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鞍馬から平安へ

一旦、春保様の邸へ戻り鞍馬山へと参る準備をした。

準備と言っても荷物などはなく、着物の袖や合わせに何やら入れただけである。


(あの……。 本当に鞍馬のお山なのでしょうか……? )


(うん。 多分ね。 陰陽が隣り合わせになっている山だし。 天狗が出るって言うしね。 仏の教えを守る者。 反対に逆らう者。 不思議な山だし、 安易な考えとも思うけど。 妥当な線だよね)


(そうですか……。 私は春保様を信じます)



鞍馬山。 お師匠と修行の為に幾度か参った山。

まさか、悪しきものの巣窟になっているとは……。


私は春保様にこの時代の履物を用意して頂いた。

春保様も、白の狩衣を纏っているが、足元は草履でない。


険しい山に登るのだから。


(しかし、 鞍馬山までは遠い道のりになるのでは? )


(時代は変わったんだよ。 楠葉には考えられない物が沢山ある。 まあ、 着いて来てよ)



そう仰った春保様は、邸の者に何やら話をした後、自分の場所を後にした。


戻る事はない。


見えないお覚悟を私は悟った。


邸を出て間も無く、 私達は大きな箱の中へ入った。


(こ、 これは⁈ 乗り物なのでしょうか……)


(そう。 バスって言うんだ。 鞍馬山まで直ぐだよ。 ね? 時代は変わったでしょ?)


(は、はあ……)


大きな箱の様な乗り物。 人が動かしている。


私は戸惑いながらも、 乗り物に揺られた。

乗り合わせた人達の視線を感じながら。


幾分か時が経ち、私達は乗り物を降りた。

少し気分が悪くなったが、牛車よりも乗り心地が良い。


(さて、 いよいよだね)


目の前にそびえ立つ山を前に、足がすくむ。


山道を登り、人影のない鬱蒼とした場所へと辿り着いた。


(やっぱりね。 気を感じるよ。 千年前、 確かにここに何かがあった……)


(悪しきもの、 ですか?)


(恐らく。 この力では、都も一溜まりない。

いや、 都どころじゃないよ)


身体に衝撃を受けた。


(脅かさないで下さいませ……)


(本当の事だよ。 都を手に入れたいもの。 逆賊もいた。 闘いコマを必要としたし、 都だけでなく、 各地に反乱を起こした。 天狗か何かは大将として、 その者達を動かしていた……)


(この山で?)


(都合のいい場所だからね。 詳細は、 まあ千年前に行ったら分かるよ)


そう言うと懐から何やらを出した。


(では。 千年前の力を貸してもらおうか)


地面に足で線をひく。


(しかし、 安易な考えで良かったよ。 鞍馬山の天狗。 と思うけど、 都を手に入れたいものと、 世の中を手に入れたいものが手を組んだ。 都は不思議な力で護れているし、 陰陽師もいる。 四神どころか、他の神々をも使役に下した者がいたら、手も足も出ない。 で、

色々考えた結果、 楠葉を異世界へと送った。

だけど、 神々の力で僕のいる時代へ来た。

誤算だったけど気付いてないよ。 で、 逆にそこまでできる者は誰か。 こちらにヒントをくれた。 で、鞍馬山。 力が強い為、 千年経っても力の痕跡が残ってしまった訳)



丁寧にお話して下さるが、なんと無くしか理解できない……。


とにかく、元の世に戻れるなら。


私は春保様を見守った。


暫くして、地面に大きな五芒星が描かれた。


(まあ、 こんなもんかなぁ。 中々大変だよね。 これ描くの)


そう言い、 五芒星の真ん中へ立った。

私も誘われ、真ん中に立つ。


(じゃぁ、 四神呼んでくれる? )


(四神を配置させるのですか?)


(そう。 力を借りなきゃね)


笑顔を見せた。


私は言われた通り、四神を呼び出した。


(こう言う事か……。 大体の事は察していたが。 まあ、 妥当なやり方だな)


白虎が口を開いた。


他の四神達も気配を現した。


(テンション上がるよなぁ。 やっぱり!)


喜びを露わにする春保様を他所に、私は四神をそれぞれに配置した。


千年後であろうが、神たるもの。やはりそこは自在であるらしい……。



東に青龍

西に白虎

南に朱雀

北に玄武


霊獣の姿である。


(それでは……)


春保様が印を胸の辺りで結び、何やら唱え始めた。


そして、その手を上げ、空に何かを描く。


すると、四神を配置した場所が光出した。

それぞれの場所から放たれた光が、空へと舞い上がり、一つになる。

その一つの光が私達へと降り注いだ。


不思議な光景であった。

強く柔らかな光が、優しく降り注ぐ。

身体が軽くなり、己が無くなってしまう様な気がした……。


二人が溶けていく。


「いざ、 出陣。 かな?」


春保様が何か囁いた。



ーーやがて


光が消えた。

身体が一気に重くなり、私は思わず膝間づいてしまった。


ここは? 状況が分からない。


(無事帰還。 上手くいったね)


私に手を差し伸べながら、春保様が微笑んだ。


五芒星は消えていて、四神の姿もない。

気配のみ、感じる。


(あの……。 今、 何が?)


(だから、 上手くいったって。 だから! 戻って来たの。 君は! )


春保様の言葉にハッとした。


戻って来た……? 平安の世に?


(まあ、 僕は初めての世界だけどね。 でも、

何かワクワクするよ)


そう仰った春保様。 不安がないはずなど……。


(自分の運命に従うと決めたんだよ。 悪者を倒す為にね。 だから、 君と来たんだ。 この世界に……)


迷いのない真っ直ぐなお姿。 より一層、頼もしく感じる。


(じゃ、早速君のお師匠様の所へ行こうか。 きっと待ってるよ。 何たって凄い陰陽師なんだから。 大体の事は分かってるでしょ。 それに……。 ここはあんまり長居する場所じゃないしね)


(確かに……。 余り良い所ではありませんね……。 お師匠様の所へ参りましょう。 確か今は……)


(狐の森だっけ? じゃ、 さっさと行こうか)


そう仰り、四神の白虎を呼び出す様依頼された。


(全く……)


不服そうな白虎の背に乗り、私達は山を降りた。


風の如く走る白虎。


楽し気な春保様……。


少し。 不安を覚えた。



(着いたぞ。 全く暴れるのはどうかと思うが。 背に乗せるのは構わないが……)


そう言うと姿を消した。


目の前には、千年前の狐の森が広がっていて、 やっと戻って来れた……。


私は感慨深く見渡した。


森へ一歩。 足を踏み入れる。 春保様は後から着いて来てくださっている。


夢の中にいる様な、そんな心持ちがした。


しかし、現実に私はここにいる。

目頭が熱くなる。 一歩一歩。力強く森の中へと進んだ。


お師匠様の元へ……。

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