俺くんは国際交流委員11「委員長のアロハへの思い」
委員長の英語は、ニュージーランド仕込みだった。
委員長「わたし、留学した時に、知らない土地でとっても苦労した。言葉もそうだし、生活環境もそう。学校にも、なかなか慣れなかった。英語が話せなくて、引っ込み思案になって、友達もできなかった。だから、すぐ日本に帰りたくなった。泣きながら、何度もママに電話した。ステイ先のホームはよくしてくれたんだけど、私自身、一歩が踏み出せなかった。
留学することはできた。でも、そこで何をどうするかを具体的にイメージしていなかった。あこがれだけで行っちゃったんだね。留学する別の事情もあった」
委員長の目には、涙が浮かんでいる。
心に波が立っている。
そんな彼女を、俺は見守ることしかできなかった。
委員長「昨日、駅で困ってるアロハたちを見て、そのころのことを思い出した。見知らぬ国の見知らぬ場所にいる不安。アロハの場合は、転校の手続きとか生活の準備とかを、ママと二人でしなければならなかった。それはほんとに大変だったと思う。」
話すことで委員長は、少しずつ落ち着いてきたようだった。
その様子を見て、俺も少しほっとしていた。
委員長「アロハって、とってもいい子でしょ。頑張り屋さんだし、何事にも誠実に取り組もうとする。でも、本音を言うと、やっぱりハワイに帰りたいんだと思う。ハワイの話をする姿は、ニュージーランドに留学してた時の私と同じなの。
だから私、アロハのために何かしてあげたい。アロハが日本にいる間、私たちとの生活を、楽しかったなーって思い出してもらえるようなものにしてあげたい。それが私の願いなの」
委員長の思いに、俺は感動していた。
それに対して俺は……
委員長「それでね、さっきの役割分担に話を戻すと、俺くんは国際交流委員として、クラスや学校の公式の場面、つまり、授業中や学校生活は、基本的に俺くんが担当するっていうのはどーかなー?」
俺「そうだね……」
委員長「どーしたの?」
俺「英語が……」
委員長「大丈夫だよ。一緒に生活するうちに、話せるようになるよ」
俺「そんなもんだろーか?」
委員長「そんなもんだよ。ニュージーランドでも、私、そうだったよ」
俺「……」
委員長「あのサァ、俺くん」
俺「ん? なに?」
委員長「俺くんは、自分で国際交流委員に立候補したんだよ」
俺「(確かに)」
委員長「俺くんが自分で手を挙げたんだよ」
俺「(再び、確かに)」
委員長「俺くんなら、できるよ」
俺「そーだろーか?」
委員長「絶対、大丈夫。私が保証する!」
俺は、出会ったばかりの俺のことを保証してくれる委員長に、少しのおかしさと、少しの照れくささと、少しのありがたさを感じていた。
俺「わかった。やってみる」
委員長「ありがとう。それでこそ、俺くんだ」
俺「テヘッ」
委員長「…そーゆーとこよ」
俺「エッ? なに?」
委員長「すぐチョーシに乗るところが」
俺「ところが?」
委員長「イマイチなのよ」
俺「イマイチ?」
委員長「そう、イマイチ。イマイチ、サエナイのよねー」
俺「お前さぁ、俺のこと、持ち上げたかと思うと急にディスったり、ホント、やめてくんない?」
委員長「アラ、そんなつもりはもーと―なくてよ。お気に障ったのなら、ごめんなさい?」
謝罪の語尾は、慎ましやかに下降するものだ。
今の「ごめんなさい」の語尾は、上がってるじゃないか!
コイツ、やる気か?
俺の怒りが自然と表情に現れたようで、委員長は俺をとりなしにかかった。
委員長「ホントに謝るから。ゴメンね」
俺「あぁ。」(しょーがねーなー、許してやるか)
委員長「それでね、アロハのことなんだけど、プライベートの部分は私がサポートしようと思うの。ほら、アロハは女子だし、女子同士、いろいろあるでしょ?」
俺「そーだな」(若干の怒りを含んでいる)
委員長「じゃ―、それで決まり。あと、細かい部分とか、自分がダメな時とかは、臨機応変にいこう」
俺「あぁ」
委員長「じゃあ、アロハが待ってるから、行くね」
そう言って身を翻した委員長は、ちょっと立ち止まり、前を向いたままつぶやいた。
委員長「俺くんって、短気ね」
そして、そのまま教室に駆けていった。
いま、わざと聞こえるように言ったよね。
去り際に言うなんて、卑怯だぞ!
アイツめー。




