6 マダム・メリアの洋装店
無事お金を手に入れることができた私とサミーは、アルバンに連れられてセルリア銀行を出た。
サミーは眩しそうに眼を細めていたが、アルバンはそんなことなど気にしてらんないといった様子だった。
「――まずは制服だな」
アルバンは、遠くに見える看板を顎で差した。
「俺はちょっとカエデ市長で元気薬をひっかけてくるぞ。さっきのトロッコにはまいった」
アルバンは青い顔のまま、カエデ市長の方角へ引き返してしまった。
私はつい気になり、アルバンに尋ねた。
「なあサミー、トロッコってなんだ?」
「セルリアの金庫にはトロッコで行くんだ。ジェットコースターなんて比にならないぐらいのスピードだよ――多分、アルバンはただの乗り物酔いだと思う」
なるほど。
いつか乗ってみたい――とは思ったが、まあいつかは乗ることになるだろう。
それから、私たちはアルバンの言っていた店の前に来た。
「”マダム・メリアの洋装店”――アルバンが言ってたのは多分ここよね?」
「うん、そうだと思う」
私は恐る恐る扉を開き、中を覗き込む。
そこにはずんぐりとした女性がおり、覗いた瞬間に目があった。
「あら、お客さんね。あなたたちもハルフォード?」
おそらく、彼女こそが店主のマダム・メリアなのだろう。
私が頷くと、メリアはニコニコ笑って言った。
「それなら、ここで全部そろいますよ――どうです? 早速採寸しませんか?」
再び頷くと、彼女は店の奥へと案内してくれた。
店の奥では既に採寸を行っている少年が一人おり、その横に私が、そして私の横にサミーが並んだ。
メリアは私の頭から長いローブを被せると、丈に合わせてピンを挿し始める。
「喋ってもいいけど、動かないでね」
メリアにそう言われたので、目だけを動かしてあたりを観察した。
(ぱっとみは、普通の洋服店だな……)
少しばかり、がっかりした。
もっと、こう――少しぐらい虹色に光る布とか、宙に浮かぶローブとかがあっても良かったのに……
そう思っていると、隣にいた少年が、私に話しかけてきた。
「やあ、君も今年からハルフォードかい?」
その少年は私のように白い肌をしており、まるで蛇のような容姿をしていた。
「ええ、そうみたい」
「そうか。じゃあハルフォードで必要なものの買い出しってわけだ」
少年は気取った声色で続ける。
「父上は隣で教科書を買ってるし、母上はどこかで杖を見てる。まあでも、僕が一番欲しいのは箒だね。1年生が箒を持ち込めないなんて、僕には関係ない。父上を脅して、こっそり持ち込んでやる」
少年は自慢げにそう言ったが、私は競技用の箒という単語に興味が湧いた。
「競技用の箒?」
「そうさ。ヴォルパスの新型が出たんだ。今までの箒とは段違いに速いに違いない。君は箒は持っているかい?」
少年は私の方を振り向くと、私の顔を見て少し固まる。
そして少々顔を赤くして目線を逸らした。
「いいえ、持ってないわ」
「じゃあスタングリアはやらないんだね」
「スタングリア?」
私がそう聞き返すと、少年は少し意外そうな声を出す。
「スタングリアを知らないの? もしかして、マジックレス出身か?」
「マジックレスって?」
「魔法使いじゃない人間のことさ」
魔法使いじゃない人間の子供が魔法使いになることがあるのか。
いいことを聞いたかもしれない。
「わからないわ。私に両親はいないし」
「死んだの?」
「多分」
少年は歯に衣着せぬ物言いでそう言うが、私も特に気にすることなくそう返す。
私自身、私の両親のことなど、割とどうでもいいと思っていた。
既に死んだか、ただ私を捨てただけかはわからないが、どちらにしろロクな親ではないだろう。
「そうか。きっと魔法使いだよ。そうに決まってるさ」
少年は慰めているのか、そんなことを言った。
少年の物言いからして、魔法界には「魔法使いから生まれた魔法使いのほうが優秀である」というジンクスでもあるのだろう。
「私は生まれてからずっと孤児院で暮らしてきたから魔法界には詳しくないの。色々教えてくれると助かるわ――その様子だと、どこかいいところの生まれなんでしょう?」
「よくわかったね」
「そんな雰囲気が出てるもの」
高貴なオーラというよりかは、見た目がいいとこのお坊ちゃんだ。
これで「両親は田舎で牧場を~」なんて言われたら、逆に驚くところである。
「まあね。将来グリアベルク家を背負うものとしてはそれぐらい……僕はニール。ニール・グリアベルクだ」
「私はエリカ・ホワイト。エリカでいいわよ」
私はニールの顔を見て微笑む。
ニールは白い顔を少し赤くすると、軽く咳払いをした。
「エリカか……ところで、そっちの少年は?」
ニールはそういうと、同じく(だがぎこちなく)採寸を受けていたサミーの方を見た。
「ああ、彼は私と同じで両親がいないの。だから一緒に買い出しに来たってわけ」
「二人でかい?」
「ううん、ハルフォードの先生が案内してくれてるの。彼とあったのは今日が初めてね」
私はあえてサミーの名前を出さなかった。
また騒がれたら面倒だし、必要なら本人が名乗るだろう。
「ふうん……って、もしかして君の案内って……」
ニールは、窓の外を顎で指した。
そこには大きなアイスクリームを、器用に三つ持っているアルバンの姿があった。
「ええ、彼ね」
「へ、へぇ。アルバンが案内か……まあ召使いのようなものだし荷物持ちぐらいにはなるか」
「確かに力は強そうね」
アルバンは店の扉を開けようとするが、両手にアイスを持っていたことを思い出したらしく、店の前で待つことにしたようだった。
ニールはアルバンのそんな様子を鼻で笑うと、そのまま言葉を続ける。
「野蛮人だって話だ。学校の領地内の掘っ立て小屋に住んでいて、土人のような生活をしてるって」
「彼って──」
「あら、遅れてるわよニール。最近はそういうの流行ってるんだから。自然に囲まれた生活を求めてわざわざ都会から田舎に引っ越す人もいるみたい」
私はサミーが何か言う前に割り込む。
ニールは意外を通り越して不思議そうな顔をしていた。
「わざわざ文明レベルを下げるなんて……マジックレスのやることは分からないな」
「それには同感ね。わざわざお金をかけてまでやることではないと私は思うわ。まあ私は孤児院暮らしだから、生活はみすぼらしいんだけどね」
「ならよかったじゃないか――ハルフォードは寮だから、今の孤児院からは離れられる」
まあ、確かにそうなのだ。
ハルフォードでの生活がどのようなものなのかはわからないが、孤児院よりかは裕福な生活が送れそうである。
「さあ終わりましたよ。おぼっちゃん」
私がハルフォードでの生活を想像していると、ニールの採寸が終わったようだった。
「じゃあハルフォードで。エリカ」
ニールはぴょんと踏み台から飛び降りると、魔法によって一瞬で縫い終わったローブの入った袋を片手に店を出ていく。
そして店の外にいるアルバンを軽く睨むと、鼻を鳴らして通りを歩いて行った。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
面白いと思ってくださりましたら、ブックマークと星5つでの評価をお願いします




