俺くんは国際交流委員29「スポーツ大会2アロハの戦う気持ちは折れなかった」
俺は卓球に出場することになった。
久しぶりに戸棚から出したマイラケットは小さく見えた。
下手な字で書かれた名前が消えかかっている。
幼い汗がしみ込んでいる。
懐かしい体育館の匂いを思い出す。
近所のおばちゃんたちや家族連れが楽しそうに打ち合っていた。
スポーツ大会で男子が考えていることはただ一つ。
女子にカッコイーところを見せたい。
しかし、女子の黄色い声援を受けるのは、やはりもともとカッコイー男子である現実。
卓球の試合は、シングルス2試合とダブルス1試合で行われる。
1回戦の対戦相手は2年生だった。
誰か応援に来てくれないかなーと思いながら試合をしていたのだが、結局誰も来なかった。
まず、場所が悪くわかりにくい。
卓球は、格技場で行っている。
格技場は、体育館の裏にひっそりと建っており、薄暗い陰気な場所だ。
ハッキリ言うと、このあたりは負の雰囲気をまとったエリアなのだ。
だから、卓球を応援しようと思った者は、まず体育館の中を通るか体育館の犬走をぐるっと回るかして裏側に出て、そこから古い渡り廊下を通って格技場へ行かなければならない。
観客がおらず、シンとする場内。
地味だ、地味すぎる……
「静かさや 岩にしみいる 蝉の声」(松尾芭蕉)
相手との対戦に集中すべき場面で、突然心に浮かんだ一句。
卓球って、こんなに地味な競技だったっけ?
第1体育館はバレー、第2体育館はバスケだから、当然卓球は格技場だよね。
押し出されたってことかな?
ここしか空いてないもんね。
仕方ない、卓球の出場者だけで地味に楽しもう。
そんな、謎の連帯感が、格技場には広がりつつあった。
もうこうなったら、俺たちだけで楽しめばいいや。
それで、1回戦の話はしたっけ?
あまりの応援のなさに意気消沈して、どこまで話したか忘れてしまった。
勝ちました。
相手はほぼ初心者だけだったから、楽勝です。
ついでに言うと、2回戦・3回戦も勝ちました。
相手はやはり、初心者ばかりでした。
応援には、やはり誰も来てくれませんでした。
他の競技と試合時間がかぶったんだね。
そう思いたい。
思うしかない。
相手のクラスの応援もありません。
このまま俺の青春は終わってしまうのか、とまで思ってしまうほどの静かなスポーツ大会。
次の決勝戦も、地味な戦いになるのだろうね。
決勝までは時間が空いていたので、俺たち卓球チームは、他の種目を応援することにした。
体育館では、これが同じスポーツ大会かと思うほどの盛り上がりぶりだった。
バスケの試合では得点が入るごとに大歓声が上がる。
女子が大きなうちわを振り回す。
うちわの周囲はキラキラしたモール付き。
まるでコンサートのようだ。
みんなで一緒にジャンプ。
体育館が揺れる。
うちのクラスの女子バレーは2回戦を勝ち、次は準々決勝とのことだった。
初心者ばかりのメンバーなのに、よくそこまで勝ち上がったものだ。
第1体育館入口には人だかりができていた。
上級生もおり、中に入りにくい。
それでも人をかき分けてやっと中に潜り込む。
外から急に体育館の中に入ったため、初めは目が慣れなかった。
大声援が体育館の中に響いている。
試合はすでに始まっていた。
委員長とアロハも、コートに立っている。
アロハは長い髪を、お団子に結っている。
☆☆☆☆☆
試合は白熱していた。
どちらのチームの選手も、汗びっしょり。
夏の暑さが早めに訪れ気温が上がっていたことに加え、体育館の中は試合の熱気で包まれていた。
選手の頬はみな紅潮している。
サーブするごとに、クラスのみんなで声を掛ける。
レシーブ側は、「1、2、3」と、返球までの数を数える。
失敗しそうになると、「カバー」の声がかかる。
アロハと委員長は隣同士に位置し、委員長がアロハをカバーしている。
しかし、委員長が全部手を出すのではなくて、アロハが取れそうなボールはアロハに任せていた。
相手チームに上手な子がおり、その子がサーバーになると、連続で得点されてしまう。
強烈なサーブが、うちのチームに襲い掛かる。
相手の強いサーブがアロハの顔面に向かって飛んできた。
アロハはとっさに両手で顔を覆った。
俺は思わず「危ない!」と叫んだ。
委員長がアロハの顔の前にサッと手を出し、片手でボールを叩き落した。
「ナイス、委員長!」という声が、あちこちからかかる。
それでもアロハの戦う気持ちは折れなかった。
アロハはアロハなりに、自分ができる戦いをしていた。
下手からサーブを打ち、相手のコートに確実に入れる。
自分の所に来たボールのレシーブは、とにかく上に打ち上げる。
そうすれば、他の人がカバーしてくれる。
委員長の身軽な身のこなし。
常にアロハを気遣う様子。
アロハもそれをわかっていて、自分なりに精いっぱい競技に参加していた。
その様子は、俺だけでなく、試合を観戦していたみんなにも伝わった。
チームの真剣なまなざしは、次第に観客の心をとらえ始めた。
しまいには、他のクラスの生徒も、うちのクラスの応援を始めた。
相手のクラスは相手のクラスで、さらに応援の声が高まる。
試合終了の笛。
試合には負けてしまったが、やり切ったという思いが、チームのみんなの表情に表れている。
クラスのみんなはコートの中央に集まり、選手の健闘をたたえた。
汗を拭いてあげる者、泣いている友人を励ます者、うちわであおいであげる者。
そこには感動と感謝があった。




