再会
鬱蒼と木々が立ち並び、薄暗い森は、まるで全ての物を拒んでいる様でもあった。
春保様と私は、ゆっくり森の中へと歩みを進めた。
地面に落ちた木の枝や葉が、歩く度に音を出す。
静けさの森の唯一の音……。
(大丈夫?)
不意に声をかけられ、ビクっと身体が震えた。
様々な思いが頭を巡る中、私の足取りが重くなっていたのだろう。
(大丈夫で御座います。 少し、 考え事をしてしまいました……)
(時を超えた再会だもんね。 緊張するか。 それより……。 何処に居るのかな。 君のお師匠様)
(……分かりませぬ。 この森にお隠れになられているとしか。 申し訳ありません……)
(いや、 謝る事ないでしょ。 考えれば分かるよ。 て言うか、 感じる物があるし)
そう仰り、私の手を取った。
当てもなく森を歩く訳でなく、何かに導かれるかの様に歩く。
暫くすると、一本の大きなくすのきの前に来た。
幹が太く、左右に伸びた枝は他の木々に絡まり、そびえる木は空まで届くかの様である。
おもむろに、木の前に立ち、春保様は右手を幹に当てた。
目をつむり、何やら呟いた。
ゆっくり目を開き、私の方へ振り向いた時……。
「変わりなさそうですね。 安堵致しましたよ」
木の向こう側から、聞き慣れた声がした。
こちらへ向かう影を見て、私は目頭が熱くなった。
「お師匠様……」
涙を堪えた。
「永きに渡り、 苦労をかけました。 変わりなく良かったです」
お師匠様が私達に近付き、そう仰った。
(春保殿、ですか? この度はお世話になりました。 永い時を超え、 私の言い伝えを守って頂き、 礼を述べます。 楠葉を無事に戻して頂いた事も、 有難く……)
(僕は自分の運命と、 家の教えに従ったまでです。 我が家の祖である陰陽師の……。 それに時空越え何て、 面白いし。 平安の都と楠葉を守る事が使命なら、 従うまで)
(実に頼もしい方だ。 我が子孫と対話できるとは。 まこと、 有難い)
時を超えた対面を、私は静かに見守った。
やはり、お師匠様に似ていらっしゃる?
(さて、 感動はここまでです。 承知の通り、 都は悪しきものの手の中です。 私も邸に居られなくなり、 この森に身を隠しています。 結界を張った庵が今の邸です。 さあ、 行きましょうか)
お師匠様の後に続き、再び歩き出した。
森の奥深くに、庵が建てられている。
小さな茅葺屋根の庵である。
簡単な造りだが、こぎれいな邸だ。
中に通され、藁座の上に座った。
開け放たれた蔀戸から、木々の葉の香りが涼し気な風に乗り漂う。
(さて、 何処からお話致しましょうか。 貴方方の事は、 天一から聴いております。 特に春保殿のお力は、 素晴らしいと。 都を救って頂けると思っております)
(平安の都は、 とんでもない力に支配されている。 鞍馬山でも感じました。 千年経っても残る力がある者……。 鞍馬山の天狗でしょう。 ご先祖様も……。 えーと変な言い方か。 では。 お師匠様もご存知かと。 後、 神様達も)
(お師匠様とは。 愉快ですねぇ。 まあご先祖様より宜しいですが。 で、 鞍馬山の天狗ですか……。 いやいや流石です。 私も色々と聴き及んでおりますが、 中々もって難しい相手。 簡単にはいきません。 しかし、 お二人が揃われた。 相手も驚きますねぇ。 一人増えたのだから。 しかも力強き方だ)
白湯を手に取り、一口飲んだ。
懐かしいお師匠のお姿。
しかし、感慨深くはしてはいられない。
春保様と、お師匠様と都を取り戻さねば。
そして、あの姫君が再び心穏やかになられる日を戻して差し上げたい。
(邸から、 必要な物は持って参りました。 色々占いもできます。 あちらの様子も探れますが……)
(いえ……。 わざわざ、 こちらの事を教えなくてもいいかと。 いきなりドーン! と宮中に行きます。 手っ取り早く)
(えーと? 何と仰りました? )
春保様のお言葉が理解できずにいた。
しかし、宮中に押し掛ける事は何と無く理解できた。
(驚きましたね……。 時代の変化とはおかしい。 頼もしいお言葉ですが、 良い策がおありでしょうか?)
流石のお師匠様も驚いたご様子。
いきなり押し掛けるなど、命を捨てるも同然。
しかし、春保様は違っていた。
(策だの何だの言っていても仕方ありません。 直接行くに限ります。 明日にでも、 楠葉と宮中に行きます!)
何と言うお方……。
武将か何かなのでしょうか……。
私は呆然と春保様を見つめた。
お師匠様は愉快そうに笑みを浮かべている。
このお方、大丈夫なのでしょうか。




