第二十五話 vs謎の男
(な、何があったの、、全身が痛いわ、、)
気絶し、地面に倒れていたイリカは目を覚ます。
そして、顔を上げる。
黒い布を纏った男が、立っていた。
『最初から本気を出すべきでは無かったな。先程までの連携が見る影もない。これでは戦う価値もない』
黒い杖を持った男は、残念そうに呟く。
イリカは何を言っているのか分からなかった。
(どうなってるの、、状況把握しないと、、)
これを無視し、イリカは倒れたまま辺りを見回す。
周囲には、千晴もホワイトもいない。
誰も居なかった。
『しかし、推定勇者二人は中々だ。即、仲間を置いて逃げる判断をするとは。今殺すには惜しいか』
(もしかして!殺されたの!?この男に!!)
「許せない!」
涙と共に、イリカは立ち上がる。
男に殴りかかった。
あっさり、杖で防がれる。
『ふむ。そう言えば、こいつも見覚えがある。何だったか••••魔力を動かさず、これほどの身体能力を持つ奴は見た事がないが••••』
「は!は!は!」
何度も何度も殴り、蹴りかかる。
頭、首、手、胴体、足。
全て杖で防がれた。
『まあ良い。次に期待するとしよう。死ね。『束ねた闇』』
漆黒のレーザーが、男の杖から放たれる。
これはネックレスの黒い石を貫く。
そのまま、イリカの胴体をも貫いた。
(師匠の、、ネックレス)
黒い石の破片が飛び散る。
松明の光によって、キラキラと光った。
胴体から噴き出した血も、それらを赤く染める。
『『異次元融合』!!ハハハ!おい!ついに!奪ってやったぜ!!ヒヒヒ!!』
こんな声が耳に届く。
しかし、イリカの意識は闇に沈んでいった。
『素材としても至上!!これで探せるぞ!ヒヒヒ!!』
満面の笑みのイリカは、大声でそう叫ぶ。
男は目を見開いた。
『貴様は』
『あ!?お前が壊したのかよ!!ありがてぇが死ね!』
イリカは、蹴りを至近距離の男に喰らわす。
男は胴体から黒い粒子を吹き出しながら、吹き飛んでいく。
『ハハハ!気分最高だぜ!!おい!お前の趣味も!ついでにぶっ壊してやるよ!!ヒヒヒ!』
—-
「だれ?」
「???。あんな感じだったっけ。それに魔力を動かしてるし」
男はイリカに蹴られ、吹き飛んでいく。
そのイリカの瞳は真っ黒になっていた。
更に無かったはずの魔力も動かしている。
何故に。
『まるで同窓会だな。これでは』
壁に衝突した状態で、男はイリカに語りかける。
一方、イリカは呆然とホワイトを見つめていた。
『あ、ホワイト••••逃げろ』
「••••?」
「???。戻った?」
直後、イリカは元の瞳に戻った。
次は、胸元の壊れた黒い石を呆然と見る。
『同窓会が終わったな。だが、いくらお前と言えど逃さぬぞ。『領域操作』』
男は壁から離れ、呟く。
次の瞬間、遠くの床が盛り上がり、俺たちが入ってきた通路が塞がる。
退路が完全に消えた。
『私を殺さねば出られぬ。これで、死ぬ気で戦えるな。『凄い闇』』
男は手から黒い玉を打ち上げた。
この玉は黒い水滴の雨を撒き散らしだす。
雨に触れた床は、バキっと少し割れる。
『••••『凄い光』』
ホワイトも光る玉を放ち、黒い玉にぶつけた。
空中で爆発が起こる。
だが、黒い玉は罅が入っただけで健在だった。
俺はホワイトを持ち上げて、急いでイリカに近づく。
直後、頭の上に「結界」を貼った。
ドドドドと「結界」に水滴が当たる音がする。
これで、「結界」に少しずつ罅が入っていく。
「おい!お前!ボケっとすんな!おれの能力を使って!あいつを殺せ!死ぬぞ!!おれの『融合』は、ありとあらゆる二つの物をくっつけられる!」
「••••••え、な、何!?なんで口が勝手に!?え、何!?」
「ありとあらゆる二つのものを合体させられるから、それであいつを倒せって」
「大空とホワイトちゃん!無事だったのね!本当に良かった!!」
イリカは俺達を見て、笑顔になる。
無事というか、ただ俺が逃げただけだった。
逆にそっちが良く大丈夫だったらというか。
「い、一旦、後で。それどころじゃ無くて。凌ぐのでギリギリで」
「分かったわ!大空!バリアをちょっと解いて!水滴なら吹き飛ばせるわ!その隙に壊して!!」
イリカは拳を構え、思いっきり腰を捻る。
急いで「結界」を解く。
「正拳突き!」
イリカの拳圧で雨に穴が空く。
そんな中、ホワイトが魔力を加工していた。
「••••『光線』」
黒い玉が光るレーザーに撃ち抜かれる。
粒子を撒き散らし、それは壊れた。
『いい連携だ。ならば、これはどうだ。『束ねた闇』』
男は手から幾つもの黒いレーザーを放つ。
かなりのスピードで、それらは俺達に襲いかかる。
「離れてれば見えるわ!避けるわよ!」
「••••一瞬わたしもとめれる」
イリカはホワイトごと俺を持ち、走る。
この俺達の真横を、何個ものレーザーが通過した。
レーザーは洞窟の壁をも貫く。
『これだけでは終わらんぞ。『束ねた闇』』
レーザーは俺達を追ってくる。
追加でもう一本、俺達に直接向けて飛んできた。
それはホワイトが数瞬止め、イリカがジャンプし避ける。
『中々だな。次はこれだ。『凄い闇』『束ねた闇』』
『••••••『光線』』
『『光線』。やっぱり無理か』
次に男は黒い玉を出しながら、レーザーを放つ。
黒い玉は水滴が放たれる前に、ホワイトが破壊した。
レーザーはイリカがまた避けた。
一方、空いている俺は直接男を狙う。
だが、男は光るレーザーをあっさり躱した。
『ふむ。壊されるか。ならば、壊されぬまで出せばいい。『凄い闇』『凄い闇』『凄い闇』』
『••••『光線』『光線』『光線』』
俺のレーザーは普通に躱された。
予想通り、魔力感知は出来るらしい。
ならば今の俺達には、この男への決定打は無い。
全て魔力感知が出来れば普通に躱される。
だったら、決定打を探す。
「おい!話聞けよ!おれの『融合』を使え!使い方なんとなく分かるだろお前!このままだと負けんぞ!いいのか!?お前!」
「え!!?なに!走りずらいわ!なに!」
『••••••まけた』
一つの黒い玉は空中で動き、ホワイトのレーザーを躱す。
直後、水滴を撒き散らし始めた。
「『束ねた闇』。これは俺にも出来たか」
この玉を俺の黒いレーザーで破壊する。
男の魔力を、能力で「模倣」できた。
これで俺の能力の発動条件も、何となく分かる。
恐らく他者の魔力による影響を、直接認識する事だ。
要は、相手の能力を一度でも、見れば良い。
魔法は男の魔力の動かし方をそのままやったら使えた。
『ホワイトの魔力に竜族の魔力、そして私の魔力。貴様の能力は魔力を真似する能力と見る。中々強力だな』
そうしたら『領域』?で洞窟を動かせないか試す。
少なくとも床は消せるようになりたい。
いつ俺達を壊滅させた、あの壁を出す魔法が来るかも分からないから。
動け。洞窟。
「おい!こいつの能力は『領域』!!己の体を拡張してそれを操る能力!おれは『融合』!!二つのものを掛け合わせる!お前でもいい!『融合』を使え!」
「誰!?避けてる時に話さないで!!走りづらいわ!」
動かない。
だったら、今出てきた手段を試そう。
「実際見ないと、俺の能力で使えないと思います。出来るなら見せて頂ければと」
「は?おい••••マジか」
走っているイリカの、別人格?を頼ってみる。
『融合』は強いらしいし。
何とかならないだろうか。
「••••••チッ••••やるしかねぇか。やってやるよ」
「ありがとうございます。あの、その披露がてら地面を無くす事は出来たりしますか?勝つために願いしたいというか」
「は!?お前!??面の皮あついな!やるが!!」
「え!??なに!??私なんかするの!!?」
『貴様も加勢するか。もう一段レベルをあげよう。『闇の震波』
男は俺達の方に向けて、漆黒の壁を発射する。
一番最初に使われた魔法だ。
他人頼りになってしまうが、これでまた壊滅するかはイリカの別人格?次第になる。
そのタイミングで、イリカは地面を踏みつけた。
「『範囲融合』!撤収!」
「え!?足!勝手に動くわ!なんで!」
急に地面が消える。
俺達は一つ下の通路へ落ちていく。
真上を厚い黒い壁が通っていった。
『避けたか。だが、また使うのみ。『闇の震波』』
男は空中で杖を構え、またしても黒い壁を放つ。
落ちている俺達に向け、上から壁が迫ってきた。
「ホワイト!ごめん!風魔法お願い!そっちはホワイトを持っておいて欲しい!」
「私!?え、大空!分かったわ!頑張って!!」
俺はイリカの腕の中から飛び出し、「結界」を足場にする。
ここで一時待機だ。
俺はまだ五属性魔法を使えない。
五属性魔法は独特な魔力の動かし方が必要だから。
「••••わかった。『凄い風』」
ホワイトから出た風は、俺を吹き飛ばす。
先に、風は黒い壁へぶつかる。
この瞬間、俺が風を『停滞』で止める。
止まった風が壁となり、闇魔法を防ぐ。
魔法はやはり実体がある判定だった。
一方俺は周りの風が急に止まったせいで、色々頭とかをぶつける。
しかし、魔力のお陰で大丈夫。
「解除!行こう!」
こうして闇魔法を凌ぎ切り、『停滞』を解く。
また風で加速し、俺は男に向けて吹き飛んでいった。
『風で加速したか。だが、私は貴様が来るより早くこの魔法を出せるぞ』
落ちてくる男は、また杖を構える。
男の体内で魔力が動いているのが分かった。
ならば「神速」だ。
「結界」を足場に、加速しようとする。
『『闇のもごもご』。?』
「「神速」は駄目っスよ会長!加速状態で当たったら、箇所が爆散しちゃうっス!」
突如、ひらめが男の後ろに現れる。
男の口を布で押さえていた。
『もごもご。もご、もごをもご』
「これであとはよろしくっス!これで自分の評価もV字回復っスかね!」
ひらめは男を足蹴にし、空へ飛ぶ。
その為、男はさらに加速して落ちてくる。
ありがたい。
これなら「神速」無しで行ける。
「は!ただのラリアット!」
男の首にラリアットをする。
風で加速した状態でだ。
『ほう••••良い連携だ••••』
男の首は空中に飛んでいく。
その断面からは、黒い粒子が大量に吹き出す。
一方、胴体は地面に落ちていく。
『ハハハ!ザマァねぇな!テメェの趣味、妨害してやったぜ!こいつおれの能力は使わなかったがな!!嘘つきやがって!!この野郎!』
「また勝手に口が動くわ!でも大丈夫!?キャッチ!」
俺も地面に落ちて行く。
これはジャンプして来たイリカに抱き止められた。
「••••••たすかった。ちはる••••ありがとう」
「全然。ホワイトの力もあってこそで」
同じく抱えられていたホワイトに、こう言われる。
こんな中、イリカは地面に着地した。
「勝ったわ!生き残れたわ!」
イリカは笑顔で、そう言う
まずイリカに謝らなければ。
悪い事をしたのは確かだ。
「ごめん。俺は一回逃げて。そのせいで黒い石も壊されて」
「そうだったの!?••••••だ、大丈夫よ!!最後には帰って来てくれて!一緒に戦ってくれたじゃない!気にしなくて!!平気よ!!」
そのせいで、イリカが大事にしていたっぽい黒い石も壊れた。
いつか責任は取ろう。
そして、ホワイトにも言わなければ。
「何とも思わないって所は直す。逃げるのもこれからはなるべくしないようにするわ」
「••••••そう」
ここを直さないと、色々駄目だ。
大人のホワイトに言う通りだった。
ここで、ひらめも地面に着地する。
「会長が戻った時は焦ったっスけど!会長を自分は許すっス!!だから皆んなも自分を許して欲しいっス!最後には加勢したスからね!会長と同じっス!」
「••••••あなたは••••勝てそうな時だけ来るわよね•••••••でも、助けてくれたのはありがたいわ•••••」
「••••••」
『よくぞ私を打ち破った』
突如、地面に転がっていた男の首が話し始める。
未だ断面からは黒い粒子が吹き出ていた。
???。
これでも生きているの?
『実を言うと、貴様達にはそこまで期待していなかった。それぞれの動かせる魔力量は大した事がない。復活後でマンネリの打破を狙っていなければ、すぐに殺していただろう』
何か不味そうなので、転がった頭を蹴り飛ばす。
イリカの腕からはさっき出た。
頭は壁に激突する。
更に、黒い粒子が吹き出した。
『だからこそだ。貴様らの力を引き出して、ギリギリ負ける。素晴らしい。これぞ勇者達の言うスポーツマンシップか。新しい事には挑戦してみる物だ』
それでも男は話し続ける。
何だこいつ。
『故に切り札を切らざるを得ない。たかが一、二週間。されど苦労した。そしてこれは使い切りだ。何という事だ。努力の成果がすぐに消えてしまう』
「••••『光線』」
男の頭に光るレーザーが貫通する。
その箇所からは、更に黒い粒子が吹き出す。
『ハハハ!!正に!最高!!お前達はどう壊す!!楽しみで堪らない!ハハハ!!うぉうぉうぉう!!『変異』!!』