第四十九話 作戦
落とし穴の蓋に、手を掛ける。
その地面には凄まじい電流が流れていた。
「再生」の能力を使っていなければ、とっくに大火傷の上、心停止にしていただろう。
「生きてるかな••••」
俺の魔力感知では、一点に集中をしないと半径五メートルが限界だ。
この範囲に、ホワイト達も雷神?もいない。
だから、穴から這い上がり、辺りを見回す。
ビルの外では、雷が降り続けていた。
その中では、柱や亡骸が熱で溶け出している。
けれど、ホワイトは無事だ。
良かった。
何故か、少しずつ光る粒子を出してはいるが。
倒れているイリカと少女、それを取り囲むようにホワイトと黒田がいる。
いつかのまにかいた黒田も、黒い粒子を少しずつ出していた。
「おーい!ホワイト!良かった!黒田も!けど、二人ともはそこにいて大丈夫なの?電流やばくない?」
「••••わたし達はだいじょうぶ」
「••••ま、ボク達は血なんて通って無いから。超熱い程度••••それより、キミは平気なの?」
「俺は大丈夫。感電しても「再生」で戻しているから。けど、イリカはまずくない?」
イリカともう一人は『停滞』で止められた机の上に乗せられていた。
その二人をよく見る。
火傷したと思わしき部分が徐々に治っていた。
更に少女の方の手も人間のものになっている。
「••••ま、ボクがガードして、で、治したから平気••••キミはこの事を覚えといてよ」
「?。分かった。覚えておく」
「•••••••それがりゆうで••••すぐ治さなかった•」
ホワイトは怒っているように呟く。
その方を向かず、黒田は俺を見る。
「••••ボクの知る限り、アレの弱点は少しでも高い位置にある物を狙う事。例え下により危険な物があってもね。そこを気をつけて、早く倒そう」
「流石に逃げた方が良いんじゃない?それが弱点だとしても。規模が違い過ぎるし」
「逃げれないわ。いや、痛いわね。ビリビリもするわ。『変革:巨大雉』」
落とし穴が消え、それがあった位置にフレジアが現れる。
そのフレジアは足元から石の大きな鳥を出した。
「カルミナは予備動作があるとは言え、雷の速度で動けるらしいわ。その上広範囲に雷も落とせる。逃げるのは無謀ね」
フレジアは石の鳥に乗る。
それで、地面に足を付かないようにしていた。
一方、このビルの天井からは溶けた鉄や石が垂れ出す。
ここが熱で溶けて無くなるのも、時間の問題である。
急いで作戦を立てよう。
「••••う。急に目の前がひかって••••って、え!?どうなっているの!?え!あれなに!?何の天候!!?え、ラミちゃんも!腕も戻っているわ!何これ!」
「煩いわね。黙りなさい。私はこいつと話しているのよ」
「う、うるさい、、うるさいわね、、こんな状況で、、」
イリカはしょんぼりした顔にになる。
すると、ホワイトはフレジアを睨み付け出す。
「••••ちはるを助けてくれたのは、ありがとう。でも、ころしに来たお前がいちばん信用できない。お前こそ静かにしてて」
「あなたの考えなんて聞いてないわ。私はこいつに話しかけているの」
「一旦、一旦、落ち着いて。あれを倒さなきゃ全員死ぬだけだよ。一緒に作戦を立てよう」
何か全体的に、仲が悪そうだ。
これでは協力なんて出来そうも無い。
全員で協力が出来れば多分行けると思うのに。
一応協力しないプランも思い付いたが、ちょっとやばいから、これは最終手段だ。
「••••協力したいんだったらさ。キミが強引に仕切ってよ。ボクも手伝うからさ」
「それは少し。無理ある気がする」
多少は他の人の意見に寄り添っておかないと、人は言う事を聞いてくれない。
生徒会長時代はそうだったし。
姉ちゃんも仕切る時は、これを気にしていた。
「え。ある程度関係性あるんだし。多分キミが暴れれば行けるでしょ。信頼もされてるっぽいしさ」
「こいつらとの協力なんて要らないわ。あなたの能力は、他者の魔力を使う物でしょう?私の能力で落とし穴を作って、その中で小さい鳥に乗っていれば良いわ。使い方は教えてあげるわよ。これであなたと私だけは助かるわ」
「そっか。けど、ちょっとそれは無理かな。本末転倒になっちゃうし」
悪くないプランだが。
ならば、俺のやばい方のプランの方が良い。
「なに?なにが本末転倒よ。このままだとあなたも死ぬわよ」
「まあ、ちょっと約束していて。それなら一緒に何かした方が色々確率が上がるなって」
ホワイトが死んだら、俺も自殺する約束をしていた。
だから、そう言うのは無理だ。
「は?そんなの破りなさい。もう時間も無いわ。天井を見なさい」
フレジアは天井を指差す。
上の天井は溶け、そこの穴から空が見えた。
もう、ここより上の階は無いのだろう。
「あの、ちょっと。大空千晴くん、無理やり仕切ってよ。行ける行ける。キミが仕切ってくれれば行ける」
「千晴。一緒に隠れましょう。この作戦で私も満足よ」
「••••それなら、ちはるは、穴の中にいていい。わたしはほかのと床掘ってかくれるから」
「••••••倒せるなら、倒したいわ。私も今死にたくないし、これなら皆んなで生き残れるかもしれない」
「そっか」
一応全員の意見は聞けた。
だからこそ、全員で協力は無理そう。
意見を合わせる為、話している時間もない。
ならば倫理的に少し不味いが、このプランで行こう。
生き残れる可能性はこっちの方が高い思う。
そのプランとは、誰かを無理矢理持ち上げて空へ投げ飛ばし、囮とするものだ。
雷神がこの囮につられたら、全員で逃げる。
そして、囮が灰になったら追加で一人を無理やり投げ飛ばす。
これを逃げ切れるまで続ける。
皆んな割と頑丈だろうし、亡骸になってもすぐ灰にはならないはず。
これなら俺とホワイト、どちらも生存出来る確率は相当高い。
更にイリカさえ生き残れば多分ホワイト的にも大丈夫なはず。
ホワイトは黒田ともフレジアにも何か怒っていたから、仲良くなれそう判定に入っていない可能性も高い。
その上、俺一人で出来るから話し合う時間も必要ない。
割と完璧だ。
「大空?ラミちゃんに近づいてどうしたの?」
いや、少し微妙かも。
少女は大して頑丈では無さそうだし。
そうしたら、最低二人は投げる必要があるだろう。
だが、抵抗されるかもしれない。
何かあれでもある。
じゃあ一つ、諦めよう。
「何でもない。所で良い作戦を思いついたわ。俺が囮になるから、その隙に全員で逃げてくれ。イリカに「再生」を使った俺を投げて貰って。それで、ある程度高い所に行けたら俺は飛んで逃げる。これなら成功率も高そうだし、これならどう?」
俺が、囮作戦の囮になる。
これが最も成功率が高そうだ。
偶然空飛ぶ能力も手に入れられたし。
行けそうだと思う。
「いや、ダメでしょ。ボクの話聞いてた?」
「それなら、俺が離れ切るまでの間に殺してくれれば良いよ。これしか無くない?」
俺が死ぬ確率は非常に上がるが、そこは許容だ。
後は俺が雷の直撃を耐える事が出来るか否か、雷神?の攻撃を避けられるか否かというか問題だけ。
まあ、死んだらごめんって感じ。
「••••••大空がいいなら、私はやるわ。でも、絶対、大空が死ぬ前にあいつを倒すから。安心して」
「え!了承しちゃうの!?それやるぐらいならこの子の作戦の方が良いよ!!ボクとしても!」
「あなたが一番死ぬじゃない。私のプランで行くべきよ」
「••••••ちはるはうまってて」
「••••持つわね。は!」
イリカは俺を持ち上げる。
溶けて空いた天井の穴へ、投げた。
俺はその穴から空に出る。
能力を「再生」に変えた。
「••••何でここだけ無駄に頑固なの••••辞めてよ本当に••••••••」