう戦法の相手には、短気になってはいけない。
こちらも粘り腰で戦い、チャンスがあれば勝負する方がいい。
勝負をしかける一方で、チャレンジしすぎると自滅する。
その加減が難しい、戦いにくい相手だった。
これは、応援する方も同じだったろう。
一進一退がずーっと続く、ジリジリするような試合展開に息が詰まる。
連続ポイントが取れないため、根負けした方が負けだ。
俺の試合の途中で、他の試合の結果が出た。
シングルスは取ったが、ダブルスは負けた。
この試合で勝負が決まる。
1ゲームずつ取った3ゲーム目も、相変わらず一進一退が続く。
それでも、やっとマッチポイントまで漕ぎつけた。
俺のサーブ権。
これが取れれば優勝だ。
「ガンバレ、オレクン!」
静まり返っていた格技場に、それは突然響き渡った。
アロハの応援の声だった。
俺はうなずいて、それまで使っていなかったサーブを繰り出した。
勝敗を決する時のために取っておいたのだ。
左後ろから前にラケットを素早く振り出し、スピードを加えるとともに、ボールに回転をかけた。
武士が鞘から刀を抜くときの動作と同じ、一撃必殺のサーブ。
ボールは卓球台を対角線に飛んでいく。
初めて見るサーブに、相手の返球は甘くなり、ボールが高く浮いた。
シマッタという相手の表情を横目に、俺はラケットを思いっきり振った。
これで決まりだ!
優勝はもらった!
……はずだった……
スローモーションで後ろに通り過ぎるボール。
今度は俺の方が、シマッタという表情をする番だった。
ああいう時って、時間の流れがゆっくりになるんだね。
だって、スローモーションになるんだよ。
俺は決め球を空振りしていた……
試合に負けてベンチに帰る俺に、わずかな数の応援団は、どう対応していいかわからない表情だった。
それを察して、俺もいたたまれない気持ちになった。
みんな、すまない。
勝てた試合だったのに……
勝ち気に逸った俺の負けだ……
俺は力なくベンチに座った。
委員長とアロハは、意気消沈する俺に寄り添ってくれた。
委員長は、「俺くん、お疲れ!」と、笑顔で元気に声をかけてくれた。
アロハも、「ガンバッタネ、オレクン!」と優しく励ましてくれた。
帰りのホームルーム。
委員長を先頭に、ホームルーム委員が、段ボール箱を持って教室に入ってきた。
委員長「担任の先生から、差し入れのアイスでーす! みんな、好きなもの取ってっていーよ!」
クラスのみんなは一斉に教壇に駆け寄り、アイスに群がるアリとなった。
いちばん最後に残っていたアイスの味は、ほろ苦かった。




