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千年前と千年後と

私達は、森を後にし春保様の邸へ戻った。


(まあ、 色々知る事ができたし。 今日はゆっくりして、 明日また考えよう)


夕闇が迫る参道を歩きながらそう言った。

春保様のお(いえ) は神社である。

代々古くからの家柄らしい。 お師匠様の家系なので、大層ご利益があると言う。


私は初めてここを訪れた時に目に入った懐かしい感じのする木の側に行った。


楠の木……。 私の名前の由来の木。

お師匠様の邸にある物だ。


時が経とうとも、今残るものがここにある。


私は少し、安心できた。


(今日はこの部屋で休みなよ)


そう言って通された部屋は、小さな部屋で、

几帳も御簾も無い。


仕方ないか。 時代が変われば様式も違う。

慣れなければならぬ事もある。


しかし、案外気になる事は余りなかった。


(お茶淹れるね。 あ、 お腹空かない?)


お優しい春保様は、色々気にかけて下さる。

殿方社会の私の世では、考えられない。


(では、 お茶を……)


そう言い、お茶を頂いた。


平安の世では、まず高貴な方しか口にできない物。

しかし、今の世では簡単に口にできる。


お茶と言う物を初めて飲んだ。


(何か食べようか)


私は春保様にもてなしを受け、食事を頂く事になった。


女が支度をしないで良いのか。

そう思ったが、春保様の考えは違い、休んでいて。 そう仰った。


何だか姫君になった様な、不思議な感じが

した。


夜になり、柔らかな褥で眠る。

未だ信じられぬ事が、頭に浮かび、また消える。

この先の自分の行く末や、お師匠様、あの姫君の事を案じながら眠りについた。



翌朝になり、食事を頂き早速手掛かりを求めて、私達は外に出た。


(思ったんだけどさ。 楠葉が怪しい奴に出会って、こっちに飛ばされた橋。 そこに行けば何かしら分かるかなぁ。 と……)


(橋、 ですか? )


(そう。 橋)


嫌な面もちになる。 あの時の事を思い出してしまう。

しかし、嘆いていても先には進まない。

ならば、行くしかない。


私は自分が飛ばされたと思われる橋へと、

案内した。


(ここでございます……)


小さく呟いた。


(ふーん……。 成る程ね。 うーん)


あちこち橋を見回る春保様。

一人何か言っている。 私は理解ができず、ただ見守った。


(やっぱり。 時空の歪みの跡みたいな物が

残ってる。 楠葉を飛ばしたと言う、 怪しい奴は、時空に歪みを作ったんだ。 で、 楠葉をこちらへ飛ばした。 時代は流石に選べなかった……。 神の力が働いたから)


まるで仰る事が分からない。

何を言っておられるのだろうか。


春保様の言葉は、詩の如く流れ耳に入る。

しかし、分からぬ事ばかりである。


(あの……。 私に分かりませぬが、怪しき者の何かがあると?)


理解を求め、尋ねた。


(うん。 何らかの力の跡。 強い力を生じさせれば、 何かしらその跡が残ってしまう。

まあ、 余り力が強いものではないね。 跡を

残してしまうんだから。 本当にすごい奴とかだったら、 何も残さないよ)


未だ理解はできぬが、春保様の陰陽師としてのお力は、相当な物だと実感した。


(結界かぁ。 で、 その後に……)


思案げになさる姿。 お師匠様と重なった。


(力が強い物。 怪しい奴……。 定番だなぁ。

あそこか)


そう言い、私の方へと向かって来た。


(鞍馬山だよ。 敵の陣地)


(くらま……山ですか? なにゆえに?)


(単純的考えでいけば、 色んな力がある山だからね。 恐らく天狗か何かだと思う。 仏の山だけど、 同時に逆のものも集まる山。多分そこを拠点に動いていた。 まあ、 平安時代では、 動いている。 と言った方がいいか)


私の手を取り、歩き出した。


(あ、 あの! 鞍馬山に参るのですか?)


(うん。 行くしかないでしょ。 だって拠点なんだから。 千年前と千年後、 多分同時期に

なるはず。 うーん。 つまり、 千年前に鞍馬山に敵がいるって事……)


やはり分からぬが、今鞍馬山に行けば、平安の世に戻れるやも知れぬと?


私は春保様に手をひかれ、思いを巡らせた。


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