大内裏へ。
四神の気配を感じつつ、私達は宮中へ向かった。
相手は内裏にいると白虎が教えてくれた。
内裏へは、陰陽寮のある入り口から入った。
余り怪しまれる事はない。
しかし、なるべく他の者には気付かれない様に入らなければ。
私達は一旦お師匠様の邸へ向かい、陰陽寮のある門から中へ進む。
お師匠のの邸は内裏に近い。それに邸から使いの者が来たとも思わせられる。
さり気なく帝の住まいがある大内裏へ。
しかしとても広い敷地。このままでは目立ってしまう。
ゆっくりと内裏から大内裏へ進むが、警備の者が見回りをしていた。
(如何致しましょう……)
不安をぶつけた。
(うーん。 思った程人がいるね。 じゃ、 結界張って様子見ようか。 後は……。 式を飛ばして大内裏の様子も探らなきゃ)
(四神に探って頂いたら?)
(ダメだよ。 気配が強すぎる。 いくら四神が気配を消しても、 残る気配で分かってしまうし)
そうか……。 私は晴保様のお言葉に従った。
陰陽寮の建物の陰に、結界を張り式を飛ばす。 チョウの式は違和感なく大内裏の方へ飛んで行った。
(式神も見破られてしまうのでは?)
私の問いに (僕の時代の式はね。 優秀なんだよ。 本物のチョウだからね)
意味が理解できなかったが、とにかく式のかえりを待った。
暫くしてチョウが戻って来た。
警備の者達も少なくなったので再び内裏へ向かう。
そしてそのまま大内裏へ。
人がまばらとは言っても、やはり目立ってしまうとの心配をよそに、大内裏へ進んだ。
(晴保様……。 いくら何でも目立ってしまうのでは?)
(うん。 拉致あかないから気配消した。 言うなれば僕達はその辺の石ころみたいな物だよ。 宮中にいる人達は殆ど操られてるらしいからね。 面倒だし、 気配消したよ)
(その様な事が……? 不思議なお方と言うか、 素晴らしいお力をお持ちで驚きました。 あの、 そう言えば先ほどのチョウは?)
(道案内してるよ?)
再び驚いた。
先ほどまでいたチョウの姿はない。
しかし大内裏までの案内をしていると言う。
考えても頭の中が整理できないので、全てお任せする事にした。
長い渡殿を通り、大内裏へ到着した。
ここが帝のお住まい……。
しかし、ただならぬ空気に包まれていて、気分が優れなくなる。
重たい、嫌な空気だ。
私達はある一室へ入った。
(ここからなら、 もっと様子が分かる)
そう言うと、何やら呟きだした。
どこかの国の言葉の様だ。
(清涼殿にいるね。 悪しき者の配下が。 帝を操り好き勝手やってるよ。 まあ、事情があるらしいから、 表面的には大人しくしているけど。 本当にあからさまに牛耳ってるよ)
まるでその光景が見えているかの様に話した。
(帝の外戚になりたき者は沢山おります。 あわよくば、 皇太子様の外祖父にと。 人間の欲望が渦を巻く。 それがこの場所でございます)
人間の欲望の為に、お心傷める方がいる。
悪しき者は、心無きものなのだろう。
(とにかく。 小物から片付いてもらわないとね。 あ、 四神いるよね? 待機して欲しいんだ。 もうすぐ騒動起こすから)
神妙な顔でそう言った。
と、 急に大きな声が廊下から響き渡った。
「どう言う事なのだ! あの者は異界へと送ったはずではなかったのか! 」
太い声。 女人ではもちろんない。
ドシドシと足音も響く。
そして、簾をあげ勢いよく私達のいる部屋へ入って来た。
几帳が一つ立っているし、結界も張ってある為、こちらには気がつかないが、私の心中は穏やかではなかった。
「確かに異界に送ったと……」
もう一人は、か弱い男の人の声をだ。
どうやら私の事を話しているらしい。
顔は見えないけれど、相当怒りを露わにしている。
「なれば何故! 鞍馬山に気配が残っているのだ! 主が申しておった!」
「そ、 それは……」
一体どなたが話しているのだろうか。
「仮に戻って来たとしても、 問題はありません。 手の者を使い必ずや……」
「まあ良い。 何とかいたせ。 それより暗い。 灯りをともせ」
その言葉を聴き、晴保様が立ち上がった。
いつの間にか手に灯りを持っている。
晴保様は声の主の方へ歩き出した。
慌てて私は四神に呼びかける。
「はいはーい。 灯り持って来たよ」
几帳をずらし、相手の前に出た。
晴保様に気が付くと、当然だが驚いて声をあげた。
「な、 何奴!」
「別に? 灯りを持って来てあげただけ。 あ、 後お二人に出ていってもらおうかとおもって」
「訛りがある声……。 そして気配も消せる。 あの娘の味方⁈ 異国の者か⁈」
「ちょっと惜しいなぁ。 あの子の味方だけど、 異国の者じゃないよ。 まあ、 同んなじかな? どうでもいいけど、 早く出ていってくれる?」
ゆっくりと、穏やかにそう言って燭台に火を灯した。
灯りがつき、はっきりと顔が見えた。
一人は黒い袈裟を纏っていて、僧の様ななりをし、頭から黒い頭巾を被っている。
もう一人は身なりの良い格好をし、烏帽子を被っている。
しかし、良い着物に似つかわしくない程太っている。
「いきなり出て参って、 ここから去れとは。
無礼であろう」
すこし落ち着いた声で返した。
黒服の男である。
御座に座っている。隣で烏帽子の男がこちらをじっと睨む。
「でも、困るんだよね? 出て行ってもらわないと」
男達のまえに立った。
「無礼者め! これから我が娘を帝に嫁がせ、 縁を結んだのだ!邪魔だていたすな!」
娘を? ではこの方が左大臣? あの姫君は帝に……。
几帳越しに様子を伺っていた私だが、思わす飛び出してしまった。
「うぬ? お前は確か陰陽師の弟子! やはり異界から戻って来たのか!」
「どうでもいいじゃん。 自分の居場所に戻って何が悪いの?」
「なればお主が⁈」
「あー! もう! 早く出て行ってよ!」
晴保様がそう叫ぶと、凄まじい風が吹いた。
渦を巻き二人に襲いかかる。
黒服の男は立ち上がり、 両手で風を弾いた。
左大臣は慌てて逃げ出す。
「術を使うのか。 面白い」
何やら呟き 片手を振りかざした。
パシッと何かをはじく晴保様。
「面倒だな……」
そう言うと雷鳴が轟く様な音が響いた。
同時に光が走る。
「ぐっ……」
鈍い声がちいさく聞こえた。
「おのれ!」
そう叫ぶが、目が見えないらしい。
頭巾は光を遮断しなかった様だ。
「後は宜しく」
気配を現した四神に向かいそう言うと、私の手を引き歩きだした。
「うぬら、 待てぃ!」
尚も叫ぶが晴保様は歩みを止めない。
「晴保様! どちらへ?」
「帝のとこ。 後、 姫君の所かな」
普通に会話できているのを忘れ、尋ねてハッとした。
「お言葉通じるのですね?」
「そうみたい。 適応能力あるかもね」
私は今一つ理解しかねるが、言葉を口に出来る事が嬉しかった。
「お尋ねしますが、 あの者達は大丈夫なのでしょうか?」
「平気だよ。 ご芒星引いたから。 あの中からは出られないし、 後は四神にまかせたしね」
そうですか……。
私は何も言えなかった。




