鞍馬山へ。
翌朝、一抹の不安を胸に抱きながらも、お師匠様と春保様の三人で鞍馬山へと向かう事になった。
お師匠様は浅葱色の狩衣を纏い、春保様は白の狩衣。私は薄衣に小袖袴と言う出で立ちである。
動き易さを求めれば、この様な出で立ちになる。
森を出て鞍馬山の方角を目指す。
竹の筒に水を入れ、腰に下げているので少し重い。
暫く人里の道を歩き、閑散とした場所に出た所で、小汚い衣を着た男共に出くわした。
「お前達……。 陰陽師だな?」
そう言いながら近付いて来る。
「おや? 私達をご存知ですか?」
笑みを浮かべお師匠様が言った。
「へっ。 我らの雇い主が、 鞍馬山へ向かう 者あれば陰陽師と言ったのさ。 小僧と小娘
を連れたな」
「それだけでお分かりに? 素晴らしいです ねぇ。 しかし……」
お師匠様が男共の後ろの牛車に気が付いた。
黒い牛車が怪しい様子で停まっている。
貴族が乗る少し飾りのある牛車だ。
「お? 牛車に気付いたか。 だがお前らの相 手は俺達よ」
牛車を守る様に、男共が構える。
「頼もしい人達だ」
春保様が口を挟むと……。
突如男共が襲い掛かってきた!
手には鎌や小刀を持ち、私達目掛け走り出す!
「うぉー‼︎」
雄叫びをあげ、砂煙舞い上がる中突進してくる。
「ふん! 小者めが……」
春保様がそう言うと、懐から何やら取り出し男共の前に投げ捨てた。
「うわ‼︎ 何だ!」
突如倒れる者達。倒れると言うか吹き飛ばされた……。
「何しやがる!」
怒り狂い立ち上がった男が、再び襲い掛かるが、見えない何かに遮られているかの様に、こちらに来れない。
「貴方方ではお相手にはならないそうですね ぇ……」
扇子を口元にあてながら、お師匠様が呟く。
「牛車の中から出てきたら? 仲間がやられ ちゃうよ?」
牛車に向かい声をかけた。
「うるせー! まだまだ!」
男共がいきがるも、既に動けない状態になっていた。
見えない縄で縛られているのか。
私は固唾を飲んで見守るしかない。
「ふぅ。やれやれ……」
牛車から声がし、誰かがのそり。降りて来た。
見れば身の丈遥かに高く、肉付きが良い。
僧のなりをし、手には長い棍棒を握っている。
「わ〜‼︎ いかにもって人が出て来たよ⁉︎」
声音が弾む春保様。何か嬉し気なご様子。
ゆっくりと私達の前に歩み寄る。
「ぬしらが陰陽師と、 力持つ者か?」
「如何にも……」
「そこの小僧と小娘が我らの仲間をめし取っ たと言うのか」
「私の弟子の陰陽師が、 そちらのお仲間 を捕らえました。 あっと言う間に……」
かっと目が開いたが、直ぐに元に戻った。
そして怪しく笑い 「中々の力を持っておる様な。 しかしまさかこんな童にやられるとは……」
「人は見かけに寄りませんよ。 この者達は力強き者達です。 小者の相手にはならないでしょう」
パチンっと扇子を閉じ、お師匠様が笑った。
「ほほう。 言ってくれるなぁ」
一歩。 また一歩。男が近付く。
「お師匠様にお褒め頂いたので、 ちょっと試していい?」
春保様が前に出た。
「この小僧か……。 我の相手にはなるまいよ」
「さあて……」
楽し気に言う春保様。
お師匠様は見守っている。
「あんた僧か何か? ここで相手してもいいけど、怪我するよ?」
右手を後ろにし、印を結んだ。
「言ってくれるわい。 だがこの先には行けぬ」
「それは困ったなぁ。 でも先に行かなきゃならないんだよね?」
言うや否や、春保様のお身体が宙を舞った。
そして男の後ろに降り立つ。
「ふん! 面白し……」
振り返り棍棒を春保様目掛け振り落とすが、舞を踊るかの様に棍棒をかわす。
すかさず棍棒を振り回し、春保様に向かう。
「武器を振り回すだけなんて、能がないね」
口元に右手の二本指をあて、呪を唱えた。
そしてその指を地面に着ける。
突然地響きがし、物凄い轟音と共に地面が割れ始めた。
男の真下の地面に大きな穴があき、逃げる間もなく落ちてしまった。
直ぐさま地面が音を立て閉じ始める。
もがくが壁に挟まれ手遅れであった。
土埃が舞い上がり、なす術もなく姿が消えた……。
「あっと言う間でしたねぇ。 見事でしたよ。 さすがは陰陽師」
嬉しそうに地面を見やるお師匠様。
「呆気なく過ぎました。 もう少し何かあると思ったのですが……」
「いやいや十分です。 さて……」
捕らえられた男共を見た。
戦意は喪失している様だ。
「まあ、 放っておきましょう。 さ、 先を行きますか」
何だか疲れを覚えたが先を急いだ。
お師匠様と春保様は相変わらず嬉しそうなお顔をしていた。




