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宮中へ

春保様の唐突なお言葉に、返す答えが見つからない。


(いやはや。 頼もしい言葉です。 いきなり押し掛けるとは、 考えも及びませんでした)


楽し気に笑うお師匠様と、嬉しそうな春保様は、やはり同じ家系のお方であろう。


(いずれは対峙する事になります。 こちらから仕掛けるのは得策やも知れません。 しかしながら、 相手もそれなりです。 安易に考えてはなりませんぞ)


(それは承知の上です。 ですが、宮中を乗っ取った相手はそれ程の者ではない。 確かに楠葉を時空超えさせた者もおりますが、 まあ何とかなるでしょう。 まずは宮中を取り戻し、 相手の出方を待ちます。 直ぐに動きがあるだろうと……)


(ほう。 そこまでお考えとは。 またまた驚きですねぇ。 宮中を取り戻せれば、 一先ず安堵致します。 皇太子様も、 妃様も、 お心が休まります。 して、 どの様にして宮中に? 内裏にさえ近づくのも難儀な事ゆえ)


(まあ、 コソコソしても仕方ないし、 偵察してからですが正面からバーンと。 いや、 裏から? とにかくバーンとです)


(ほほう。 不思議な言葉ですが、 バーンとお願い致しますよ。 楠葉も、 春保殿と力併せて頼みます)



思いもよらぬ事態なのだろう。

しかし、お言葉に従うしかない。


一抹の不安など、感じてはならない。

運命、使命。 私達を取り巻くものからは逃れられないのだから。

あがいても、仕方ない物がある。


ならば流されてみるまで。



その晩は様々な思いを抱いたが、懐かしい何かに包まれ眠りについた。



翌朝ーー。


井戸へ水を汲みに外へ出た。


井戸の中を覗き込む春保様の姿があった。


(あの……。 何をなさっているのですか?)


(わっ! びっくりした。 おどかさないでよ。 あ、 水汲むの? 手伝うよ)


(ありがとうございます。 で、 如何致しましたか? 井戸に何か?)


(いや、 別に。 ただ、きれいな水だなぁってさ。 僕の時代の水とは全然違うね。 楠葉も思ったでしょ? 時代が違うと何でも違うよね。 楠葉の気持ち、 分かったよ)


そう。 時代が違うと全てが違い、戸惑う。

私も千年後に行ってしまった時は、戸惑い不安にかられた。 そんな時、春保様の温かさに触れ勇気付られた。


私も。 春保様の不安な気持ちをお察しし、できる限りの事をさせて頂きたい。



(でも。 この水の中とか、 一見して安心できるこの森も、 決して安全じゃない。 強い結界を張ってあるから、 まあ余り心配は要らないけど。 念のため僕も結界を張っておいたよ。 厳重警戒。 ないよりいいでしょ? お師匠様なら大丈夫だけどね)


森を見渡し、そう仰った。

そして井戸の水を汲み、邸の中へと戻られた。


朝げを取った私達は、改めてお師匠様にご挨拶をした。

そして四神達にも色々頼み、森を後にした。


(気を付けて。 無理はしない様に。 私はいつでも見守っていますよ)


(行って参ります。 必ずや宮中を)


春保様と私は、紅い宝玉を胸から下げ、春保様はご自分の数珠を狩衣の袖にしまった。


やはり代々お家に伝わる数珠らしく、大き目の珠は、紅く光っていた。

お師匠様の後に伝わった物らしい。


懐には式も忍ばせてある。


(準備はきちんとね。 何があるか分からないし)


森を出て、宮中までの大路を二人歩く。

余計な気配を消し、町人を装う。


市女笠を被り、目立たぬ様に。


宮中へと向かう。

この先、何があるのか分からぬとも、春保様と共に……。

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